こちらのレビュー雑記はすでに読了された方向けです。

 

壮大なネタバレを含んでおりますので、まだお読みになられていない方はご注意ください!

また、水魑以前の過去作(厭魅・首無)についてもネタバレ言及していますので、「困るよ!」という方もバックしてくださいませ。

 

 

 

 

 

というわけで、今回は水魑について語ってみたいと思います。

 

本当は次は山魔について書こうと思っていたのですが、色々と読み返してみても、自分の中では山魔が最高傑作すぎてツッコミ考察のしがいがなく…笑

 

私が今更考察するまでも感想を述べるまでもないというか、もう満足のひとことだったので、逆に何を書くべきか思い浮かばなくてですね。しいて言うなら、山魔の表紙はユリなんだろうな…ということくらい。

 

刀城言耶シリーズはどの作品から読んでも大丈夫なようになっているので、これからシリーズを読んでみようかな?という方には個人的には山魔をお勧めします!

 

 

 

さて、水魑です。

 

端的に言うと、好みが別れるだろうな、という作風になっています。理由は

 

1.ホラー要素が弱い

2.突然のラブコメ

3.キャラクター造形・人物描写の弱さ

4.長すぎる

5.無理のある警察不介入設定

 

ではひとつひとつ検証?してみましょうか…。

 

 

 

ホラー要素の弱さ 

 

 

今作では宮木正一や祖父江偲、刀城言耶がなんとなく怪異に遭遇っぽいことはしてますが、ホラー要素はほとんどオマケですね。

どちらかというと、沈深湖での密室殺人事件トリックがメイン。

三津田作品のホラーを求めて読むと、大分物足りない構成になっていると思います。

 

御蔵様や水魑様、泥女、ボウモンといったそれっぽい存在は登場しますが、泥女はメインではないし、御蔵様については言耶の謎解きで龍璽による生贄の監禁場所であることが明示されてしまいます。

水魑様についても、増儀で本当に雨が降るし、最後は神の怒りとしか思えないような大洪水で波美の4/5が流されて壊滅状態になるといった天災が都合よく起きている以上、おそらく本当に「ある」んだろうなとは思わされるのですが、いかんせん本編あらすじにあまり関係ないというか、メインじゃない感じがあって…。

 

だって増儀で本当に大雨降るんですよ?そこもっと皆で騒ぐというか、本編でも掘り下げてほしくないですか?

私、気になって仕方なかったのですが‥‥。殺人事件が起きてそれどころではなかったとはいえ、存続の危機にさらされるほどの干天が解消されたのに、誰もそこについてほとんど触れてないのがなんか不思議で…。

 

あと、正一の洞穴体験。あれもね…笑

まさかの真相でしたね。

笑っているようにも、泣いているようにも、呻いているようにも、叫んでいるようにも、如何様にも聞こえる奇妙な声。

これがまさかの、正一の姉・鶴子の逢引き中の声だったとは…。

 

え?ってなりました。笑っちゃったよ思わず。

突然のエロ?というか、ギャグ?笑

 

重蔵が舞鶴まで迎えに来たシーンでつぶやいた「追いかけて来よったか‥‥」もね。

厭魅とか蛇棺葬とか読んでると、憑き物筋について三津田先生がどういう描き方をするかを把握できるので普通に読めるのですが、「何が追いかけてきたのか、伏線だと思ってたのに最後までわからなかった」というレビューもあって。

三津田先生は結構、他の著作を読んでいることを前提とした(もしかしたら先生はそう思われていないかもだけど)雰囲気の作風を書かれることが多いので、そう思うと三津田作品を読んでない方にとっては更にホラー要素が薄く感じられたのでは…。

 

ただ、ホラーミステリというジャンルは全部に綺麗な論理的解釈がなされるわけではないので、そこにストレスを感じるような方は今作のようなホラー要素の薄い「ホラーっぽいミステリ」の方が楽しめるのかもしれないですね。

 

実際、水魑は人気作みたいですし…。

 

 

 

シリーズ急速方向転換!祖父江偲は言耶狙い! 

