こちらのレビュー雑記はすでに読了された方向けです。

壮大なネタバレを含んでおりますので、まだお読みになられていない方はご注意ください!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私実はこの作品そんなに好みじゃないんですよね‥‥。初っ端からごめんなさい。

 

理由は単純明快いたってシンプル。

ほぼ刀城言耶が出ていないからです。

 

私は三津田作品に流れる民俗学の空気がすごくすごく好きなのですが(イチオシは「蛇棺葬」)、キャラクターへの愛も同じくらい重要視しています。

ミステリーでいえばアガサ・クリスティ最推しで、もう心の底からクリスティを敬愛しているんですが、「そして誰もいなくなった」は超傑作と思っているけど、一番好きなのはやっぱりポアロが出てくる作品なんです。(イチオシは選べません、ポアロの全てです)

なぜなら、魅力ある探偵の魅力には、どんな素晴らしいトリックも叶わないと思っているからです。(※完全に個人の見解です)

 

例えばこの作品が刀城言耶シリーズではなかったら、私は普通に満足して読み終えていたんですよ。

現に「首無が一番好き」とか「首無は傑作」というレビューをよせている方も多い人気作ですしね。

 

でもこれ…刀城言耶ほとんど(というか、ほぼ)出てこない‥‥よね?

 

 

 

 

別の作家さんの話なのでタイトルと内容は伏せますが、某超有名作家さんの人気シリーズでも一回あったんですよ。

主人公である名探偵の登場シーンが、実は犯人の妄想(幻覚?)でしかなく、主人公の探偵は最後の方にちょろっと登場しただけだったというオチ。

めっちゃ賛否両論あって「この作品は〇〇(主人公探偵の名前)シリーズと銘打ってはいけない」って。

 

これ、一緒じゃない?笑

 

 

 

人気作家さんでも「新作書き下ろし!」より、「人気シリーズ最新作!」の方が俄然売れるんですよね。売れ行き違う。

でも作者からすれば書きたいものと売れるものが必ずしも一致するわけじゃないから…。

 

物理波矢多シリーズの1作目「黒面の狐」も当初は刀城言耶シリーズとして書いていたけど、世界観違うから途中で違うシリーズとして書き直したと先生が仰ってましたしね。

そういわれると、やっぱり刀城言耶がどう絡んでいたのか読んでみたかった気もしますが‥‥。

 

まああとはいつもと同じ構成だと書いてる方も飽きちゃうというか、違うことをしたくなるんだと思うのですが。

やっぱり、シナリオ展開としては「厭魅の如き憑くもの」のように、オーソドックスなもののほうが好きです。

 

※この「刀城言耶ほとんど出てないよね問題」については更に後述します。

 

 

 

 

 

あと、首無がNot For Meであるもうひとつの理由が、斧高視点であることです。

三津田先生はコ〇ンくんのようなIQ値がずば抜けて高く、やたら行動力のある少年視点にすることが多いのですが、多分少年探偵団への憧憬の念があるのでしょう。

 

ただなあ…。

 

はやみねかおるさんの「名探偵夢水清志郎シリーズ」(少年ではない)や、松原秀行さんの「パスワードシリーズ」なんかはすごく好きなんですけど、それって児童文学だからなんですよね。

 

大人向けの作品で子供が語り部として出てくるとなるとどうしても「子どもそんなことせんやろ」的なことを思ってしまうというか。

別に作家さんの技量や文章力の問題ではなくて、シンプルに「子どもは早く帰って寝なさいな…」と思ってしまう。私が子供に興味ないからだろうけど。

 

首無で言えば、斧高が十三夜参りについてっちゃうとか。

いやこれ長寿郎様の後をつけないと話が始まらないからシナリオ上どうしようもないんですけど。

 

あと子供が語り部だと作中で、「大人は子供の言うこと信用しない」or「どうせ信じないから大人には秘密にしよう」的なシーン出てきて、それも「あぁ‥‥」ってなる。子供じゃなければ…的な。

