若田部副総裁、雨宮副総裁の就任記者会見(*1)から、僕が注目したポイントにコメントしてみます。流石、若田部昌澄さん、といった感じです。


物価目標達成への熱意を感じさせ、具体的な方法論は政策決定会合で議論する、と。

岩田規久男前副総裁への評価を求められ、コメントしておられます。

最後に、消費増税の影響と物価目標について、予想物価上昇率のアンカーを軸に説明されています。


【副総裁の役割】

若田部副総裁 “おっしゃられた通り、政策委員会の委員としては独立してその職務を行うということが 16 条第 2 項の規定で、そして、業務の執行にあたっては、総裁を補佐することが定められているのが 22 条第 2 項という、2 つの建付けになっていますので、そのもとで副総裁としては、総裁を業務面においてお支えし、金融政策決定会合においては独立してその職務を全うすることになろうかと思います。同じ方向を向いていることが望ましいことは私もその通りだと思いますが、一般論としていえば、議論というものは、むしろ同じ土俵なり同じ目的が共有されている場合に、大変有益なもの、生産的なものになると私は考えています。従って、これから先、色々と議論する場面はあると思いますが、「物価安定の目標」の 2%を達成するという目標が共有されているような時には、議論は生産的なものになるだろうと私は期待しています。”(*1 p.5)


物価安定の目標を共有したうえで、金融政策について議論し、決定された政策に則り業務遂行では総裁を支える、と。


当たり前ですが、副総裁は総裁の言いなりではありません。

2007年2月の金融政策決定会合の議事録(*2)

125ページあたりで、岩田一政副総裁(当時)が反対意見を述べており、それに対して福井日銀元総裁が、執行部としてまとまることや、反対意見を述べて周りを説得できなかったことをギルティと述べるなど、同調圧力をかけてきたことが明かされています。(当時、雨宮氏も企画局として会合に参加しています)


仮に総裁が物価安定の目標と違った方向、例えば、“増税を先送りして金利が急騰するリスクについて「万が一そういうことが起こった場合の対応は限られる」と発言し、予定通りの税率引き上げを求めていた”(*3) というように、物価目標2%を阻害したとされる消費増税を後押しするかのような御乱心があれば、議論を戦わせ、共有しているはずの物価安定の目標に見合った金融政策をまとめ、実施すべきではないでしょうか。


日銀副総裁の任期を2018年3月19日に終えたばかりの岩田規久男氏は、

“消費増税に黒田東彦日銀総裁が前向きな姿勢を示したことについては「(日銀総裁としての)のりを超えて言ってしまったと思う」”(*4)

と述べられたとのこと。金融政策決定会合でも意見を戦わせていたのかは10年後(もっと短期間、FRB並みに5年などで公開しては?)の議事録公開を待ちたいと思います。



【物価目標、2%の妥当性】

若田部副総裁 “雨宮副総裁がおっしゃったことに加えてという形になりま すが、現状で色々と研究があることは事実です。例えば、働きたい人がほぼ全員働けるという意味での完全雇用、あるいは経済学的にはインフレを加速させ ない失業率はどのくらいかという研究では、例えば 2%の半ばから前半であるという研究があります。この数字そのものは色々とばらつきがあると思いますが、その失業率を達成するのにふさわしい目標インフレ率はどのくらいかという形で逆算していく、つまり雇用の側から望ましい物価上昇率を逆算していくと、大体それが 2%ではないかという研究が諸々あります。従って、グローバ ルスタンダード的なもの、あるいは統計上の振れ、あるいは金融政策のある種の余地を残すというような、そういった理由だけではなくて、やはり 2%そのものに根拠があるのではないかという感触を私自身は持っています。“(*1)


黒田総裁や雨宮副総裁が2%の説明を旧日銀のように説明するのと異なり、若田部副総裁は雇用との関係を持って2%の妥当性を説明しておられるあたりは流石ですね。


若田部副総裁 ”原油価格の下落であるとか、新興国経済 の低迷、あるいは消費税増税によるその後の消費需要の低下といったことが、 なぜ「物価の安定」にとってダメージがあるのかというと、1 つにはやはり日 本経済においては、家計が非常に足許の数字に対して敏感に動くということが 挙げられます。従って、これが何とか 2%のところにアンカーされていかない と、私は出口戦略を大っぴらに議論するのは難しいのではないかと考えていま す。これが、FRBが出口戦略を早めに出しているのに、なぜ日本銀行は出さ ないのかということに対する答えでもありまして、まさにFRBの場合は 2% で予想物価上昇率がアンカーしているもとで、QE1、QE2、QE3と行っ ていく中でも、2%のアンカーはずっと維持されてきたわけです。それに対し、 日本の場合は、2%にアンカーするというところでまだ十分ではありません。 そういった違いがあるので、日本銀行としては 2%の目標を目がけて今後とも 金融緩和を続けていくことになると考えています。“(*1 p.19)


これは、デフレ脱却して物価安定する前に、予想物価上昇率を下押しするような消費増税はすべきでない、と牽制しているともとれますね。

若田部副総裁が、これから議論すると言われた「物価の安定」とはどのような状態なのかについても、しっかりと政府と共有する必要があるでしょう。


若田部昌澄副総裁、片岡剛士委員に特に期待したいと思います。


(*1)副総裁就任記者会見要旨 2018.03.20

http://www.boj.or.jp/announcements/press/kaiken_2018/kk180322b.pdf


(*2)政策委員会・金融政策決定会合議事録 

(2007年2月20、21日開催分)

http://www.boj.or.jp/mopo/mpmsche_minu/record_2007/gjrk070221a.pdf


(*3)黒田総裁、消費税先送りは「どえらいリスク」 点検会合で発言: 日本経済新聞

https://www.nikkei.com/article/DGXNASFS06038_W3A900C1EE8000/


(*4)19年の消費増税、景気・物価の下押しリスク=岩田・前日銀副総裁 | Reuters 

https://jp.reuters.com/article/iwata-kikuo-idJPKBN1H312D