麻雀その⑥-親父- | ギャンブル依存症を自覚したボクが書く日記

麻雀その⑥-親父-

実家から東京に帰ってきたボクは
周りのヒトの助けもあって、
そこそこの仕事量を得た。

そんなある日のこと――
昔の会社の上司と仕事の打ち合わせをした後、
チラリと時計を見たボクは、
フラリと、吸い込まれるように
パチンコ店へ入って行った。
まったく意識せずに入店した店で打った、
名も知らぬパチンコ台。
大学時代以来に打ったパチンコは、
確変突入率の確率など、まったく無視したように
大量の出玉を吐き出したのだった――


そして、春を迎えた。
消費者金融からの借金は、
いつの間にか4社、計200万円を超えていた。
月額の支払いがどんなものか、
計算することすら億劫になっていた。
ため息をつくことが多くなった。
『何とかしなきゃ・・』
けれど『何とか』の方法が解らない。
自問自答は、いつまでも同じ輪の中を繰り返し回っていた。


「お父さんの容態、だんだん悪くなってるから・・」
母親から、そんな電話が入ったのは、
消費者金融への支払いを数日後に控え、
仕事のギャラの入金予定の10日前くらいだった。
「いつでも帰れるように旅費を口座に入れておくから」
母親はそう伝え、電話を切った。


温度差――
病人の傍で介護をするヒトたちと、
離れた場所で暮らす者の間に、確実に存在した。
ボクは、どんな状況で、どんな容態なのか、
想像することも考えることもできなかった。

ただ――
消費者金融への支払いが近くになってきている。
そのことの実感だけはある。
仕事のギャラである50万円ほどが振り込まれるのは
消費者金融の約定の返済日を過ぎた後だ。
それは《数日》というタイムラグでしかない。
『その時まで、保つはずだ…』
ボクは、自分に都合のいい《未来の記憶》を作る。
「事態が急変した際の飛行機代として…」
母親のココロは、あっさりと
消費者金融のATMへ吸い込まれた。
そして、残った金は、
麻雀だか、パチンコだか、
覚えてはいないが、
とにかくギャンブルに消えた。
母親からの電話から3日も経たず、
ボクは、相変らず金策について考える日々に戻っていた。


そして、思っていた以上に早く、
《その日》はやってきた。
母親から携帯電話に電話が入る。
「お父さんが危篤状態だから…明日、帰ってきなさい!」
ボクのココロが揺れた。

唇を噛み、まず最初に思ったことは
「金がない!」
その1点だった。
ギャラの入金日まで数日ある。
母親に無心することはできない。
時間は夜の11時を過ぎていた。
「どうしよう、どうすればいい…?」
消費者金融4社の限度額はいっぱいだ。
金をつくるアテを探した。
「早すぎるだろ、親父!」
風雲急を争う事態に戸惑っていたのか、
父親をも呪った。


そして翌日の朝がやってきた。
母親から電話が入る。
「飛行機の時間が決まったら連絡しなさい。
 その時間に合わせて、モルヒネで覚醒させて
 話せるように準備するから…」
「解った…」
ボクはそう応え、電話を切った。

未だ、金を作るアテを確立できていない。
今まで出会った人を思い返し、ボクは必死に考えていた。
「どうしてあの金を使ったんだ…」
虚しさにも似た、
後悔が胸いっぱいに拡がっていた。
(つづく)


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