都議会議員でありながら、国家財政に興味を持たれた
「おときた」議員

(*1)『財政に関する意見を表明された おときた ‪@otokita ‬さん』

次のようなツイートをされていました。



そのツイートで
「小黒一正氏の理論の方に理ありと思っています」とのお言葉と、書籍のリンクが有りましたので、拝読しました。

(*2)『財政危機の深層 増税・年金・赤字国債を問う (NHK出版新書)』


小黒一正氏の書籍(*2)によると何と
日本は既に実質的に(広義の)財政破綻!
となるように受け取れました。(*2 p.21)

財政破綻してるのに質問者2は今日も元気ですよ٩( 'ω' )و

おときた議員にせっかくご紹介いただいたのですが、小黒一正氏の著書は
1)財政破綻の定義
2)紹介している文献や団体およびそれらの提言内容
3)大事な情報を判断材料として提示していない
などの点において、非常に残念な内容でした。

以下の図は、私が作成したものですが、官僚(下図の相手側)の方は、「盲点の窓」にある情報にふれずに、国民(下図の自分側)に判断を迫ります。
{5B3FCBB3-6B5F-4664-9142-3F5310E520B8}

隠された「盲点の窓」の情報(以降では下線で表記)を知らずに、見せられた「開かれた窓」の情報を基に判断すると、損をすることになります。

では、少しだけ小黒一正氏の書籍(*2)を見て見ましょう。


p.5 国家は破綻する

次の書籍を紹介。


(*3)『カーメン・M ラインハート の 国家は破綻する――金融危機の800年』

http://amzn.to/2pdP5Iy


ラインハート・ロゴフによると公的債務残高が対GDP比90%超の国家の平均実質成長率はマイナス0.1%だということらしいです。


一見、公的債務残高の対GDP比90%超となると実質成長率が低くなると思いそうになりますが、クルーグマンは、経済成長率が低いから債務残高が積み上がったとする主張を述べていたと思います。


1971年以降、実質GDP成長率と公的債務残高対GDP比のデータが20年間以上そろっているOECDの17ヵ国のデータを使い、高橋洋一氏が実質GDP成長率と公的債務残高対GDP比の相関係数を計算したそうですが、0.19(弱い相関0.2すらなし)という結果になったとか。


相関関係がなければ因果関係は無いので、現在の日本において、ロゴフらの書籍・論文をありがたがっても、ご利益はなさそうです。


変動相場制、自国通貨建債務、通貨発行権ある中央銀行がある国家という条件(現在の日米英が該当)で「財政破綻」に該当した国がいくつ残るのでしょう。



p.6 『財政破綻後の日本経済の姿』に関する研究会


ものすごい名前の研究会が紹介されていました。


http://www.carf.e.u-tokyo.ac.jp/research/zaisei/zaisei_index.html


(*4)『【日本の解き方】「財政破綻後の日本」がテーマ 東大に実在する研究会の議論 前提怪しく…』

(高橋洋一,2014.9.17)

http://www.zakzak.co.jp/smp/society/domestic/news/20140917/dms1409170830002-s.htm



“[前略]第1回会合では、三輪氏が「もはや『このままでは日本の財政は破綻する』などと言っている悠長な状況ではない?」という論点整理メモを出して、勇ましい議論をしている。要するに、財政破綻は当然起こるので、破綻後のことを考えようというわけだ。


 はじめのうちは、財務省、日銀らの実務家を呼んでいた。その後、安倍晋三政権が誕生し、アベノミクスに関心が移る。13年4月12日の第11回では、インフレ激化、財政破綻が顕在化、などとアベノミクスにかなり懐疑的な様子だ。

[中略]

 ただし、財政破綻というのは、債務残高対国内総生産(GDP)比が発散する(抑制できなくなる)ということでいいだろう。


 日本の数字をいえば、「借金1000兆円でGDP500兆円だから、債務残高対GDP比は200%」というのが財務省の常套(じょうとう)句である。だが、どうして資産を差し引いたネット(純債務)で考えないのだろうか。政府単体だけでもネットで考えれば、100%にはならない。ちなみに米国と比較すれば同程度である。


