、、、つづき

 

一両しかない列車の中は

ちょっと広いワンルームマンションだと思えなくもない広さである。

 

始発駅から乗っていて

憧れの出雲神話の車窓風景を独り占めに近い形で

ゆったり楽しんでいたわたしにしてみれば

突然「あの・・・失礼だけど・・・」と

横から話しかけてきた、その声は

自分ちの玄関をガチャ!と開けられたくらい

びっくり、予想外の事だった。

 

その男性は

わたしが膝に抱えていた紙袋の中の土産物を

指さして、言葉をつづけた。

「紅葉狩りに行ってきたんですか」

 

もみじ饅頭のイラストが描いてあったから、

「そう思った」んだな、と

聞いた方も聞かれた方もそれは分かったが、

最も短い返事で済ます選択をせず、

ちょっと長い説明で、正直に答えた。

「紅葉狩りにいったわけではないです。

広島経由で出雲に来たものですから、途中のお土産店で買いました」

「紅葉狩りには行ってないですが、車から、山の紅葉がきれいに見えてました」

 

もみじ饅頭の謎が解けて、

その人も落ち着いたことだろう、と

一仕事したスッキリ感さえ、感じつつ

また目の前の車窓を堪能しようとしたら

さらに

その人は言葉をつづけてきた。

 

「あー、そうなんだ。実は、俺は今から

出雲大社にいくんだけどね」

 

そこから、その声の主は

ノンストップで喋り出した。

 

出雲大社はとてもご利益があるところだよ

自分の知り合いが、行ったすぐ後くらいにとてもいい事があったって

そのいい事とは、パチンコで勝ったこと

千円が一万くらいになったから、自分も行ってみたらやっぱりそれくらい勝ったよね

神社は、ほんとにご利益があって、自分は今度、茨木の寒川神社にいくんだ、

あそこは本当にパワーが凄いらしくて、テレビでみて、2月にさっそく行くことにしたの

そして、お風呂には黄色いものを置くと、金運があがるよ  

自分の姉は、白い蛇を握る夢を見て、家も建ててるの。

姉は二回結婚してるんだけど。

 

時折、

あ、ごめんね、こんなに喋っちゃって、と謝りの言葉を挟みながら

わたしの、だんだん小さくなる相づちを聞きながら

そのひとは

終点まで言葉を綴り続けた。

 

横並びに座っていたので

目と目をばっちり合わせることはなかったが

少ししわがれた声から、60代後半くらいに思われた。

キャップを被って背中にリュック。

 

もみじ饅頭に興味があったわけではなく

この話をしたかったんだな、と分かった。

出雲大社に今から向かっている高揚感で

心が弾んで、嬉しさがあふれ出してきたんだろう。

言葉は想いを含んで滴り落ちる、しずくのようなもの。

この方が、いま、この時点で思う「しあわせ」とは

お金にまつわること。

幸せも満足も、お金があるかないかで決まっている心の風景。

 

そういえば、

昨日、宿泊先まで乗せてくれた女性もまた

車内でずっと「家のこと」をお話していた。

 

一人旅で、家のひとは心配しなかったですか?

家のことが、気になりませんか?

うちも、なかなか夫婦では旅行はできないですけどね・・・

 

話し方も穏やかで優しそうで

本当に家庭的な感じの同世代の女性。

 

「節目の誕生日なんで、ひとりで計画したんです」

「子どもも男の子で、もう大きいんで・・」

「うちは、旅行先ですぐケンカになっちゃうんです」

・・・

「旦那と言っても、元、がつくんですけどね」

最後にネタばらしが出来て

ああ、よかったと思った。

いつでも誰とでも、嘘ではない会話がしたい。

旅先だけど。出雲だから。

 

 

そうして、

出雲大社でも

多くの人が

神殿に向かって手を合わせている風景を目にした。

わたしの前の20代くらいの女性は

ずーっとずーっと長く手を合わせていて、

わたしの並んでいる列だけ動きが止まっていた。

 

ああ、このひとの胸の中にも いま

広い広い風景が広がっているんだなぁ・・・。

なにかは外から見えないことだけど。

 

 

神在月の出雲大社は

人・人・人でごった返していた。

 

このひと達み~んな

ひとつひとつの世界を

内面に持っているんだ・・・と思えば

ヒトこそが神じゃん、

神話と宇宙の創造主じゃん、と

思ったことだった。

 

 

出雲で出会ったひとびと。

出逢ったのは、内面世界の創造主「神様」たちだった。

 

 











・・・・

ひとまず、終わり。