 

これもねぇ、、、

以前から、編集者にしては距離感がちょっとおかしいというか…。

編集者と作家の関係性の「普通」を知らんだろと言われればそれまでなんですけど、今までの過去作の言耶と偲の会話(というより偲の言耶への態度)って、「仕事」というよりも「プライベート」感が強いなとは思っていたので、個人的に偲は苦手なキャラだったんですが。

 

私職場や仕事関係の人と「友人」みたいな距離感で接する人が、個人的にあまり好きではないんですよ…。

店員さんとか美容師さんとかと、仲良くなったからってプライベートで繋がろうとする人とか…。

 

偲には、なんとなくそういう「勘違いして線を越えようとする人」と同じ空気を感じていたのですが、シンプルに恋愛感情だったんですね。

 

ちょっとね、一気に気持ち悪くなったな…とは思いました。

でも、今までの登場シーンのセリフ的にも、好人物としては描かれていなかった(三津田先生は偲のような女性が好きなのかもしれないけど)と思うので、急に毛〇蘭・遠〇和葉・水〇可奈・七〇美雪のようなヒロインキャラクターポジになって衝撃。

今までもそうではあったけど、今作では出番がずっと続いた分、ドヤ顔で女房ヅラ&自分を最優先してくれて当然!な態度が何度も出てきたのにうんざりしました。

なぜ男性の描くヒロインは穢れも自我も頭も足りない子か、我儘で性格悪い子のどちらかなんだろう…?頭もよさそうに見えないし、偲絶対女友達いない。

 

色々レビューを漁ったところ、「阿武隈川と偲と言耶の三角関係が始まって尊い~~ラブラブラブ」「どっちとくっつくのかも今後の見どころ!」みたいな意見を見かけたので、女性ファン向けの展開なのかな?アホくさー。

「偲ちゃん可愛い!言耶とくっついてほしい!」と言っている女性と、「急なラブコメ。今後こういう展開がメインになるなら読み続けるのは苦しい」という男性の意見に分かれているような印象です。

 

 

 

キャラクター・人物描写の難 

 

これって三津田先生に問題があるんじゃなくて、男性能・女性能の違いかなとも思うんですが。

 

男性ってシステマチックというか、物語の設定やシステムや世界観の作りこみがすごくて、事前にものすごい調査したんだろうな…という詳細な説明描写がめちゃくちゃ面白い分、人間味あるキャラ造形や感情描写が苦手な作家が多くて。

女性は逆に、物語の設定やシステムや世界観の作りこみの甘さを、丁寧な人物・感情描写で「物語」に昇華させるのがうまい方が多いな…と思います。

能の構造の違い上、女性は恋愛を、男性はファンタジーやバトルを描くのがうまい気がします。

 

実際、三津田作品でもキャラクターは結構パターン化されてるんですよね。

 

探偵役、語り部となる少年、村の男衆にモテまくりの神秘的な美(少)女、その彼女に惚れている端正な顔立ちの青年(言耶に協力的で村の内情を説明してくれる)、言耶の行動を制限する村の長的な重鎮年寄り、その長に唯一対抗しうる力を持った(言耶に協力してくれる)重鎮ポジの男性、シニカルだけど言耶を認めてもいる中立的態度の男性…などなど。刀城言耶シリーズ以外でもよく見かけるパターンです。

 

でも作品の面白さで全然カバーできているし、そもそもホラーミステリを楽しみたいと思って読んでいるから、別に丁寧な人物描写や「感情移入したくなるキャラ」は必須ではありません。

作品の登場人物が、単なる「役割を担った記号」化される問題って、どんな作品でも普通にあるし、私は三津田作品のファンだし、今まで特にそれが気になっていたわけではないんですよ。

ドラ〇もんなんて典型的な記号化キャラしか出てこないけど、長く愛される国民的マンガになっています。

むしろ記号化される方が、感情移入が不要な分、理解りやすいとも言えるし。

 

でも今回はちょっと気になってしまったかな…という印象。

言耶は読者に嫌われない嫌味のない爽やかな主人公ではあるけども、阿武隈川や偲はどう考えても万人受けする好人物ではないし、導入部分で癖強めのふたりが出張りすぎていたために、序盤にして既に食傷気味になって…。

 

その後、本編に直接関係のない冗長な少年視点が続き(三津田先生は少年視点を書かないと発作が起きる持病がある気がします)、肝心のホラー要素が薄いうえに突然のラブコメ要素がぶち込まれ、パターン化されたキャラクターたちの誰にも共感を覚えられないまま、(後述しますが)ミステリでも消化不良で終わっていく…。

 

ホラーミステリがウリなのですから、ホラーミステリの部分が揺らぐと途端に人物描写の難が浮き彫りになってしまいますね…。

 