 政府単体ではなく、政府子会社(日銀は政府子会社である)も含めた連結ベースでみたらどうか。経済学者の好きな言葉でいえば、統合政府というのでもいい。その上でネットでみると、日本は80%にもならないだろう。こうなると、先進国の中で低いとはいえないが、歴史的に見てもひどく高いとはいえない。


[後略]”


ということです。

この研究会の言っていることを聞いても、何のご利益もなさそうです。


浅田統一郎氏の次の書籍に

国債の問題を考えるうえで、基礎的だが重要なことが書かれています。


(*5)≪【本】マクロ経済学基礎講義 <第3版>≫

(著:浅田 統一郎,2016.06.01)

http://amzn.to/292bWOl


はしがき

“「マクロ経済学を学ぶ目的の1つは、ジャーナリストや評論家や政治家にだまされないようにするためである」”


第9章 日本経済とマクロ経済学

“(4)経済変数の総額( gross value )と純額( net value )を区別する。特に,国債の問題を考察するときに,この区別は重要である


(5)通常日本政府が公表する経済統計では,中央銀行である日本銀行(日銀)は,政府部門からは除外されており,民間銀行と同じ「金融機関」に含められているが,特に国債の問題を考察する場合,中央銀行を政府部門の一員とみなした統合政府(consolidated government)勘定の観点から考察することが重要である” (220ページ)


国債の問題を考えるうえで重要な観点は、小黒氏がほとんど触れていない(一部に純債務に関する記述あり)のに対し、高橋洋一氏は重要な観点の2つにしっかり触れています。


どちらに理があるのでしょうか?


小黒氏が所属していた財務省は次のように。


"日・米など先進国の自国通貨建て国債のデフォルトは考えられない"


ノーベル経済学賞受賞者のポール・クルーグマン

米国、英国、日本はギリシャと異なり、自国通貨があり、短期金利を制御する中央銀行がある[中略]自国通貨があってその通貨で借り入れてる国での債務危機という前例はない”、と。



小黒氏の書籍(*2)に戻ります。


(*6)東京財団  https://www.tkfd.or.jp


この団体については、余り現実味のないツールを公開した団体、というくらいしか存じ上げません。


(*7)東京財団版長期財政推計ツール(β版) | 財政推計 | 東京財団 https://shar.es/1FZ8AU


(*8)長期財政推計ツールについてよくある質問と回答 | 財政推計 | 東京財団 https://shar.es/1FZ8yZ


なお、ツールの主眼とするものは…

”「数パーセント程度での増減税などの税財政改革の想定や、経済成長率やインフレ率などの想定の違いが長期的な財政に及ぼす影響、すなわち将来の財政の姿を見通すことを主眼」”(*8)

だそうです。



以下のまとめ(*9)では、(*7)のツールを使い消費税率を1000%にしたところ、消費税収がGDPを数桁追い抜いた(*9)そうです。増税が景気を下押しする作用がシッカリと考慮されていないのでしょうか。


(*9)財務省の「糞ゲー」と、それを作った人たち、宣伝する新聞 - Togetterまとめ

https://togetter.com/li/983261



p.16 なぜ借金まみれなのに財政が「もっている」のか


小黒氏は3つ挙げています。

1)国に課税権(後述で紹介する高橋洋一氏の動画の徴税権に相当)があること

2)日銀が国債を大量に購入するようになったこと

3)人は見たいものしか見ようとしないこと。

小黒氏は「もっとも根が深いのは、三つ目の問題と。


課税権はなくなることはないでしょう。

日銀の国債大量購入は物価安定目標をしばらくの間オーバーシュートするまでは続くから心配ないでしょう。

もっとも根が深いのは、善意で増税多数派工作する団体や残念な人は、人に重要でない問題や不安に働きかける情報を見せようとすること、かと。


本当に借金まみれなのかは、以下の動画をご覧下さい。自民党の国会議員さんでも分かるように、日本の統合政府(政府と日銀を合わせたもの)のバランスシートに徴税権(600兆円〜650兆円)をオンバランスした資料を使って、高橋洋一氏が日本政府の財政健全性を解説しています。


