「え?・・・落ちない」

チビちーが不思議な顔をした。

と、そのとき、ゆたゆたの横で、レイジがむっくりと立ち上がった。

 


「え、えぇぇぇー?!」と、みんなの驚愕にちかい声が響いた。

 

「なんだ、おまえら。そんな顔して、大切な人でも亡くしたのか?」
と、レイジが不思議そうな顔を向けると、
 

「レイジ、なんで生き返え……」
と、チビちーの不思議な顔の方が勝っていた。


「レイジと話をしていたら、いきなり、あそこの森の中から
モンスター(ゾドム)が出てきて、レイジを襲って……、
それで、いまリザ(復活魔法)を」と、ゆたゆたが答えた。

 

「ゆた、知雀明から、レイジを殺せって言われているんだろ」
と、チビちーが言うと、

「そうだよ」と、ゆたゆたが素直に答えた。

チビちーたちが不思議そうな顔でゆたゆたを見ていると、レイジが続けた。
「ああ、それでおれに相談してきた。
 レイジ、殺していいかって聞いてきたんで、
 そんなのダメに決まってるだろう!ていっているときに、
 なんかしらんが、後ろから急に頭をガツーンと……」
 

ゆたゆたは、素のボケの持ち主だった。
聞いているみんなは、この気持ちをどこにぶつけたらいいのか分からなくなって、

もう、笑うしかなかった。



レイジは、今回の話をパックラから聞き終わると、

「そーいえば、一度会ってるな」

と、パックラの後ろに立っている風華夢に笑顔を作って見せた。

 

【出逢いはここに】

「はい」と、風華夢はどこまでも低姿勢である。

「あの時、おれを殺りに……」

「はい」

 

「おれは背中を向けて無防備だっただろ。なんで殺らなかった?」

「……」風華夢が下を向いている。

 

「ん?」

「……、いえません」

 

「はぁ」

「わたしには友がいません。心を許す者も。

 わたしは、そういう方に対する言葉を持ち合わせてはおり……」

 

「ちょっと何言ってるか分からない」

 

「レイジ!」と、チビちーが割り込んだ。

 

「風華夢さんは、レイジを信頼しているって言っているんだよ」

「それを一生懸命に伝えようとしているの」

と、ミントブルーが、チビちーの後に続けた。

 

「くろっぴ殿からレイジ殿の話を聞いて、レイジ殿と会いました。そして……」

と、風華夢が話をしている途中で、いきなりレイジが風華夢の両肩に

ドンと手を置いた。

 

「え、ええ!?」

と、一分の隙も見せなかった風華夢のあまりの無防備さに、パックラが驚いた。

 

「まあ、いいや。言葉なんて、もっと肩の力を抜けば、自然に出て来るさ」

レイジが微笑んだ。

 

「そーすれば、なんでも話せるように……」

と、ここで、レイジは気まずいことを思い出してしまった。


(ニュルンベルグといえば、こいつ龍神鬼の仲間だよな……)
 

『あちゃー、なんか悪いことしちまったかも……(汗)。

 でもちゃんと説明しないとな』

レイジが、急に不安顔になってきた。


と、そのとき向こうから、何も知らないヴィシュヌが歩いてくるのが見えた。

「ヴィシュ!」と、レイジが呼ぶと、

それに気が付いたヴィシュヌが走ってやってきた。

「ヴィシュ、これからボクには、重要な盟主の用事があるんで、
 この方に昨日のお話をしてあげなさい!」
と、レイジの言葉に、ヴィシュヌが目をパチクリさせると、

横にいる風華夢を見た。(この人は誰なんだろう?)
 