正直、世路と游魔と芥路は無理やり3人にしなくてよかったかな…。

世路の息子はむしろ芥路ではなく游魔にする、もしくは芥路を残すなら、世路を游魔にする方がよかった気が。

 

正一の姉もひとりでよかったです。弟を守るために祖父の言いなりになっていた鶴子が、儀式の真実を知らぬまま、実は生娘ではない身で生贄にされる。

その事実がどのように水魑様の怒りや儀式に影響を与えるのか。

鶴子と通じるのは芥路というより游魔にし、儀式後に姿を消した鶴子を巡って游魔や正一が言耶とともに奔走する。

その方が色々とキャラに魅力が増したんじゃないかなあ…。

 

久保や清水、青柳富子もいくらでも面白く絡ませることが出来た設定を持っているのに、本編で全然目立ってなかったですよね。

辰卅だって本当にもったいないです。辰卅はもっともっと本編に絡んでほしかった…。

世路と游魔がメインになったために、辰卅の設定が全然活かされずにあっさり殺されて本当にもったいない!

いくらでも面白くできたと思うのですが…。

 

辰男は事故死だったのですかね?それともボウモンが絡むのか?

辰男のボウモンが原因と言われた龍一の死は、怪異ではなく生贄にされた市郎に殺されたとみなされているので、真の怪異とみなせるのは辰男だけ。

そこに関しては、謎というよりも放置で終わりましたよね。いや、怪異が原因の場合だとしたら「多分事故死でしょう…」ってことで終わらせるしかないんですけど、なんというかとてもおざなりな扱いで…。

 

あとせっかく左霧を登場させるなら、むしろ左霧をもうちょっと意味のある役にしてもよかったのでは?

未読の方へのネタバレを防止するためか、厭魅についてはほとんど触れていませんでしたが、私の認識では時系列的に水魑は厭魅より後のはずですので、神々櫛村のことを知らない言耶、というのは違和感を覚えました。

 

もちろん、このシリーズは「言耶(もしくは別の作家)が執筆した小説」という構成を取っているので、言耶が本当に神々櫛村のことを知らなかったという意味ではなく、物語の演出上そういう書き方をしただけ、と受け取れるのですが…。

 

だとしたら、正一の母親が左霧である必要性は全くないですし…。

むしろ「我が子が将来的に生贄にされるとわかっている生家に戻る方がなんぼか増し」なくらい酷いとされる主人の実家・宮木家の事情を明かしてほしかったです。

なぜ、そんな酷い家に、世路は愛する左霧を預けたのか?

そして、なぜそんな酷い家の生まれであり、愛する世路の友人でもあった宮木と結婚したのか?

 

阿武隈川や偲の登場を失くして、そちらを書いてくれる方が左霧や正一、鶴子、小夜子というキャラクターを掘り下げられたし、正一一家と深くかかわることになる世路や芥路、游魔の人物描写も深くなるのにと思いました。

 

正一視点の話に長く頁を割く割には、正一と言耶はほとんど絡みがなく、解決編以降では一度も姿が見えないまま終わったのもちょっと消化不良です。

游魔が「美しく育ったから」という理由だけで鶴子や小夜子を好きになり、体を張って正一のことを庇い、最後には言耶と偲を葬るために自分の命すら投げ出すことを視野にいれるのも、イマイチ理解できなかったですし…。

 

波美地方に伝わる水魑様の怪異と関連したミステリを描きたいのか、性格に難のある先輩・編集者とのラブコメ三角関係を描きたいのか、三津田先生がこの「水魑の如き沈むもの」で何を描きたかったのかがあまり伝わってきませんでした。

 

 

700頁超えの長編だが、やろうと思えば2/3くらいに出来るのでは? 

 

一章・二章:言耶・偲・阿武隈川の会話形式による波美地方の説明

三章・四章:語り部・宮木正一の過去話(三津田先生の大好きな少年視点)

五章:波美にたどり着く言耶と偲。物語の導入部分。起承転結の起。普通の小説なら序章か一章。

六章~八章:正一の過去話~現在。五章ラストに繋がる。

 

上記で300頁!普通の小説ならもう起承転まで終わってる長さですよね。笑

上記でも述べましたが、正一視点の頁が長々と続く割には正一が全然言耶と絡んでこないんですよね。

 

犯人は結局名言されず(されてるのか?)、小夜子か正一かどちらかわからないまま終わりましたが、あんなにあっさりと退場させるなら、正一視点の長いシーンは全カットでよかったし、序盤の阿武隈川と偲のシーンは言耶にやたら協力的な游魔か世路の口から語られる方がよかったです。