だからこそ、「はじめに」で「この話は斧高視点で書くわね~」と妙子さんが前置きして「あちゃー」って最初になってしまったこと、いつまでたっても刀城言耶が出てこないこと、待ち望んで200ページあたりでようやくクロさんと一緒に出てきた!ってなった途端に離脱したことでガクッと…。

 

 

 

とはいえ、作品としてはやっぱりとても面白い。何より題材としてはめちゃくちゃ好みです。

長寿郎と妃女子の性別入れ替えとか魔除けの呪い(禁厭)とか。男児を守るために徹底的に女児を犠牲にして、性別入れ替えまでするとか、こういうシナリオは個人的に大好きなのでウキウキしました。

私が東京生まれ東京育ちのシティガール(死語)だからかもですが、こういう因習深い地域での跡目争いとか呪いとかもう聞くだけでテンション上がるんですよね。

 

それに婚舎や栄螺塔などめちゃくちゃ魅力的ですよね!!!!!!三津田先生の民俗学が絡む描写やアイディアは冴えわたってて最高にクールです。

本当どこかに媛首村(媛神堂+栄螺塔+婚舎)を再現してほしい。絶対聖地巡礼するから。

 

まあ欲を言えばもっとカネ婆さんの呪い見たかったし、妃女子(男)さまの喋るシーン欲しかったです。妃女子(男)さまがもっと生前にセリフあれば、性別入れ替えが分かった後さらに読み返すのが楽しくなったと思うなあ。妃女子(男)さまにはもっと斧高と絡んでほしかった。

妃女子(男)の心理描写も欲しいです。淡首様の目を欺くためとはいえ、魔除けのために女として過ごしながら離れで冷遇され続けるって相当なストレスだったはず。

 

あと、紘弌さんはもっと跡目争いにがっつり絡んでくると思っていたので、あっさり退場してびっくりしました。紘弌さんが生きていたらもっとおもしろかったのに。

 

でも結末は満足です。他作品と被ってしまうので、妃女子(男)さまが真犯人説はないと思っていたけど、結末はまさかのまさかでした。個人的には鞠子と蘭子(女性と思ってた)の入れ替わりはあるだろうと思っていたけど、まさか長寿郎さまと妃女子さまも入れ替わっていたなんて!

 

昭和設定の話とはいえ、同性愛に関しての描写が結構攻めてるなと感じていたので、なぜわざわざ同性愛というテーマを盛り込んだのは何故なんだろう?と不思議に思っていたのですが、長寿郎さまと妃女子さまのためだったんですね。

この作品が2000年はじめ頃の執筆。令和ならちょっと勇気いるよなあという言い回しとかちょいちょいあったので…。

でもどうせだったら鞠子と長寿郎さまの見合いでのやりとりも読みたかったかなあ。何があって突発的とはいえ殺人にまで至ってしまったのか気になります。長寿郎さまなら鞠子に殺されるような迫り方しないと思うんだけど…。

 

ところで、刀城言耶シリーズの表紙って毎回すごく世界観にマッチしてて最高にカッコいいと思うんですが、首無の表紙って多分妃女子さま(男)ですよね?

淡姫かお淡か?とも思ったのですが、どちらかというと他の表紙の女性陣よりもキツイ顔立ちで輪郭もシャープ気味なので妃女子さま(男)かと思うのですが、どうでしょう?

厭魅は紗霧(早霧?)、凶鳥は朱音かなと思ったのですが、これが妃女子さま(男)だったら最高じゃないですかね!!

 

私だけ?笑

 

 

24章・幕間(四)・終わりに の刀城言耶は刀城言耶なのか? 

