《5時間前》

ニュルンベルグ城で、パックラと沙羅夜が話をしている頃・・。

 

(アデンのクルマ山付近にて)

 

血盟FREEDOMの盟主レイジが、1つ山を越えたところで、

見覚えのある2つの人影が目に入った。
近づくと、それが団員のヴィシュヌと白楓(シロカエデ)だとわかった。


2人は、FREEDOMに入団する前から、
ペアで行動をしていて、ヒーラー(回復)系のヴィシュヌと、
攻撃系魔法の白楓の2人の息の合ったコンビ攻撃は抜きんでていて、
これ以上のペア攻撃をするものに、レイジは出会ったことがなかった。

「レ~イジく~ん」
白楓が、歩いてくるレイジに声をかけた。
 

「レイジ、昨日チビちーになんていわれた」
と、ヴィシュヌが続ける。
レイジが頭を掻きながら、2人の前で立ち止まった。
「おまえら、なんでここに?」

 

「レイジが仲間を巻き込みたくはないってことは、
 みんなにも筒抜けじゃん」
と、白楓の言葉に、レイジが「やっぱダメか~」と頭を振った。

「で、これからどこに行くんだ?」
 

「アデン城だ」と、レイジの言葉に、ヴィシュヌが続ける。

「いまアデン城は、元FREEDOMのタロウがいる
 血盟ブレイヴディラーが城主になっているな」
 

 

「ああ、それでタロウに手紙を送って、
 ブレイヴディラーの盟主アルカンブーストに合わせてもらうことにした」


レイジは2日前に、鷹の足に手紙をつけて飛ばしていた。


「レイジの考えとしては、ちょっとマシな方だね」
と、珍しく白楓が、レイジをほめてくれたので、

 

「だけど、この付近はゾドムの森といわれて、巨漢で、でかい角に

 3本の鉤爪をもった獣鬼が、群れで跋扈している」

 

と、白楓が話を続けているにも関わらず、

「叩かなくても、そばに行くだけで、タゲ(ロックオン)ってくる

 厄介なやつで、1体倒すのに、うちのクラン員なら3人掛でもヤバいかも」

と、それでもレイジは、ふっ、ふっ、ふっと腕組みをして満足げにしていたが、

 

「ま、そのうちの1人がレイジだと、・・・・・もう絶望的だねw」
と、白楓の言葉に、大きくこけたガーン



「それに、ニュルンベルグの龍神鬼(リュウジンキ)とかいう
 四天王最強のやつも動き出しているから、慎重に行動しないとな!」
「ああ」
ヴィシュヌの忠告に、レイジが頷いた。

「ゼッタイ、みっからないようにし・・・」
と、レイジの言葉が、そこで止まった。


白楓とヴィシュヌが、レイジの見つめている後方へ振り向いた。

「うわぁーーーー!!!!」
クルマ山に、3人の絶叫が響いた。



そこには、血盟ニュルンベルグの旗を背負った20人前後の兵と、

 

最後尾に、でっかくて、尋常じゃないオーラを放つものが
3人に向かって、歩いてきていた。


「マジやばいぞ、レイジ」
「ああ、逃げるしかないな」
3人は、背中を向けて反対方向へ走り出そうとしたとき、
ニュルンベルグの兵たちが、それよりも早く、
弧を描くようにして、3人を取り囲んだ。
見事な訓練がされていた。

これが最強龍神鬼の軍隊か。

その中で、ひときはでかくて、圧倒的な威圧感をまとった巨漢が、
レイジの前にゆっくりと歩いてきた。
 

「おまえが、レイジか?」


「ああ」

「おれは血盟ニュルンベルグの龍神鬼というものだ。
 おまえに個人的な恨みはないが、ここで人生を終えてもらう」

「はぁ~、ここはぜったい、はぁ~でしょ。
 な、ヴィシュ、ここぜったい・・」
 

レイジ!ふざけている場合じゃないぞ!」

レイジは、その言葉に精一杯のマジ顔を作って、
龍神鬼に振り返ると、


「てめぇーのこけおどしで、ビビるとおもってんのかよ!
 おまえ、いま、ずいぶん失礼なこと言ってんだぞ!」


「ふふふっ、おれにそんな口をきいてきたのは、おまえがはじめてだ。
 おまえは、自分の限界をしってんのか」


「なんで、限界なんかしらなきゃなんねぇーんだよ。
 よーは、てめぇーに勝ちゃいいんだろーが」

「あんまりおれを怒らすなよ。
 おれの中の狂気が目をさますと、おれにも抑えられなくなるからよ」
と、龍神鬼が不愉快そうに眉間にしわを寄せた。

圧倒的な威圧感をまえにしているのに、レイジは全く意に介していない。

 

