金融政策と財政政策について、対立するかのように語られることが散見されます。

ラグなどから金融・財政の特徴について考えてみます。


マクロ経済政策に関するツイッターなどでのコメントを見ると、

「金融政策か財政政策のどちらが優れているか?」

「財政は効果があるが、金融は効果がない!」

「金融緩和したのに消費増税に負けた!」

などが見受けられます。


病気を治療するときに

「頭痛薬よりも胃腸薬の方が優れている!」

「胃腸薬は効果があるが、頭痛薬は効果がない!」

「点滴をうっていたのに、血液を体重の半分くらい抜いたら死んだじゃないか!」

と言っているようなものでしょうか(汗


なんでそうなるの…とも思います。

そもそも、マクロ経済政策とは何でしょうか?


基礎研WEB政治経済学用語辞典(*1)によると、マクロ経済政策には財政政策と金融政策があるようです。


“市場の失敗に対して政府が対処する政策には、個々の産業に対する規制や課税、補助金等の政策や、福祉・労働等の社会政策があるが、不況を防ぐことによって十分な総雇用を維持し、一般物価を安定させることも経済政策の重要な役割である。これが「マクロ経済政策」と呼ばれ、財政政策と金融政策に二分される。

 

 財政政策は政府によって担われ、不況からの回復には、政府支出の拡大や減税が行われ、景気の過熱を冷ますためには、政府支出の削減や増税が行われる。

 

 金融政策は中央銀行によって担われ、通常は特定の利子率(「政策金利」)を目安として、経済に出回っている貨幣の量(「貨幣供給量」)を調節する。不況やデフレの時は、貨幣供給量の増加を目指して金融緩和を行い、景気が過熱してインフレの時は、貨幣供給量を減らすために金融引き締めを行う。

 

 一般に先進資本主義国では、ブルジョワ階級に支持された政権は、不況対策に消極的で、減税やインフレ抑制、財政収支均衡を志向するマクロ経済政策を取り、労働者階級に支持された政権は、ある程度のインフレを甘受しても、総需要を拡大して失業を減らすことを志向するマクロ経済政策を取る。”(*1)


2014年4月の消費増税やそれ以降の政府支出削減は、景気過熱を冷ますためではなかったとしても、景気を落ち込ませましたね。財政政策の使い方を誤っている気がします。


金融政策では、日銀による「デフレ維持」がひどかったですね。第二次安倍政権以降の大胆な金融緩和でデフレ脱却しかかりました。デフレ脱却しかけただけで、雇用環境は大きく改善しましたね。

安倍晋三総理が推進した金融緩和は、労働者階級というか10〜20代(*2)、企業(*3)などに評価されているようです。



では、経済政策のラグ(ズレ、タイムラグ)を通して、金融政策と財政政策を比べてみましょう。


1)内部ラグ

経済情勢の把握から経済政策の実行迄

1-1)認知ラグ

経済現象を認知する迄

1-2)決定ラグ

政策当局が経済情勢を判断し経済政策の発動の決定を行う迄

1-3)実行ラグ

決定した政策を実行に移す迄

2)外部ラグ

政策実行から経済に効果が生じる迄


金融政策は決定ラグ、実行ラグが財政政策に比べて短く、外部ラグが長くなります。


金融政策は日銀の9人が金融政策決定会合(時には緊急開催もあり)で、即座に決定、実行することができます。過半数の5票を取ることが出来れば良いので、追加緩和が必要であれば、その政策提案に5人(片岡剛士さん、若田部昌澄さん、後3人)の賛成で決定・実行できます。


財政政策は、与党内の調整や国会での議論などを通じて法制化しないと実行できず、決定から実行までに時間がかかります。安倍晋三総理が消費増税延期のために(修正法案提出・可決に必須ではない)衆院解散したことを見ても、財政政策の決定から実行に時間とコストがかかることが分かります。