風華夢が、静かに会釈をする。

ヴィシュヌが顔を戻すと、レイジは疾風のごとく、丘を下って走って行った。
 

「レイジ、足痛いの治ったのか?」

と、ヴィシュヌが不思議な顔で、その背に手を振る。

そのあと、ヴィシュヌから、

昨日の(レイジが龍神鬼を倒した)話を聞き終わった風華夢は、

いつも冷静で、表情を変えたことが無いのだが、
この時ばかりは、大きく動揺をしていることが分かった。
 

「まさか」と、風華夢の言葉は、それだけだった……。

 

 

 

 

星空 星空 星空 星空 星空 星空 星空 星空 星空 星空 

 

 

<1カ月後>
――――血盟ブレイヴディラーのアデン城にて。

 

ブレイヴディラーの盟主アルカンブーストと、

ニュルンベルグの盟主羅漢王(ラカンオウ)の間で、

不戦条約が調印された。

 

 


そして、その場に、血盟フリーダムも同席をした。

レイジも、一人娘の10才になったチルルを連れて来ていた。

 

 


調印式が終わって、中庭に出た所でチビちーたちが、

元フリーダムのタロウを見つけて声をかけた。

 

「タロウ、また、鎧がごつくなったねw」

「あ、ちーさん、ご無沙汰してます」

タロウが頭を下げた。

 

「タロウは見てたんだって、レイジたちの戦いを」

「ええ、龍神鬼を相手にして、さすがにレイジもやばかったですよ」

 

「へぇー、レイジがヤバかったんだ」

と、仁美が楽し気に言う。

 

「後ろの方は?」と、ミントブルーの言葉に、

「ああ、うちの軍師のニアーナです」

と、タロウが答えると、

「はじめまして」と、ニアーナが笑顔で会釈をした。

 

 

その時、レイジが、

「おまえら、ここにいたのか」と、声を掛けながら近づいて来た。

 

「レイジ、相当ヤバかったらしいね」

「なんだよ、仁美。やけに嬉しそーじゃんか」

 

レイジが顔を向けると、

「なんでだろうw」

と、仁美が首を傾げたが、まだ顔は笑っている。

 

「あ、そっだ。おまえら、チルルを知らないか?」

 

「お嬢が、どーかしたの?」

メテオが訪ねると、

「ちょっと目を離したら、どっかに行っちまって。

 アルカンブーストとか、羅漢王に矢を打ってなければいいんだが」

と、レイジが少し不安顔で応えた。

 

 

「うちの盟主に?」

「あ、いや、なんでもない。タロウ、鎧が凄くなったな。

 おれにも、なんかくれ!」

 

「ちゃだ!」

タロウが笑顔で首を振った。

 

「さっき、お嬢を港の方で見たけど」

と、仁美が、海の方を指さした。

 

「そっか、じゃ、またな……、じゃなくって、

 タロウ、横にいる可愛い子を紹介しろよ」

と、レイジが目ざとくニアーナを見つけると、タロウに顔を向けた。

(それが娘よりも大事なことかw)

 

「あっ、うちの軍師……」

 

「レイジさん、はじめまして。軍師のニアーナです」

と、タロウの言葉の途中で、ニアーナが割り込んだ。

 

(いやな予感が……、なにか仕返しされるかも)と、タロウに緊張が走った。

 

ニアーナは、レイジの前まで歩いて行くと、

「フリーダムって、いいチームですね。

 言葉で説明するのは難しいけど、お互いの信頼感っていうか、

 みなさんが纏っている自由な雰囲気っていうのか」

 

「そっか」

 

 

「それに、先日の龍神鬼との戦いで、

 抗うことが出来ない相手を前に、諦めず勇敢に戦っていた

 フリーダムのお二人の魔法職の方をみていて、感服いたしました」

 

「そうですか。で、それから」

 

「……」

 

「え、終わり?」

「はい」

 

「……、ん?ちょっと待って」

レイジが首を傾げた。そして後ろに振り返ると、

 

「いま、レイジの話は出て来た?」

 

「いや」

「ゼンゼン」

「1ミリも」

チビちーと、仁美と、ミントブルーが首を振った。

 

「がちょ~ん!」と、メテオが間を大事にして言う。

しかし、(寒いギャグは)やっぱり誰にもウケなかった。

 

「ん、ま、いっか。じゃあ、ちょっと探してくるわ」

と、レイジが頭を掻くと、少し割り切れない顔で走って行った。

 

