朝日を浴びて黄金色に輝くイチョウが、冷たい風に吹かれ、ヒラヒラと舞う並木道。
「伊那谷」から吹き上がる、冷たく澄み切った風を頬に受け、季節の移ろいを感じながら物思う秋。
何故だか、無性に人恋しくなる上伊那郡中川村の秋は、静かに静かに暮れようとしています。
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10月11日から始まった「全国旅行支援」の影響からか、長野県内の宿泊予約が急に取りづらくなった気がします。
「渡場(どば)」のイチョウ並木の見頃まであと1ヶ月程度となった10月14日、予約サイトを開いてみると…
気になっていた温泉宿は、既に11月中旬まで満室状態。別の温泉宿も11月14日に1室空いているだけでした。
見頃というのはあくまでも例年であって、その年の気象状況で見頃の時期は変わります。訪問当日の天気も気がかりです。
しかしながら、そんな事を言っている場合ではなく、運を天に任せて、まずは11月14日の部屋を確保しました。
それでも雨だけは避けたい…との思いもあり、さらに11月13日宿泊分として、まだ空きがあったビジネスホテルを予約。
これで13~15日のいずれかの晴天時に、イチョウ並木が見学出来る体制を整えました。
それから約1ヶ月が経過した11月13日(日)は、前日までの晴天続きとは打って変わって、久しぶりの雨予報です。
私にしては珍しく、自宅を午後に出発してどこにも立ち寄らず、駒ケ根市内のビジネスホテルへ直行。
途中からは予報通りに雨が降り始め、ホテル到着後から夜半にかけては風雨が一層強まり、悶々としておりました。
しかし…明けて翌朝、強風は残るものの、一転して快晴!!
さてイチョウ並木の駐車場ですが、並木道の南北に2ヶ所あるものの、各々10台前後のスペースしかない模様です。
イチョウ並木の撮影と銀杏拾いを目当てに、多くの人が訪れる事が予想され、駒ケ根市を7時半と早めに出発しましたが…
8時10分、並木の北側にある臨時駐車場には車は1台も停まっておらず。平日の朝だったからなのでしょうか?
銀杏を踏んだ場合の臭い対策として、靴を履き替えてイチョウ並木へ出陣すると…
「…!!」これが観たくて、遠路はるばるやってきたのです。
そこには「別世界」に足を踏み入れてしまったかのような錯覚すら覚える、素晴らしい景色が広がっていました。
黄葉したイチョウは見頃を迎えたものの、落葉して出来る黄金色の絨毯完成にはまだ数日かかると思っていましたが…
昨日からの強風が味方となり、落葉が進んで絨毯の並木道もほぼ完成しています。
私が訪問した時、並木道には懸命に銀杏拾いをする女性がひとりいただけでした。
幾層にも敷き詰められた落葉に抱きかかえられているような銀杏。(落葉をかき集め、撮影した写真ではありません!)
女性は地元の方で、一昨日の土曜は写真撮影と銀杏拾いで物凄い人出だったようです。
尚、「いこいの広場」と呼ばれるこの並木道には次のような案内板も出ていました。
それにしても昨日からの強風で、銀杏は一気に落果した模様。
後から来た2人組も、落果した大量の銀杏に感嘆の声をあげています。これぞ、まさに入れ食い状態。
木を見上げても、銀杏はもう殆ど残っていませんでした。でもこの空の青さ、目にしみるなぁ~!
並木の背後には、うっすらと冠雪した中央アルプスの山々がそびえています。
空が抜けるような青さと黄金色に輝くイチョウ。本当に見事なシチュエーションです。
27本あるというイチョウ並木を折り返すと、送電塔と建物が見えてきました。
この建物は中部電力南向発電所で、日本の電力王と呼ばれた福沢桃介翁(福沢諭吉の次女の婿養子)が建設を手がけたとか。
今から90年以上も前になる昭和4年稼働のようですが、非常にモダンな建物ですね。
次の予定もあり、このイチョウ並木ともそろそろお別れです。
しかし、このまま立ち去るのは何だか勿体なく、もう一度戻ってイチョウを見上げました。
暮れゆく秋を前に、まさしく今が見頃のイチョウが命の限りに輝いています。大地からの鼓動が聞こえてくるようです。
今回、銀杏の実を5つも踏み潰してしまいましたが、思ったほど臭いは気になりませんでした。
車に戻って靴を履き替えた9時10分、今度は同村にある標高1445mの「陣馬形山(じんばがたやま)」を目指します。
並木道からは15km、30分程度で到着するはずでしたが…
途中でカーナビの反乱が!指示に従って進んで行くと行き止まりに。目的地までの距離表示も頻繁に変化していました。
その後はカーナビに頼らず、道路標識に従って進みます。
「陣馬形山」へは、山頂のすぐ近くまで車で行けます。道は舗装されているものの、カーブの連続でした。
道を間違えた事もあって、10時に「陣馬形の森公園(キャンプ場)」に到着。
そして…木の階段を上って「山頂展望台」へ行くと…
中川村2つ目の「別世界」が出迎えてくれました。
正面(西側)には中央アルプスの山々、その中腹には南北に横たわる1本の長い雲。さらに東側には南アルプス連峰が。
また眼下には、南北60kmに亘ると言われる「伊那谷」が広がっており、人々の息遣いが聞こえてきそうです。
何というスケール、何という解放感でしょう。まさしく、自然が創り出した造形美!
「伊那谷」から舞い上がる凛とした風を肌に感じ、近づく冬を思いながら、暫し感傷に浸って、ぼ~っと眺めていると…
谷底に引き込まれてしまいそうな、そんな感覚に陥りました。
心残りは事前の情報収集を怠り、キャンプ場周辺散策もせず、「山頂展望台」での写真撮影に終始してしまった事です。
唯一、帰りに「南アルプス展望台」へは立ち寄りましたが、絶景を眺めた後だっただけに殆ど感動はありませんでした。
後日調べてみると、周辺には「丸尾のブナ」等の見所もあるようで、機会があれば是非とも再訪したいと思っています。
こうして、冬が近づく中川村「陣馬形山」から、次なる目的地を目指して下って行きました。















