招待客に忘れがたい印象を残すには、牡蠣のパイがお勧めである。 | 王様の料理人。料理人の王様。

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尊敬するアントナン・カレームについてのレシピや、古典料理、地方料理、調理科学や作り方のコツ。モダンキュイジーヌのレシピ、画像、作り方。フランス料理、スペイン料理についての歴史。

出来合いのおつまみが手ごろな値段で買えるのに、なぜ手作りしなければならないのでしょう?
それについては偉大なるカレームがこう言ってます。
「友人を年に4回も満足のいかないおもてなしで迎えるよりは、年に1回十分にもてなすほうがよい」



<牡蠣のパイ>

牡蠣64個
*パートフイユテ
小麦粉150g
バター150g
塩水  4gを水60mlで溶かしたもの

*ソース
牡蠣の汁
パセリ
こしょう
卵黄 1個
生クリーム少々

1・台の上で小麦粉150gとバター25gを混ぜ、塩水を徐々に加える。しっかりとこね、水適量を加えて、コシはあるがベタベタしない生地を作る。冷蔵庫に入れて最低30分寝かせる。

 小麦粉はデンプンとタンパク質で構成されています。タンパク質は水を加えてこねると、グルテンという弾力性のある網目状の構造を作り出します。このグルテンを肉眼で簡単に確認する方法があります。ボウルに水と小麦粉を少量ずついれてしっかりとこね合わせ、できた生地を流水にさらすと、デンプンが洗い流されてグルテンの網目構造だけが残るのです。
 コシのあるパンや各種生地を作るにはこのグルテンの網目構造の形成を促進させればいいのです。そのためには、タンパク質のより多く含まれた小麦粉を用います。一方、ブリオッシュ、ビスキュイ、ふわっとしたジェノワーズ生地などを作るときは、タンパク質が生地のふくらみを妨げないような小麦粉を使うべきです。このレシピのパイには好みのタイプの小麦粉で構いませんが、もしパイをしっかり膨らませたいなら、タンパク質を多く含む小麦粉を用いるとよいでしょう。

工程1で作ったものをデトランプと呼びます。デトランプを科学的に説明してみましょう。
 水が小麦粉のデンプン粒の中に入り込むことによって、粒内のデンプン分子がいくらか溶け、デンプン粒が膨張して崩れかけ、粒内から粘性を生み出すアミロース分子が出てきて全体が粘化します。バターは膨張したデンプン粒の間に位置し、塩、がまんべんなく水に溶けると、小麦粉のタンパク質がグルテンの網目構造を形成し、全体をひとまとめにします。

ではなぜデトランプを最低でも30分間ねかせるのでしょう。それは水が小麦粉をむらなく粘化するために必要な時間ですが、もう1つの理由は良くこねたグルテンの網目構造は、ちょうど限界まで引っ張ったバネと同じ状態になっているからなのです。だから生地を寝かせてこのバネを収縮させ、落ち着かせて柔軟性のある生地にし、延ばしても縮まないようにするのです。より正確にいえば、こねあがった直後の生地では、グルテン中のタンパク質が限界までひきのばされた小さなバネのような状態になっているということです。しかし、生地内部のこれらのタンパク質がどう変化しているのか、その詳細はまだなぞに包まれています。

2・生地を十分に寝かせたら、残りのバター125gをボウルに入れ、指先でしっかりとこねて柔らかくする。
この作業の目的は、バターをデトランプと同じ固さにすることです。こうしておけば、デトランプでバターを包んで織り込んでいく際にバターがはみ出すという失敗が起こりません。
バターはこねるとことでやわらかくなります。これは、油脂分子で構成された結晶状の形態が力学的に壊され、また、こねることによって暖められて部分的にとけるからです。

3・冷蔵庫からデトランプを出して、小麦粉をふった作業台にのせ、麺棒で厚さ2cmの正方形の形に伸ばす。中心に2のバターを置きデトランプの四隅を折り返してバターを包み込む。麺棒で一方向にのばして3倍の長さの長方形にし、3つ折りにする。

 デトランプでバターを包み込むと、生地2層の間にバター1層が挟まった構造になります。これを長方形に伸ばしても構造自体は変わりませんが、「3つ折りにすると、生地、バター、生地、空気、生地、バター、生地という順番に織り込まれます。つまり、全体で生地6層とバター3層の構造になるのです。

4・生地に小麦粉を振り、向きを4分の1回転させ再度長方形に伸ばして3つ折りにする。布巾かラップに包み、焼く1時間冷蔵庫に入れておく。

 これで3つ折りを2回行ったことになります。その結果、生地18層、バター9層という構造になります。ここで焼く時間冷蔵庫に入れる理由は、生地をのばしている間にグルテンの網目構造が引っ張られるからであり、バターが温まって溶けている可能性があるからです。冷蔵庫に入れることによって、バターはしなやかであるけれど柔らかすぎない固さを取り戻せます。これでバターが生地からはみ出してしまうこともなく,生地のほうもしっかりとバターを閉じ込めておける固さを保てます。

5・再び生地に軽く小麦粉をふり、3つ折りを2回繰り返す(織り込むたびに生地の方向を4分の1回転させる)。焼くまでの間、冷蔵庫に入れておく

 この段階で生地162層、バター81層の構造になります。
 折り終わった生地をすぐに焼かない場合は、ここで作業を終えてラップフィルムに包み、冷凍庫に入れて保存します。解凍するときは、使用する24時間前に冷蔵庫に移すとよいでしょう。


6・さらに2回織り込む。(これが最後の織り込み。要領は先の4回の織り込みと同様)。次に生地を大きな正方形に伸ばし、仕上げたいサイズに切り分ける。オーブンプレートにのせて、230度のオーブンで約20分間焼く。

 もしパイの表面をきれいな黄金色に焼きあげたいのなら、オーブンに入れる前に卵黄を塗るとよいでしょう。


ここまではパイ生地について書きました。
牡蠣についてはまた次回