その背を見ながら、タロウが苦笑いをした。

女のささやかな仕返しの恐ろしさを思い知ったような気がした。

 


レイジが龍神鬼を倒したことで、アデン城は落ちずに済んだ。
そのアデン城の中で、レイジの人気は凄まじかった。
ブレイヴディラーの兵士たちから、何度も呼び止められて、

ハグやサインを求められた。

 



レイジが港に向かって走っていると、
「そなたが、レイジ殿かぇ、あの龍神鬼を倒した」

と、誰かに呼び止められた。

 

(またかよ)と、レイジが面倒くさそうに振り返ると、

そこには妖艶な容姿の女が立っていた。

 

結い上げた髪には、艶やかな髪飾りが刺さり、
華美な服を着ていて、華奢な肩の素肌が覗いていた。
(ぅわ、すげぇ、タイプなんですけど・・・)

「おう、そうだぜぇ!」
と、多少ワイルド感を出して言ったレイジの鼻の下が、

少し伸びはじめている。

「あたいは、沙羅夜と申すもの。やっと会えたねぇ、レイジ殿」
と、沙羅夜が微笑みながら、傍まで歩いてきた。

「ああ、パックを助けてくれた人か」

 

「助けたのはフーカだけどねぇ。

 パックラ殿から、そなたの話を聞いて、ずっと会ってみたくてねぇ」

「おれの話を……」

 

「そうだね、パックラ殿は、悪口ばっかりを綴ってましたぇ」

沙羅夜が笑いながら言う。

 

「は?」

「なんでも、にいやんは楽な事しかしない、どうしようもない盟主だとか」

 

「まぁ、あってはいるけど。……あいつ、そんな話を」

 

「だけど、そなたに対する愛は、しっかりと感じたぇ。
 それで、最強を倒した強い男に、あたいは、恋焦がれるおとめのように、
 今日のこの日を待ってたんよぉ」

そこまで言うと、沙羅夜はレイジの顔を見て微笑んだ。

 

「え、なにか?」

 

「いい男だねぇ。そなたの顔をみていたら、・・」
「・・・・」

「なんだか、頬にキスをしたくなってきたぇ」

レイジは、うつむいたまま、じっと黙っている。
(ぅわ、ヤバ、リトルレイジがちょっともっこり・・・)

「レイジ殿、ええかぇ」と、沙羅夜が鼻にかかった甘えた声で言う。

レイジは黙ったままで、純粋な少年のような瞳で頷く。

沙羅夜が華奢な腕をレイジの首に回して、傍らに顔を引き寄せた。

「そなたに、いい夢を見させてあげるぇ~」
と、沙羅夜の唇が、レイジの頬に近づいて、
……と、そのとき、2人の間に、背の低いなにかが走り込んできた。
 

「レイジ、お嬢をどうにかしてくれ!」

下を見ると、ドワーフ爺のパブロドムが少し涙目で訴えていた。

 

 

「お嬢が、わしの尻に矢を刺して、追いかけて来るんじゃ」

と、パブロドムの指さす丘の上を見ると、

チルルが悪戯そうな顔をして笑っていた。

 

「こら!チルル」

レイジが怒鳴ると、チルルが丘の向こうへ走って行った。

 

沙羅夜が、パブロドムに驚いて後ろに身をひいた。
 

「ああ、いや、これは……」
と、レイジのシドロモドロの弁解も手遅れだった。

 

パブロドムは、少しばつの悪そうな顔で、二人を交互に見ると、

「わしも忙しいんで、これで」と、港の方へ短い足で走り去った。

 

「娘さんがいるのかえ、レイジ殿」
と、沙羅夜が微笑みながら、

「また、どこかで会えたらええね」と、軽く会釈をして背を向けた。

 

「ああ、じゃ、また」と、レイジが返すと、

 

歩きながら沙羅夜が

「これも世迷言かねぇ~」

と、海の上に広がる青い空を見上げた。

 

 


