どうもどうも、けいです。
最近は何かと多忙でブログが書けませんでしたが、
時間ができたのでかねてから書きたいと思ってたネタをば。
クハ455-701は急行形なのか?
ということを駄弁ろうと思います。
1.そもそも"クハ455-701"とは?
多分9割くらいの方が知っているとは思いますが、
誰が見るか分からないので解説だけはしておきます。
大は小を兼ねるとも言いますから…
"クハ455-701"とは、現在新潟県の鉄道会社である
「えちごトキめき鉄道株式会社」が保有する車両です。
その車歴は1971年までさかのぼります。
もとは"サハ455-1"という、モーターも運転台もない中間車でした。
製造当初から関西圏・中京圏と北陸地方を結ぶ急行列車に投入され、
「立山」「ゆのくに」「くずりゅう」といった列車に充当されました。
しかし、1985年を最後に定期急行運用は消滅。
サハ455-1が属する475系列は大半が北陸地方の普通列車運用に回されます。
この際に各車両は様々な改造が行われましたが、
サハ455-1にも運転台を取り付け、413系電車に組み込めるよう魔改造
手を施されます。
この際に車両番号が変更、"クハ455-701"となりました。
※413系電車は1986年から国鉄が製造…というか改造した、
いわゆる「近郊形電車」の一種です。
同じく北陸地方の急行運用を失った471系、473系から改造され、
機器はほぼ流用、車体を新しく製造したよく分からない形式です。
北陸本線内米原方先頭車には通常クハ412が使用されますが、
2編成だけ諸々の都合でクハ455-700番台が代わりに連結されています。
以降クハ455-701は北陸地方の普通列車として活躍し、
最後は七尾線にとどまっていました。
しかし2021年に新型521系電車に置き換えられると運用喪失、
解体目前と思われたところでえちごトキめき鉄道が譲渡を申し出ます。
結果としてJRからえちごトキめき鉄道に渡ったクハ455-701は、
休日を中心にトキてつ線内を「観光急行」として走っています。
さて、元急行列車用の車両だったクハ455-701。
なぜ急行形かそうでないかの議論が起きてしまったのでしょうか?
2.クハ455-701が
「急行形である」ことの証左
まずはクハ455-701が急行形だと主張する理由を見てみましょう。
・車体構造がほぼ急行形の形態を残すから
クハ455-701が急行形であることの最大の理由です。
そもそも、急行形の車体構造というのは、
普通車ですと基本的に車両の前後2ヶ所に乗降ドアを設け、
その間は窓が整然と並ぶのが特徴です。
ここで、クハ455-701の構造を改めて見てみましょう。
▲クハ455-701(先頭車)
2021年8月14日、能生駅
まさにこの特徴通りです。ドアは前後車端部2ヶ所にあり、間は窓が並びます。
クハ455-701は後天的な運転台取り付け工事で
前頭部付近は姿が変わっていますが、そこから後ろはほぼ手が入っていません。
これが通勤形や近郊形となるとこうはいきません。
ドアが3つや4つもあり、窓も前から後ろまで綺麗に並ばなくなってしまいます。
▲近郊形413系(手前2両)、窓配置が最後部のクハ455-701と異なるのが分かる。
2021年8月14日、名立駅
実際、後ろ2両は近郊形に区分される車両なのですが、
ドア配置や窓配置はクハ455-701と異なっているのが分かります。
「クハ455-701は急行形車両の車体構造を色濃く残すこと」、
これがクハ455-701が急行形であるとする理由の1つ目です。
・ボックスシートや洗面台といった内装を残すから
これも大きな理由となります。
急行形車両の普通車は、
多くが固定クロスシート(ボックスシート)を採用しています。
ボックスシート自体は近郊形
(113系や415系、キハ23など)でも採用されていますが、
急行形に属する車両は座席の肘置きが
窓側と通路側の両方に設けられていたことも多く、
実際に座ると近郊形のボックスシートとはワンランク上の「格」を感じられます。
どっちにしろリクライニング不能で疲れるだけじゃないかという文句は無しで
近郊形と急行形が混結するえちごトキめき鉄道の観光急行とてそれは同じで、
急行形である1号車クハ455-701の座席には
肘置きが窓側・通路側ともに備え付けられていますが、
2号車・3号車のモハ412・クモハ413の座席には肘置きが通路側にしかありません。
