【本】この経済政策が民主主義を救う: 安倍政権に勝てる対案(2016.01.20,松尾匡氏)

松尾匡さんの《この経済政策が民主主義を救う: 安倍政権に勝てる対案》を拝読しました。

田中秀臣さんのトークイベントで、直接、質問して、ご回答をいただいたこともあり、熱いお方、という印象の松尾さん。

「数理マルクス経済学の泰斗、置塩信雄に師事」とのこと。

ポイントをまとめると、
安倍政権に勝てる対案とは、経済で支持を得ている安倍政権の金融政策・財政政策よりも、もっとやれ! です。

アベノミクスで効果をあげている金融政策と財政政策のアクセルを更に踏み込み、欧米の左派が推進している政策を取り入れるように提案されています。


ただ、松尾さんが期待を寄せている日本の組織化された左派・リベラルは、金融緩和に反対しており、中には緊縮財政を支持するところも。

松尾さんは、日本の左派・リベラル側に期待しつつも、日本の組織化された左派・リベラルの体たらくを良くご存知なのではないでしょうか。だから、敵(?)である安倍総理の力が強大であるから勝てない、と感じてしまうのではないでしょうか。

安倍総理の力が強大と言えるのでしょうか。
総理大臣ではありますが、財務省など増税という緊縮策を推進する団体となかまたちがいたり、とご苦労されています。安保法案をテレビで説明する場がなかなか得られず、総理大臣がニコ生で安保法案について説明していました。
まあ、安倍政権に選挙で負け続けている政治家から見れば、手強い相手となるでしょう。

安倍総理が強過ぎて勝てないのであって、日本の組織化された左派・リベラルはそんなに悪くない、と思っておられる印象を受けました。
私は、後者がだらしなさすぎる、と思っております。

松尾さんのお考え(と私が文章から読み取った)は古谷さんが言う「願望」ではないでしょうか。

“「願望」には、事実がおのれの理想と乖離していることを薄々認知している、という「やましさ」が常に伴っている。そしてその「願望」は嘘で塗り固められている”➡
『左翼も右翼もウソばかり』

日本の組織化された左派・リベラルは、金融緩和に反対するところが多く、20年ものデフレを支えてきたとも言えます。

松尾さんは、日本の組織化された左派・リベラルに期待を寄せておられますが、その反面、欧米では普通に行われている金融緩和や反緊縮財政とは異なり、緊縮策を好む日本の組織化された左派・リベラルの怠惰をあらわにしているように感じました。



経済以外の論点(安保法制や、安倍総理のパワーが強い、ということなど)については相当割り引いて拝読してます。


<目次>
第1章 安倍政権の景気作戦―官邸の思惑は当たるか?
第2章 人々が政治に求めているもの
第3章 どんな経済政策を掲げるべきか
第4章 躍進する欧米左派の経済政策
第5章 復活ケインズ理論と新しい古典派との闘い
第6章 今の景気政策はどこで行きづまるか


一番興味深く拝読したのは、5章です。
流動性選好説で復権したケインズ理論、の箇所は、読み応えがありました。

また、ケインズの一般理論を引用し、ケインズが期待に言及していたことを明らかにします。
ケインズ(一般理論)「公開市場操作は貨幣量を変化させるばかりでなく、中央銀行または政府の将来の政策に関する期待の変化を引き起こすこともあるからである。」


欧米左派、安倍総理の強さへの評価は高いのですが、肝心の日本の組織化された左派・リベラルには、松尾さんが左派という「縛り」で、期待をかけているように感じます。

左派、右派、というポジションではなく、金融政策や財政策において、反緊縮策の理解者を増やすことが先決です。

財政再建を国民の経済厚生よりも優先する(復興が必要なときに復興増税、再分配のはずの社会保障財源に逆進性のある消費税の増税と、逆進性がある社会保険料)政治家、官僚、学者、有識者、財界人、一般人はとても多いのです。


どのような思想信条であっても、理解者を増やすことに、私も微力ながら貢献できればと思います。


松尾さんの熱いお心に応えないと、日本の組織化された左派・リベラルの未来は暗いでしょうね。