レイジは、沙羅夜に別れを告げると、

のぼせた頭と、リトルレイジを冷やすために、
小高い丘の上へ歩いて行った。


そこからは、ギラン港と、青い海の地平線が見える。


レイジは、丘の上に立つと、大きく手を広げて深呼吸をした。
気が付くと、いつの間にか、横にゆたゆたが立っていた。


ゆたゆたの方へ振り向いて、村の方へ視線をやると、
フリーダムの連中が、ところどころで、みんながみんな笑っていた。

パックラは胸の病の静養のために、ことみに乗って湯治場へ行った。

しばらくは戻ってこないだろう。

白楓は、左肩の傷が癒えたようで、ヴィシュヌと2人で
アイリス湖を越えて、オーレンの村まで旅に出たらしい。

仁美やチビちーや仲間のみんなが、少しずつ元気になってきていた。

……だけど、1人だけ、殺されたくろっぴの姉のむずだけが、
あれから久しく、みんなの前に顔を出してはいなかった。

それが、みんなにとって、すごく気がかりなことだった。
 

また、いつか、むずが元気な顔で、

仲間のところに戻って来てくる日を、待って……。


 

レイジは、海の方へ顔を戻すと、そっと目を閉じた。


「ゆたも、目を閉じてみな」

「ん?」

 

ゆたゆたは、レイジのなにかを警戒して怪訝な顔を向けた。

 

レイジは目を閉じたままで、ゆっくりと顔を上げた。

アデンの空はどこまでも蒼い。

 

(ここで静かなBGMが流れ始めたルンルン

 

 

 

「聞こえるか」

 

 

 


 

 

「え?なに」












「……風の音だよ♪」
 

 

 

 

 

「……」
それを聞いて、ゆたゆたも、ゆっくりと目を閉じた。

長い髪の毛が、初夏の潮風に吹かれて揺れている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


「うん、聞こえるよ。

 わたしたち、みんなの詩歌(ウタ)が……」





風のように 自由で

 

レベル上げだけに固執せず 


 

旅の中での 色々な出会いや

 

物語を大切にする 

 

それがクランフリーダム♪ 

いつだって みんなで笑っている

 

それが おれたちのフリーダム!





















<エンディングロールが流れ終わったあとに……>


風華夢が、墓前の前の人影をみて、立ち止まった。
無言で一礼をして、背を向けて歩き出そうとしたときに、


「待ってください」と、声が聞こえた。

振り返ると、その人影もこちらを見ていた。
風華夢の足元には子猫がじゃれている。


「フーカさんでしょう」

「はい」


「妹から、聞いたことがあります」

「あなたは?」
 

「くろっぴの姉のむずです。……はじめまして」
と、むずが、すこし悲し気だが微笑んでみせた。

風華夢は軽く会釈をすると、
「これを墓前に供えてよろしいでしょうか」
と、手に持っているかごに入った果物を見せた。

「勿論ですよ。妹もきっと喜ぶと思います」
と、むずが頭を下げた。

「妹から聞きました。フーカさんは、もの静かで
 誰にでも、慇懃な態度で接する方だと。 
 ……うちの誰さんとは、大違いですね」

風華夢からの言葉は無かった。


墓石の前に果物かごをそっと置くと、
むずに深く一礼をして、ゆっくりと歩き出した。
今回の当事者でもある風華夢には、かける言葉が見つからなかった。

風華夢が、数歩、歩いたところで、
なにかに気が付いて、急に立ち止まった。
 

辺りを見渡した。
そして振り返ると、いつも足元にいる筈の子猫が
むずの足元で、鼻をこすっているのが見えた。

風華夢は、それをみると安心した顔になって、
背を向けて歩き出した。

「あっ、この猫は」
と、むずが、子猫を抱き上げながら声をかけた。


風華夢は振り向くと、
「それは、わたしの猫ではありません。
 猫があなたを選びました。
 どうぞ、その猫を育ててやってください」


「いいんですか?」
「はい」と、微笑むと歩き出した。

むずが、足元に子猫をおろすと、猫はゆっくりと

……【キャットザキャット】になった。

 

 

まるで、妹のくろっぴが、帰って来てくれたかのように……


      終劇

 

ここまでお付き合いをいただきありがとうございました。

 

 

 

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