 

これだと、300頁は100頁くらいに減らせるはず…笑

でも今作で一番面白かったのは正一たちの満州引き上げのくだりだから、何とも言えないですよね…。

 

あと、最後の正子。これも後述しますが、もし正子が小夜子だとすれば、勘違いととばっちりで龍吉郎や辰卅を手にかけた小夜子があっさりと普通の幸せを手に入れているのも大分違和感でした。

神男連続殺人にする必要なんてなかったんですよ…。龍吉郎や辰卅を殺さず、被害者は普通に龍三と最後の龍璽だけでよかった。

連続殺人を成り立たせるための時間稼ぎで正一や偲の監禁の流れになったように思うのですが、ここら辺は本当にいらない展開でした…。

 

 

治外法権とはいえ、さすがにやりすぎな警察不介入シナリオ 

 

これは本当無理がありましたね…。

いくら波美の地で龍璽が神様のような存在であるとはいえ、遺体を勝手に埋葬して殺人をもみ消すなんてありえません。

警察にお偉いさんの知り会いがいるとかいうけど、その理屈が全く通らない唯一の相手が村外から来た言耶のはず。

というか、警察のお偉いさんにも息のかかった人間がいるから警察不介入でいいんで!の理屈が通るなら、地方の山奥じゃなくて舞台は東京神保町でもいいですよね。笑

 

挙句、村人ですらない祖父江偲を監禁し、命を奪われたくなければ警察に連絡するなとか…。

さすがにちょっとお粗末すぎました。偲は東京の出版社で働く社会性ある成人ですし、大阪の実家には家族がいます。

そんな偲が監禁されて手も足も出ないって…。偲は苦手ですが、ここの言耶に対してはさすがにそりゃないよ!って感じでした。

 

これ多分ラブコメ要素を描くべく、無理やり偲を囚われのヒロインにするためのこじつけですよね…。

どちらかというと、偲は不在で言耶本人の命、もしくは正一と言耶にもっと関わりをもたせた上で正一を人質に取られる方が自然の流れだった気がします。

 

おそらく探偵もののヒロインがピンチになった時に、ヒーローに「信じてるから…」と健気さと信頼と愛を見せるシーンを書きたかったのかもしれませんが、ぶっちゃけると「さんざん言耶の邪魔しといてどの口で言ってんだ?」としか思いませんでした…。最初から着いてこなきゃよかったのに…。

編集者としては優秀らしいですけど、読者は偲の優秀な場面を見ていないしね。

 

いやもうこれね、言耶と偲が付き合ってるならまだわかるんですよ…。

でもそうじゃないんなら、なんかおとなしく龍璽の言うこと聞いてる言耶にびっくりしました。流石に、ない!

 

游魔の運転する車で波美を出て、東京に連絡して、警察に通報した方がいいです。

というか本当に偲の命がかかっているなら、父親に頭を下げてでも警察を介入させるべきです。

だって相手は殺人事件すらもみ消すような人間ですよ。

事件を解決したからって、全てを知る言耶と偲をおとなしく開放してくれるう保証なんてどこにもないわけだし。

警察一択。一般人ならともかく、言耶は親子ともども警察もお世話になってる実績ある著名人なので、言耶の通報を完無視するってことはないかと…。

 

あと小夜子の監禁もね。監禁を長引かせた方がいい理由なんてないに決まってるのに、なぜそろいもそろって「今は下手に開放しない方がいい状態」って何それと。なぜ誰も突っ込まない?

正一が犯人ならすでに小夜子は殺されていますし、小夜子が犯人なら監禁された正一がいつ龍璽の手にかけられるかわからない状態なので、この時点で龍璽を射殺して終わりでしょう。

 

ちょっと矛盾が目立ちすぎましたね…。ほんっっっっっっっっっとうに偲の存在と偲とのラブコメを無理に入れなくていいです…。

偲とのラブコメのために、神男連続殺人事件にしなきゃいけない、偲が監禁されないといけない、龍璽を最後まで生かさないといけない…etcetc

物語がどんどん破綻していく…。本当に悲しいです。

 

 

