風がドアを叩く。

 黒のコートを羽織って、私は出かけた。寒かったけど、ためらいはしなかった。家の中は何もなかったのに、うるさかった。家の中は騒がしいのに、何もなかった。ドアを開けるや否や、友の夜色が、新調の喪服で私を待っていた。今夜は特別な夜らしい。太陽がベールを覆い、月が輝く。北風が暴れまわり、落ち葉が舞う。

 

 「今夜は雛菊の葬式です。あのかわいそうな子、夭折してしまったかわいそうな子の。」

 

 そんな!私は雛菊の小さな斎場の前にひざまずいた。

 

 雛菊に初めて出会ったときは、その北風の中で揺れ動く姿が、ほかの色鮮やかな花に比べて貧弱で頼りなく見えた。中心の一抹の黄色はその力いっぱいの叫びであり、命と太陽への憧れを物語っていたように見えた。黄緑の枝が震えながら私を招いたとき、魂まで持っていかれたような気分になった!後から知ったのだが、彼女は北風をも、寒さも、死も恐れていなかった。その細くてもしっかり四方八方に伸びていた茎と葉は、勇気と意気込みでみなぎっていた。やがて春が過ぎ夏が来る頃、彼女は静かに眠りにつくのであろう。それまでに彼女は太陽と水だけで十分この宇宙を味わえるのだ。貧弱に見えたのは、人間としての先入観に過ぎなかった。

 

 なのに。春もまだ訪れていない三月初旬、冬のありがたい太陽がまだこの土地を照らしているとき、彼女の葉っぱは黄色く枯れ、花弁はみじめに委縮していた。まるでだんだん弱まってこの世を離れたように、死の姿そのものだった。

 

 私は彼女の死体を抱えてしばらく泣いた。夜色はあまり悲しまないように、彼女の姿に黒の幕を覆った。まわりの雑草は挽歌を歌ってくれた。三つの音しかなかったし、教会の鐘の音のように震えていた。私はモーツァルトのレクイエムを歌おうかと思ったけど、雛菊には複雑すぎるのかもしれない。

 

 「Sleep tight.」私はそう言った。そして涙が止まらなかった。

 

 夜色は実にいい友達だった。一人にさせてくれるが、ずっとそばにいて安心できる。すべてを知っていても何も説教してこない。沈黙ですべてを語るが、とても的確である。すべてを闇に包むが、本質を浮き彫りにしてしまうのだ。だから、彼は絶妙な人なのだ。