(どこまでもアホなのか?)
白楓とヴィシュヌは困惑の表情で、顔を見合わせた。



「じゃーさ、あやまるから、許してくれるかw」


「ふざけるな!」
龍神鬼が、凄まじい形相になってきた。我慢も限界に近い。


「おれは、かーちゃんから、頑張るときには、
 ちゃんと頑張れる大人になれ!って育ったんだよ。
 てめぇーのかーちゃんはどーだった?」

「すぐに終わらせてやる!」


「あのさぁ、おまえ、わかってねぇーな。
 おれが絶望したり、あきらめなきゃ、なぁ~んも終わったりしねぇーよ!」
レイジの挑発に、龍神鬼はもう言葉を返す気はなかった。
龍神鬼がレイジへゆっくりと向かってきた。

 

そのとき、レイジが攻撃力を高める高級スク(店で買える魔法薬にようなもの)を使った。

ピキーーーン!

 

「レ、レイジ、それって、1.2Mもする!?」

 

「おう、最上級の攻撃力UPスクだ!」

攻撃力を数倍上げることが出来る、そのスクロールは相当高価なものだった。

が、勿論、仲間からタダでもらったものなので、

その価値を理解していないレイジには、惜しみなく使えた。

白楓とヴィシュヌが頭を振る。

 


「ヴィシュ、おれがこいつ(龍神鬼)を殺るから、
 おまえらは、後ろの兵を頼むわ。
 もし、手薄になったところがあれば、迷わず逃げろ。
 1人でもいいから、必ず生きて逃げろ!」
と、レイジが2人に振り返ると、顎をしゃくって見せた。

ニュルンベルグ兵の後ろには、ゾドムの森があった。
奇跡的にニュルンベルグの兵から逃げられたとしても、
その後ろには、ゾドムの群れが待ちかまえていた。
 
ヴィシュヌと白楓には、どちらにしてもあきらめるに

十分すぎるほどの状況だった。
2人には、ここがぜったい「はぁ~アセアセ」だと思った。


「おれがやるって、レイジふざけてないで、おまえだけでも逃げ・・」
と、ヴィシュヌの言葉の途中で、

「うぉりやゃゃーーーーー!」と、


いきなりレイジが両手剣を振り上げて、
向かってくる龍神鬼へ、逆に自分から突っ込んでいった。

「ガギーン!」
レイジの剣が、力一杯に龍神鬼の胸を直撃した。
 

「龍神鬼様!」
まさかレイジの攻撃が当たるとは、取り巻く兵たちがどよめいた。

「え?やったのか!」
ヴィシュヌが声を上げた。レイジは攻撃力をUPしている。


画面に流れてくるメッセージを固唾を呑んで待った。



『レイジが・・・・

 

 

 

 

 

       8のダメージを与えました!』


「うわはっははは・・」
龍神鬼の大きな笑い声が響いた。龍神鬼の最大HPは3100だった。
龍神鬼はあえて避けずに無防備でレイジの攻撃をうけたのだ。

逆にレイジの剣を持っている両手の方がしびれていた。
(攻撃側もダメージをうけるゲームなら、軽く1万ダメは超えていたw)


「これでは冗談にもならんわ」
龍神鬼の言葉がすべてを物語っていた。


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<血盟ニュルンベルグの本城にて>

 

城内のパラス(居館)へ戻りかけていた沙羅夜(サラヤ)

急に立ち止まった。


「願い下げだねぇ~、やっぱりあたいには」

と、踵を返すと、沙羅夜が地下の牢獄へ向けて走り出した。




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<血盟ニュルンベルグの王室にて>
「アンタが、ここの大将か?」
醜悪な風貌をした盗賊団の首領ゴリアテルが聞いた。
その横に、熊皮を羽織り、鎖窯をもった大きな男がついている。

ニュルンベルグの盟主・羅漢王(ラカンオウ)が座ったまま、頷くと、


「知雀明(チジャクミョウ)から、まだ半分の報酬をもらってないんで
 アンタがはらってくれねぇーかな」

と、ゴリアテルが続けた。

少し前に、知雀明を呼べと騒いでいる集団がきて、
門前で知雀令(チジャクレイ)が話をきき、羅漢王に報告をした。
「武器は預けられない」というゴリアテルたちを、
羅漢王は、そのままでよいから通せというので
知雀令が、王室へ招き入れていた。


 

「なんの話だ」
羅漢王の重厚な声が響いた。

「アンタのとこの知雀明から、FREEDOMとかいう旗をつけて
 2つの村を焼き払えと頼まれた。その報酬だ」


「それは本当か!」
羅漢王は腕をくんでにらみつけた。

「ああ、うそじゃねぇーよ」
と、ゴリアテルがちょっとイライラぎみに
高価な敷物の上に唾を吐いた。

ゴリアテルの部隊は、ほとんどが囚人で、
残虐極まりなく、暴虐の限りを尽していた。


「幻妖斎!」
羅漢王の声に、天井から漆黒の甲冑を着たものが
ゴリアテルの目前に、音もなく降りてきた。

「話は聞いていたな」

「御意に!」

 

