口腔医療革命「食べる力」塩田芳享(著)を読んで | ほっこり 知恵袋

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「食べることを諦めさせていないか?」という鋭い言葉にドキッとした。数年前、誤嚥性肺炎で入院した患者さんのことを思い出した。90歳を越えていた方でしたが、しっかりした方で、入れ歯を使えば何でも食べることができた。残存歯が数本で、ほとんど総入れ歯。口腔の機能も正常だった。高齢のため喉仏が下がり、たまに誤嚥することはあったそうだ。10年ほど前に脳梗塞を起こして片麻痺があったが、リハビリで日常生活はほぼ自立していた。足元が若干ふらつく程度のフレイル(虚弱)である。ある日、入院先の病院から本人が電話してきた。「誤嚥しないようにと、入れ歯をはずされた。胃ろうはしたくないと言ったら、経鼻栄養にすると言われた。本当は口から食べたい。入れ歯があれば食べられるのに。訪問してくれませんか?誤嚥の危険がないように、入れ歯を調整してくれませんか?」と。「主治医のお許しがあれば、訪問します。」とお応えした。しばらくしてご家族から連絡があった。「肺炎は重症の為、口から食べる方は危険だと。よって、経鼻栄養になった。」と。その後低栄養の為、しばらくして亡くなられた。
残念でならなかった。
以下、本書の感想を踏まえて気付いた点を挙げてみた。

1.❰なぜ、医師のいうことに反論できなかったか?❱
→家族は、「食べさせない方が安全」という言葉を鵜呑みにしてしまった。
ここが塩田さんのいう、トリックだ。医療側が「食べさせよう」と努力しているかしていないかの違いだ。リスクは回避すれば、回復が見込めるのか?それとも、誤嚥しても栄養状態が回復すれば感染を回避できると考えるかの違いだ。塩田さんの成功事例は、「食べさせる」を諦めなかったこと。食べさせるための食医、エキスパートを知っていたことが大きい。

2.❰一般の人はどのように情報収集するか?❱
→知り合いのクチコミ、インターネットなど。

3.❰最も信頼性の高い情報はどこか?❱
→医療機関からの紹介、地域連携のネットワーク

4.❰患者や家族が勉強し、情報の質を高める。❱


5.❰かかりつけ医が勉強し、よい情報を患者へ届ける❱

6.❰地域多職種連携を円滑にする❱
かかりつけ医、かかりつけ歯科医、かかりつけ薬剤師、かかりつけリハ、情報交換し、ネットワークを迅速にする。

歯科医は口腔という体の一部を詳しく診ている。歯だけを診ている訳ではない。口腔機能全体の改善を目指す仕事であり、食べるための支援をする分野であること。医師、薬剤師、栄養士とチームを組み進めるキーパーソンとも言える。我々歯科医は多角的に情報を集め、食支援のサポートをし、学習をしなければならない。

印象的な言葉がまだあった。
3つのフレイル(虚弱)の予防が「食べる力」を維持していくには必要だということ。以下本書より抜粋。
①身体(フィジカルフレイル)
②社会性(ソーシャルフレイル)
③精神心理(メンタルフレイル)

益々、多職種の勉強会は必要ではないか。