外部ラグですが、財政政策はどの部分にいくら、と直接的にお金を使うため効果が早く出ますが、金融政策は様々な波及経路を通じて経済に効果を及ぼすため、半年〜1,2年程度のラグがあると言われています。



安倍晋三総理は、デフレ脱却をかかげ、大胆な金融政策を推進するとともに、機動的な財政政策をアベノミクス第二の矢にかかげましたが、2013年度の財政拡張、2度の消費増税延期など以外は一般会計では緊縮的財政政策(SNA一般政府ベースでは微増)をとっています。


与党内の増税派や財務省に安倍政権が引きずられているのかもしれません。

安倍総理は、経済成長と財政再建の両立と言いながら(*4)、緊縮側へ引きずられてしまう残念さがあります。現状の財政状況を統合政府で説明して経済成長にこそ力をいれるべきです。


10%への消費増税を凍結せずに消費税率8%で(5%時に比べて)約8兆円のお金を更に吸い上げることを継続し、出国税や所得税の控除縮小など財政引締め的なことを着実に進めています。

減税と言えば、法人減税、復興法人税廃止、賃上減税くらいで、家計には冷たいままという印象です。

「PB黒字化がー」というのであれば、政府資産売却、政府紙幣発行など、増税以外の施策を黒字化するまで本気でやり切れば良いのではないでしょうか。外為特会の米国債を日銀に買い取らせる、政府紙幣を毎年20兆円デフレ脱却まで発行するとか、いかがでしょうか?


財政再建にはPB黒字化が必要だと思われている方は、拙ブログ記事(*5)をご一読下さると嬉しいです。PB赤字でも名目成長率が国債利回りを超え、政府の子会社と見做せる日銀が国債を450兆円程度保有しており、統合政府の純債務は100兆円を切っていると考えられます。



財政政策を行う際に気をつける点があると考えています。

景気対策として実施するもの(減税や給付金など)

恒常的に実施するもの(教育や国防費など)

を区別すること、そして、財政政策の効果を小さくしてしまう効果への配慮です。


浅田統一郎さんの著書(*6)では次のように書かれています。


"完全資本移動マンデル=フレミング・モデルにおいては、変動相場制下の財政政策は、一時的には有効であるが、長期的には無効になってしまうのである"(*6 , 190ページ)


原田泰さんの記事(*7)では次のように書かれています。


“第二に、金利が上がれば資本が流入して円高になる。円が上がれば輸出が減少して、公共事業の刺激効果を減殺するからである。これはマンデル=フレミング・モデルといわれるものの結果である。なお、クラウディング・アウト、マンデル=フレミング・モデルの意味するところは、「公共投資で景気を刺激したいのなら、同時に金融を緩和しなければ効果はない、もしくは減殺される」ということである。”(*7)


金融緩和を伴わない財政政策は効果が無いか減殺されてしまう、だから、金融緩和をやれ、という含意かと思います。


第二次安倍政権発足前の2012.10-12月、約493兆円だった名目GDPが2017.10-12月、約550兆円と57兆円増加しました。この増加時の経済政策は、拡張的金融政策+(13年度のみ拡張で後は増税含む)緊縮財政です。


野口旭さん、田中秀臣さんの共著『構造改革論の誤解』(*8, 166ページ)によれば、 1992/8〜98/11 120.52兆円の財出も40兆円弱の名目GDP増に留まり、デフレ脱却もままなりませんでした。


岡田靖さんは次の(*9)ようにデフレ脱却に必要な財政規模を推計されています。少し古いですが引用します。


岡田靖さん"現状を脱出するのに財政政策が妥当な政策という浜さんのご意見があっ たわけですが、これは財政によってデフレ脱却するためにどの程度まで景気を持ち 上げればいいかという推計に大きく依存します。私自身の推計では失業率が 3%程度まで下がらないと、需要面からデフレ、つまり労働市場の受給逼迫から賃金上昇、 そして物価上昇という経路は作用しません。