「ならば、このものたちへ見合った報酬を。
 外にいるこのものの仲間たちも、すべてにだ!」

その重い声には、強い怒りを感じた。


「御意に!」
幻妖斎(げんようさい)は、王を守護する兵の取りまとめで、
羅漢王の影として支えている。

一瞬だった。
盗賊団の首領ゴリアテルと、横の大男の首が宙を舞った。

その後、中庭へ向かう幻妖斎とすれ違うように、
先ほど城へ戻った風華夢(フーカム)が、王室に駆け込んできた。

羅漢王は、風華夢の話を聞くと、
「すまぬことをした」と、自分への怒りを抑えながらつぶやいた。

「罪なきものの犠牲を、これ以上は出さぬように頼む」
と、羅漢王の言葉に、知雀令があることを思い出して叫んだ。

 


「あっ!いま、FREEDOMの方が、地下で悪豚卑(アントンヒ)の拷問を・・」
話が終わる前に、風華夢が地下へと走り出していた。



羅漢王は、知雀令に我が側近兵をつれて、鎮めてくるようにと命じた。
知雀令も、精鋭20名を連れて、地下へと向かった。

「まにあってくれ」
羅漢王にも、不死身の悪豚卑がお遊び(拷問)を中断されたときに、
どのような結末になるのか、予測ができなかった。


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<血盟ニュルンベルグの地下の牢獄にて>

 

沙羅夜の華奢なわき腹から、血が流れていた。

沙羅夜が、FREEDOM血盟のパックラの拷問を中断するようにいうと、
悪豚卑の目が異様に変わりおでの獲物をとるなー!
いきなり襲い掛かってきた。

兵たちも、悪豚卑の殺されたいのか!との恫喝に
震えあがって、槍兵4人が沙羅夜を取り囲んだ。

悪豚卑(アントンヒ)は、
肥満体で巨漢、深緑の強靭な外皮を纏い、
その外皮は、どんなに強力な剣や斧でも通用しなかった。
激昂すると顔全体に血管が浮かびあがり、
怒りで狂乱すると、敵も味方も見境がなくなり、手に負えなくなる。
悪豚卑は、地下牢に200年間幽閉されて拷問をし続けられだが、
それでも死ななかったという、不死身のうわさもあった。



沙羅夜は、パックラを左手で抱えながら、荒い息遣いで膝をついた。
 
「ゼェ、ゼェ、やっぱり斬られると痛いもんだねぇ~」
と、短剣をもった右手で、わき腹を抑えている。

パックラが縛られていた縄は、沙羅夜の剣で切ってもらったが
口に入れられている拘束具は、後ろの頑丈な南京錠が外れない。

喋ることができないパックラが『どうして戻ってきたんですか』
沙羅夜に目でうったえていた。

「そーだねぇ、納得できないことに知らん顔ができない、
 やっかいなあの人の血が、あたいにも流れているからかねぇw」
と、沙羅夜が少しあきらめ顔で言った。
 
沙羅夜は、誰かを守りながら戦うことの難しさをはじめて知った。

そのとき、2人の弓兵の矢が同時に放たれた。
パックラに向かってくる1本は、沙羅夜の短剣ではじかれた。
が、もう一本が沙羅夜の右太ももを貫いた。

「うっ、」沙羅夜が小さく声を上げた。
素早い動きが、これで封じ込まれてしまった。

『もういい、おれはもういいから!沙羅夜さんだけでも逃げてください!』
パックラが目でうったえて、大きく首を振ると、涙が飛び散った。

「やだねぇ、なんだか、あたいが男を泣かせてるみたいじゃないかw」
と、沙羅夜が満更でもない顔で微笑んでみせた。

沙羅夜は、悪豚卑に再三攻撃を試みたが、
強靭な外皮に短剣では、傷一つ付けることが出来なかった。
戦いながら、悪豚卑の弱点が眼球であることは分かったが、
自分の倍近い高さにある悪豚卑の頭までは、攻撃が届かなかった。

後方の弓兵をみながら「あたいにも弓があれば」と思ったが、

ここは自城のため、大弓は自室に置いたままだった。
本来沙羅夜は弓の名手であった。

牢獄へ飛び込んだ時に、取り囲んできた槍兵4人は倒したが、
弓兵の2人と、傷一つ付けられない悪豚卑を相手に、
パックラを安全なところまで連れていく手段を
沙羅夜には思いつかなかった。

「今回ばかりは、あたいの負け戦かねぇ」
沙羅夜は、はじめて八方ふさがりの思いを感じていた。

 

 

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