四つの村に、四つの神社。二重山の沈深湖から流れる深通川。波美の地に伝わる水魑様の存在。

実際にありそうと思わせる「戦後昭和の時代、地方の山奥の因習深い村」の描写がバツグンにうまいのが三津田先生です。

三津田先生は民俗学に精通されているだけあり、儀式の描写も本格的でめちゃくちゃ魅力的かつ興味深いんです。

神饌が女体を表しているとかすごくよかったです。若芽、南瓜、瓢箪、蕪、細い大根、太い大根、水雲、猪の肝、鮑…。

もうゾクゾクしますね!供物の樽とか、もっともっと増儀と減儀について頁を割いてくれ!となりましたよ。

沈深湖周辺図だって、よくもまあここまで魅力的な舞台を思いつくな…と。なのに。

 

本当に魅力的な設定や世界観や舞台を用意できるのに、なぜこうなってしまうのか…。

三津田先生、ファンが見たいのはホラーミステリであって、矛盾しまくりの三流ラブコメではありません。

どうか後生です…。どうか、どうか。

 

 

正子の正体とは? 

 

まあ、愚痴はこれくらいにして…。

 

今作のレビューで読者が最も気にかかるポイントが、ラストの「正子」の正体だと思います。

ここで考えられるパターンは3つ。

 

①正子=正一(犯人は正一 or 犯人は小夜子だが洪水で死亡)

②正子=小夜子(犯人は小夜子)

③正一でも小夜子でもない、単なる他人の空似

 

まあ、おそらく③の可能性はほぼないと思うので‥‥‥。笑

正子は正一か小夜子か意見が分かれるところですが。

 

一番オーソドックスなのは②ですね。

多分三津田先生も、読者がそう受け取ることを見越して書いている?と思うし。(ミスリードの可能性もありますが)

流虎にも「非常によく尽くした」とありますから、未遂とはいえ殺そうとした義父への小夜子なりの罪の意識、禊という意味かなと。

ただねぇ…。

 

上述しましたが、勘違いととばっちりで龍吉郎や辰卅を手にかけた小夜子があっさりと普通の幸せを手に入れている、というのが何とも違和感で…。

 

これ被害者が龍璽と龍三だけなら正子が小夜子でも全然ありだったんですよ。

正直、珍しいハッピーエンド系だったのに、正子が小夜子だと、結局龍璽と同じように人の命を簡単に奪える人間がハピエンを迎える、という何ともスッキリしない終わり方で…。

 

辰卅はまだしも、龍吉郎なんて相当よくしてもらっていたはず。母と恋仲であった世路の父親だし、自分たちを引き取ろうとしてくれていた人ですよ。

なんというか…もうちょっと何とかならなかったんですかね、シナリオ…。

 

まあ、偲とのラブコメのために無理やり連続殺人にした(と私は勝手に考えていますが)から仕方なかったのですが、個人的に龍吉郎は死んでほしくなかったキャラクターでもあったし、小夜子や鶴子、正一は当然ですが辰卅にも救いが欲しかっただけに、本当偲とのラブコメさえなければ‥‥!!!!

 

いや、本当小夜子にも鶴子にも正一にも幸せになってほしいし、小夜子にも生きていてほしいのですが。

実際、小夜子が犠牲になった、と判明したシーンではあまりの悍ましさとショックに私も読んでいて震えましたし。

だから本当もったいないというか、残念というか‥‥、本当偲とのラブコメさえなければ‥‥!!!!

 

はぁ‥‥汗あーあ…。

 

 

閑話休題。

 

 

個人的には、正子=正一説の方が好きなルートではあります。

 

正一が女の子なのではないか、と匂わせる?とまではいかないけど、暗示的な箇所もいくつかありますよね。

 

・最も左霧の力を受け継いでいるのは正一だった(力は双子の女児に受け継がれる)

・魔を遠ざけるためにあえて犠牲を思わせるような名づけの例

・魔を欺くために性別すら偽って育てた過去作の例(妃女子と長寿郎)

・正一たちの身代わりとなった佐用家の子供たちが全員「男の子」だったこと(「三姉妹」の対比?)