全車自由席開放の日などを利用して乗り比べてみると、
座った際の感覚の違いがよく分かります。
そもそも全車自由席の日が少ない?ごもっともです
▲クハ455-701のボックスシート
2021年8月14日、直江津駅
▲その座面だが、左下に肘置きがあるのが見える(他2両には窓側のこれがない)。
2021年8月14日、直江津駅
他にも洗面台があるのも大きな特徴となります。
現在の普通列車用車両ではあまり見ない設備ではありますが、
元急行用であった475系列では洗面台が残っていた車両も少なくありません
(撤去した車両もあります)。
クハ455-701にも洗面台が残っており、実際に水も出ます。
この洗面台を残す車両こそ、
急行形の血を残す証であるという声も少なからずあります。
▲クハ455-701の洗面台。今なお稼働中。
※左に見える小さな流しは「痰壺」という設備です。
こいつがまだ急行列車として現役だったころは結核が猛威を振るっており、
その撲滅を目的として設置されました。
痰壺自体は明治時代に設置を強制されたものであり、
鉄道車両や駅のあちこちに痰壺がばらまかれていました。
最近では結核の感染者数が減少したために見られませんが…
(かく言う私もここ以外で見たことがありません)
クハ455-701の痰壺はさすがに水は流れません。
トキてつに来た当初は流れてたような、そうじゃなかったような。
が、(後述しますが)車内設備に関しては時代の流れで失ってしまったものも多く、
デッキ仕切り、車端部にあったはずのボックスシート…などなど、
設備がいささか不完全であるのもまた確かです。
・そもそも車番が急行形を表すものだから
ささやかですが理には適っている理由です。
クハ455やモハ412などの車両番号はでたらめに付けられるものではありません。
国鉄は1959年の称号改正後における新性能電車の付番方式を、
1970年代以降は以下のように定めていました。
百位…1~3が直流専用、4~6が交直両用、7、8が交流専用、9は設定なし
十位…0が通勤形、1、2が近郊形、3が設定なし、4が事業用・非旅客用、
5~7が急行形、8が特急形、9が試験車
一位…系列を表す場合は奇数(1、3、5、7、9)のうち、
まだ使われていないものを若い番号順に使用
ということは、クハ455という形式は以下のように分析できます。
4…交直両用
5…急行形
5…450番代で3番目の形式
ケツ論は火を見るよりも明らかですね。
形式番号から急行形と言っているのだから急行形なのです、と。
そういう主張です。
※現在はJR各社が独自の法則を定めているのでこの限りではありません。
以上3点が、クハ455-701が急行形だとする主張になります。
一方で、クハ455-701を急行形だとはっきり言えない人は、
どういった理由をもってそう判断しているのでしょうか。
3.クハ455-701が
「急行形ではない」ことの証左
・内装がひどく変わってしまっているから
先ほど「急行形の内装を残す~」と言いましたが、
クハ455-701はそのすべてを継承しているわけではありません。
ボックスシート、洗面台などは残りますが、
デッキ仕切り、一部ボックスシート、吊革など、面影を失ったものもあります。
これらはすべて413系に連結される際に手を加えられました。
普通列車として使うわけですが、そのままだと如何せん詰め込みが利かない。
その際に、乗降の邪魔となるデッキ仕切りは取っ払い、
車端部、つまりドア付近のボックスシートは撤去してロングシートへ変え、
さらにこの場所に吊革を追設してしまいました。
つまり、中途半端に近郊形の要素が混ざりこんだわけです。
▲クハ455-701車内全景。
中央部はボックスシートが残るが、車端部はロングシート化されて
デッキと客室を仕切る壁もなくなってしまっている。
2021年8月14日、妙高高原駅
また、急行形だけでなく、近郊形にすらついていた
小テーブルがクハ455-701にはないことも大きいでしょう。
▲近郊形115系電車の座席。よく見ると窓際に小さなテーブルがある。
このテーブルもクハ455-701では撤去されており、跡形もない。
2021年8月15日、直江津駅
※テーブルがないクハ455-701ですが、通常は専用の着脱式テーブルを設置し
運用に入っています。これがまたよく考えられており安定感は抜群の一言。
なぜ内装で相反する2つの主張が出てしまったのか?
