競馬
はじめての借金がボクに与えてくれたもの。
芝居の完成。
そして、
『カンタンに金を作れる』という思いだった。
その後、ボクは運命的な出会いを果たすことになる。
いい加減、いい歳になっていたボクは、
バイト生活を辞めようと思い、
某大企業の契約社員として働くことになる。
時給ではない、はじめて『月給』というものを貰える立場になり、多少浮かれていた。
決して給料は高くなかった。
そのせいもあるのだろうか。
それとも、類は知らぬうちに友を呼んでいくのだろうか。
その職場で働く人々は、全員、毎週、馬券を買う人々だった。
それまでは競馬をしたことがなかった。
逆に『競馬なんて……』と小馬鹿にしていた。
麻雀と比べて、競馬は自分の力が及ぶ余地が少ない。
そう考えていたボクは、競馬を避けようとしていた。
とはいえ、嫌悪感を感じていたわけではない。
雀荘で働いていれば、競馬好きなヒトとも知り合う。
下地は整っていたのである。
時は、まさに競馬ブームといえる時代。
JRAの売上が4兆円を超えようとしている頃だった。
ボクは初めてヒトに頼んで馬券を買った。
根拠はまったくないが『当たるだろうな』と思っていた。
ボクは、それまで、ギャンブルにおいて、
ビギナーズラックの恩恵を受けないことがなかったからだ。
そして、予想通り、その馬券は的中する。
8.4倍程度のオッズ。
1000円が8000円程度になっただけだ。
『もっと賭ければよかった』
『競馬ってカンタンじゃ~ん』
有頂天になったボクは、そんな感情を抱いた。
ギャンブルというのは、ある部分で平等だ。
知識、経験、努力、才能……
そんなモノを必要とせず、勝った者に報酬を与えてくれる。
そういうモノを必要とするのであれば、
それはギャンブルとして成立しない。
経験者にしか報酬を与えない競技に、初心者が金を払うはずがないのだ。
その絶対原則が、囲碁や将棋をギャンブルの世界から遠ざけた理由である。
話が逸れたが……
とにもかくにも、
初めて買った馬券が当たり、
競馬というモノに間違った認識を持つようになった。
その後、競馬予想のアプローチにはさまざまな方法があることを知る。
そうしてボクは、急速に競馬にノメり込んでいくことになる。
ちなみに、学生ローンで借りた20万円の支払いはまだまだ始まったばかりだ。