 

游魔と小夜子は本編ではほぼ関わりがないですし、どちらかというと小夜子のなかで游魔の評価は低いと記述がありますから、游魔と幸せな夫婦になったというのであれば正一の方がしっくりくる気がします。

それに正子が小夜子だった場合、小夜子生存=犯人は小夜子になりますから、重蔵はまだしも罪のない正一のその後に触れられることなく終わるのも何か不自然な気も。

 

引き揚げ船のなかで正一が小用を足すシーンがありますが、これも絶妙なんですよね。

「揺れる便器に向かって小用を済ませ」如何様にも受け取れるというか…。

 

また鶴子逢引きの洞穴(笑)でも、おや?と思ったシーンがありました。

鬼女が追いかけてきている最中、ずぶぬれの正一はあろうことか洞穴を出る前にわざわざ服を着てるんですよね。

正直、男の子なら全裸で逃げてもいいのでは?と思ったので、大分印象に残ったんです。

でも女性だったとしたら、いくら後ろからやばい何かが追ってきてるとしても、さすがに全裸で逃げるのには相当の抵抗がありますから…。

 

鶴子がおかしくなりかけた時、左霧があっさり受け入れたということは、怪異が追いかけてくる覚悟は出来ていたということですし、末子の正一に呪いとして、性別を偽って育てたとしてもおかしくはないのかなあと。

 

でも、6歳から13歳までの年月を過ごして、留子や龍璽に女の子だとバレない、というのは果たしてありえるだろうか…。

13歳って微妙な年齢ですよね。男の子でもまだ成長期を迎えてなければ、声変わりもせず身長も伸びず、女の子に見える子もいなくはないし。

女子でも、まだぎりぎり初潮を迎えていない年齢ともいえるし。

 

それに、ソ連兵襲撃の際に正一だけ部屋に残されたことを考えると‥‥‥。

でもあそこは一か八か一番女らしくない正一(鶴子、小夜子の年齢から察するに3~4歳と思われる)を残すしか全員助かる道はなかったし‥‥。

非常に難しいところ。

 

 

ただ、事件の犯人は正一というよりも小夜子の方がしっくりくる気がするんですよね…。

なので、「犯人は小夜子だが、当の小夜子は洪水で行方知れず。生き残った正一が実が女の子であると知った游魔は、愛らしい女性に成長した正一を「正子」と名前を変えさせて嫁に貰った」というパターンもあり得るのかなと…。

 

正直、小夜子=正子なら、誰も彼女の正体に気づかないものなのか?という疑問も残るところですが、もともとは正一という男の子が、数年後正子という女性になって登場したら誰も気づかないというのは納得です。

三津田先生もあえて、正子が小夜子とも正一ともとれる書き方をしていますし、「明るくて優しく、すぐ村に溶け込んだ」というのは気の強い小夜子よりも優しい正一の方がしっくりくるかな。

 

というわけで、私としては「犯人は小夜子、正子は正一」説を推します。小夜子がなんとも可哀そうですけどね‥‥。

 

 

 

 

ひとつ気になったのは、鶴子と芥路の関係。

結果夫婦になったみたいですが、鶴子が初対面の世路を「お父さん」と呼んでいますし、もしかしたら鶴子と芥路は異母姉弟かもしれませんよね。

左霧は否定していましたが、唯一真実を知る左霧も、真相に近づけそうな世路もいません。

 

正一たちの父親が宮木家から勘当されたのも、他の男の子供を身ごもった女を嫁に取ったから、とか…。

色々と深く考えると、やはり考察しがいのある不穏なラストではあるなと思います。

 

 

総評 

 

今作がとても人気なのは、ホラー要素が薄く、ほとんどがミステリとして解決されたからでしょう。

私的にはホラーミステリのジャンルって大好きなんですけど、三津田作品のレビューを見てるとよく目にするのが、「全部が解決されなかったことへのフラストレーション」なんですよね…。

 

個人的には全部が解決されてほしいならミステリを読めばいいじゃない、と思うのですが、うーん…。

まあそういう強気な姿勢で読者をシャットアウトするのもって感じなのかもねえ。

やっぱり万人受けするのは「ミステリ」なんだろうなぁ…。

 

あとは、相棒役の子がいる方が書き手としても話が広がりやすくて書きやすいっていうのもあるし、女性読者へ向けて恋愛要素も入ってる方がいい。

そう考えると、水魑はシリーズ1、多くの人に受けやすいバランスのいい作品だったと言えると思います。

 

表紙は、鶴子かな?

ワンチャン、若かりし頃の汨子とか、龍璽に生贄にされた巡礼の親子とかも考えたのですが…。

まあ多分鶴子かなぁ…。左霧や小夜子、青柳富子ってこともなさそうですし、泥女?とも思うけど、泥女は今作のメインではないから…。

水魑様が女性の姿を取っていて…とも考えられますかね?うーん…。表紙の中で一番誰だかよくわからないのが今作ですね。

 

 

 

次回は幽女についてです!