(*10)高橋洋一氏の解説動画

https://www.youtube.com/watch?v=CjUOg-vzEjg



アフロさんが財政に関する資料をまとめて下さっています。


(*11)「財政再建を問う-財政赤字よりも大切なこと」

https://togetter.com/li/1090233


質問者2も、ご近所のマダム向けに資料を作成しました。


(*12)#本当の財政危機の話をしよう

https://togetter.com/li/1008557



ここで書籍(*2)に戻りましょう。


p.19-21 “「財政破綻」とはそもそも何か

“経済学的には、岩本康志・東大教授の分類では、「まえがき」でもふれたラインハートによる各国政府のデータベースのうち、「債務再編」「突然の高インフレ」を招いた事例を破綻と定義している。”(*2)


さらに、国債デフォルト、中央銀行による国債直接引き受けに言及。直接引き受けをすれば、お札に対する信頼は失われ、高インフレの可能性が高まる、としています。財政法第五条で国債の直接引き受けが原則禁じられていることには言及がありますが、その五条に「但し、特別の事由がある場合において、国会の議決を経た金額の範囲内では、この限りでない」と書かれ、平成17年度の約21兆円を最大に、毎年のように行われていることは触れられていない(平成28年度は8兆円の日銀引受が行われている)

{D44B6B08-DA62-4EED-BD23-84F68CFFAA45}

財政法

http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S22/S22HO034.html



更に小黒氏は「金融抑

政府・中央銀行が市場実勢と比較して非常に低い水準に金利を規制あるいは誘導しつつ、金融機関や個人にきわめて低い利回りで国債を引き受けさせることを指す。低金利とインフレでマイナスの実質金利にして、債務を圧縮する政策手段の一つであり、広義には、筆者はこれも実質的な破綻と見なしていいと考えている


えー!
国債は低金利(一部のマイナス)ですし、アベノミクス以降は実質金利はマイナスレンジにあることが多いようです(下図参照)…小黒氏の言う「広義の財政破綻」を既にしているように見受けられます。

{EF34CCE5-1AF1-49F6-98B8-395FC018070E}



落ち着いて、財政破綻の定義をアフロさんの資料(*11)で確認しましょう。

{68EF30B2-C52D-40B4-A8F7-FDB137050328}

{1D83CE18-5DEA-4904-8E87-F90210CF323D}
図表出典(*11)

ブランシャールの定義によれば、債務残高の対GDP比が発散する状態を財政破綻というようですね。
日本は…発散どころか減っているようですね。
{88096981-1B14-4E95-BF21-946AFAE0FDF4}
図表出典(*11)

「財政破綻」の定義によっては「ざいせいはたん」になってしまうのですね(汗


誤った情報を基に学んだり、正しい情報を与えられずに学ぶと残念な結論が導かれます。その残念な結論を引用し、残念な議論を補強する…

そんな例かと感じてしまう報告書(*12)があります。
さすが、長い間、政権与党にいて、デフレと財政赤字拡大などを支えてきた自民党です。


(*12)X-day プロジェクト報告書(自民党,2011.06.01)

https://www.jimin.jp/policy/policy_topics/pdf/seisaku-047.pdf


p.28 “いまこそ現実を直視して一歩前へ”

“財政破綻を回避するには、税収を上げるか、歳出を下げるか、その両方を同時にやるしかない”


歳出 = 歳入 = 税収 + 税外収入 + 借金


ですので、税外収入(政府紙幣発行や政府資産圧縮、日銀国庫納付金の増加など)を増やすこと、国債で借金して、それを日銀に買入させること、などが語られていません。残念です。


p.32 “財政の持続可能性は、限りなくゼロに近い


小黒氏は、上述のようなことを書かれています。限りなくゼロに近いはずですが、2017年5月現在も持続しています。

あろうことか国家財政を家計に例えています。これでは財務省と同レベル…しかも、課税権にはふれるものの、課税権をオンバランスした際の額(高橋洋一氏は600〜700兆円と資産)資産が連結で900兆円以上あることや、統合政府でみた場合の債務が大した額ではないことなどにはふれていません


p.59 “インフレ率が二%超となれば、実質的な所得の伸び(実質GDP成長率)はマイナスとなり、実際に購入できる財・サービスの量(豊かさ)は減少し、国民は貧しくなってしまう”


何を仰っているのか、もはや理解できません。

これでは、某内閣官房参与(*13)と同レベルです。


(*13)デフレが進行すると実質成長するらしい

https://togetter.com/li/661792



私には

仮定が誤っていたり、大切な情報無しに判断することは大変危険なことだと思い知りました。