これは人の捉え方、考え方がそれぞれ違うからだと私は考えています。
「ボックスシートや洗面台が残るから急行形」と主張する人は
「何がまだ残っているか」に着目しているわけですが、
「デッキ仕切りもないしロングシートもあるから急行形と言い切れない」
と主張する人は「何を失ったか」に重きを置いているのでしょう。
人の価値観は皆違いますから、このような認識の差があってもいいと思います。
なんか最終ケツ論を少々出してしまいましたが、次にまいりましょう。
・ヘッドライトがシールドビームだから
シールドビームってなんでしょう?
もともと急行形475系や165系などは「デカ目」と呼ばれる
大きなヘッドライトを装着していました。
しかし1970年代以降、ヘッドライトがより輝度の高い
「シールドビーム」に換装されるケースが急増。
大目玉ヘッドライトは徐々に少数派となっていきます。
クハ455-701は後付けで運転台を接合したので、
最初からシールドビームでした。大目玉ヘッドライトではなかったのです。
かつての急行を担当した475系列が大目玉であったことから、
シールドビームのクハ455-701は「何か物足りない」と言われてしまったのです。
最近まで原型ライトの475系列が北陸ではうじゃらと走り回っていたことも、
この見方に拍車をかけたのでしょう。
▲大目玉が復活したクハ455-701…!?
ではなく、団臨運転時に参加者がお手製のヘッドライトを持参してきた。
よく見ると左端にライトを支える手が見える。そう、ただ前にかざしているだけ…
やはり急行はデカ目だ!というイメージが強いのだろう。
2022年9月13日 妙高高原駅(パーツ類は団臨参加者の私物、トキてつの許可あり)
PS.これ持たせてもらったんですが非常に重かったです。非力には厳しすぎた
ただし、シールドビーム車も急行に入っていたことはありました。
が、やっぱり少数派だったわけで…あとは何も言うまい
以上がクハ455-701を急行形と呼ぶには苦しい理由でした。
主に外観が当時の急行と似通っていない点が多い、というのが根拠でしょうか。
4.クハ455-701は急行形なのか?
ケツ論から申し上げます。
どっちでもいいんじゃないかな?
先ほども言いましたが、結局個人の考え方に基づいているところが大きいです。
相方は475系ではなく413系で、デッキ仕切りも消し飛び、
ボックスシートは一部ロングシートに変えられ、デカ目でもない。
「それでも残るものはある」という人は急行形だと言いますし、
「失ったものが大きすぎる」という人は急行形ではないと言います。
別にどっちでもいいと思います。私はどちらの価値観も理解しますし、尊重します。
結局感性は人それぞれなのですから。
趣味ってそういうもんじゃないでしょうか。
いわゆるきのこたけのこ戦争やチョコミント論争のような立ち位置にしておくのも
また一興だと、私は思います。
それに、クハ455-701が急行形であるにしろそうでないにしろ、
貴重な車両であることには変わりがありません。
現にその貴重さを求めてトキてつを訪れる人が絶えないのですから。
結局はどう楽しむか、ではないでしょうか。
ただ、感性の押し付け合いや異端扱いはやっちゃなりません。
それをやったら今度は人としておしまいです。
(これを突き詰めすぎると寛容のパラドックスに引っかかるのですが)
5.筆者はどう思ってる?
急行形。以上。
お後がよろしいようで。