もしそれが正しければ、現状 5.5%程度の失業率を3%まで 2.5%動かさなければいけないわけですが、GDPとそれから失業率の間の関係を日本に関して推定すると、GDPが1ポイント動いても失業 率は 0.2 から 0.1 ポイント、つまりGDPを失業率の約5倍から 10 倍動かさなくてはいけないということがわかります。そうしますと2・5%の失業率の変化に必要なGDPの変化は12・5%から25%、金額にしますと50兆円から100兆円ということになります。これだけの財政赤字を何年かにわたって継続的に出し続けて、失業率を3%程度にペッグできるほどの財政政策を打つことができるのであれば、確かに金融政策は“つま”として使ってデフレ脱却はできますが、これを3年やったら先ほどの話ではないですが、その時点で日本財政は完全に破綻してしまう"(*9)


結構な規模での支出を継続する必要があるようですね。


東京のエコノミスト(片岡剛士さん?)が、田中秀臣さんの著書『デフレ不況 日本銀行の大罪』を読まれたうえで、次のようにまとめて下さっています。


”昭和恐慌の経済政策の経験は、デフレ脱却には金融政策が有効で、特に深刻な不況においては財政政策と金融政策のポリシーミックスが有効である、そしてこれらの政策により人々の期待を変えることが必要であるということだろう。更に高橋財政における「政策レジームの転換」の経験は、現代日本において「デフレは構造問題」「資金重要がない中で日銀がいくら資金供給しても無駄」という「日銀理論」から、「デフレは日本銀行の責任で解決する問題」で、「断固としてデフレに立ち向かう」という能動的なレジームへの転換を意味するという指摘は至極真っ当である。そしてこの指摘や経験通りの政策こそが、第二章の経済学者の提言を活かしつつ、今回の金融危機において実際に各国が行ってきたことではないか。“(*10)




金融政策と財政政策は対立するものではなく、それぞれの特徴(政策決定に関わる人数やプロセスの多寡、ラグなど)を考慮して、適切な政策割り当てが必要だと思います。


「デフレ脱却したら、財政出動を言えなくなるじゃないか!」とか

財政出動によるデフレ脱却を言う人が金融緩和を否定(*11)していたら、勉強不足か悪意のポジショントークであると思います。


注意しないとダメよ〜ダメダメ(^-^)



(*1)マクロ経済政策

http://kisoken.org/webjiten/macrokeizaiseisaku.html


(*2)若者の自民党支持率が高くなってきた理由 2012年が転機、保守化ではなく現実主義化だ | 国内政治 - 東洋経済オンライン

 https://toyokeizai.net/articles/-/195199


(*3)ロイター企業調査:安倍首相続投「望ましい」73%、安定重視

https://reut.rs/2Hjxacl


(*4)『安倍晋三首相「財政再建の姿勢変わらず」 財務省不祥事の影響払拭』

https://www.sankei.com/politics/news/180426/plt1804260038-n1.html


(*5) 「「財政再建にはPB黒字化が必要(キリッ)!」という新自由主義者?!」

https://ameblo.jp/shinchanchi2015/entry-12339199840.html


(*6)「【本】マクロ経済学基礎講義 <第3版>」

http://amba.to/29uqTqG


(*7)ついに暴かれた公共事業の効果

https://ironna.jp/article/281


(*8)構造改革論の誤解

https://amzn.to/2jzBNRx


(*9)第12回 ESRI-経済政策フォーラム「インフレ目標政策を巡って」議事録 岡田靖さん、浜矩子さんら

33頁:デフレ脱却のために必要な財政支出を推計


(*10)田中秀臣『デフレ不況 日本銀行の大罪』を読む

http://lost2decades.blogspot.jp/2010/05/blog-post.html?m=1


(*11)相関などを使いリフレ批判された方のブーメラン⁈ - Togetter

https://togetter.com/li/657663