 

 

個人的に首無の中で一番重要だったのはここです。笑

 

結論から申し上げますと、私はここの言耶は斧高であると思っています。

斧高はそもそも謎の怪異によって育ての母と義兄弟を殺され、淡首様の祟りで秘守家へ帰ることになった、というホラーミステリのホラー部分を採用している設定と思っているので、この三章の言耶は言耶ではなく斧高ですし、鞠子を殺したのも斧高でしょう。

 

年齢的にも合致します。妙子が執筆を始めたのは還暦、お見合いを発端とした連続殺人からおよそ20年後なわけですから、

十三夜参り:斧高6歳、長寿郎13歳、紘弌20歳、紘弐18歳

お見合い:斧高16歳、長寿郎23歳、紘弐28歳、言耶20代半ばくらい?(神々櫛村にも鳥杯島にも行ってない=1作目よりも前)

妙子の執筆:60歳、言耶40代半ば~後半、斧高36歳

 

最初にジーンズの男を見た時に「30代半ば」と言っていますし、その後言耶の容姿に言及したときも「10歳は下に見られる」とわざわざ書いてあるくらいですからね。

 

ただ最後の言耶=斧高であった場合、妙子と鞠子を見分けられないのはおかしいと言えるんですよね…。

例えば20年の間にめっちゃ老けて別人のようになっているとか。でも子供が大人になるならまだしも、20代半ば➡40代半ばで顔の判別がつかないほど老けるだろうか?

よって、言耶ではなく斧高ではあるけども、淡首様の怪異に魅入られていると思われる状態か何なりかの状態にあったのではないかと…。(まあもしくはシンプルに鞠子が整形して顔を変えているとか)

 

斧高が斧高であるけど正常な斧高ではないのではないかと思う理由に、最後の首無し遺体のニュース記事もあります。

疑問なのは、ここで妙子まで首無し遺体で発見されたということです。

 

妙子を殺して庭に埋めたのは鞠子でしょう。その鞠子を殺し、首を切断して庭に埋めたのはおそらく斧高です。

鞠子の首を切断したのは、淡首様の祟り絡みと説明できなくもないですが、一番は鞠子が長寿郎の首を切断したからだと思います。

でも鞠子にも斧高にも、妙子の首を切断する理由がないんですよね。

遺体の身元がわからないとされているから、妙子と鞠子の首は持ち去られていることがわかります。

鞠子からすれば蘭子と長寿郎の首を持ち去るのは性別取り換えトリックのためにも必須なわけですが、紘弐の首を切断したのは必要だったというよりもおそらく一連の事件の流れに沿っただけでしょうし、その後一番重要である蘭子の首以外は返しています。

 

そして斧高にも遺体の身元を隠す理由はないと思いますし、むしろ媛首村で可愛がってくれていた数少ない味方のひとりであった妙子の遺体を冒涜するような真似をするだろうか?

そう思うと、斧高は単なる復讐のためだけでなく、淡首様の祟りのもとに何らかの怪異の影響を受けていたのではないでしょうか。幼い頃に家を訪ねてきた謎の女と同じく、鞠子を訪ねる時は雨が降っていたようですし。

そして、新人賞を受賞した作品のタイトルからもわかるように、持ち去ったふたりの首は、媛神堂に隠したのでしょう。

 

レビューを見る限りでも最後にモヤモヤさせる終わり方が好きじゃないという意見も多かったのですが。

私は基本的に幽霊とか呪いとかの類は全く信じてないんですが、小説のなかの世界なんだし、合理的に解決できる部分のほかに1~2割くらい超常的な力が働いているほうが面白いと思う方なので、ミステリー(犯人がいる)+ホラー(人間の起こした事件とは別に怪異も発生する)という塩梅の方が好きです。

 

が、上記を踏まえるとやはり最後の言耶は言耶ではなく斧高になると思いますので、私の推す言耶はほぼ出てこない、との結論に至るので、最初に述べたように「ちょっと好みから外れる」シリーズ作となりました。

まあそもそもがこの妙子の語り自体が本編軸(言耶20代後半)の約20年後であることを鑑みても、この作品は刀城言耶シリーズの番外編・スピンオフくらいの感覚でしょうか。

 

まあ刀城言耶の活躍は次回以降に期待ということで…。

 

 

次回雑記は山魔です!(未定)