1.
前回記事
「調停は弁護士不要」と簡単に言い切る表現の問題点について
の続編です。
調停事件と弁護士委任について考える際に,私が,このように整理できるのではないかと思うことを紹介します。
2.
調停手続で弁護士が必要か不要かという議論をする際には,私は,さしあたり,次の3つのレベルを明確に区分して考えるのが混乱を生じないと思います。
ア 調停を進めるについて,制度的に弁護士代理が必要かというレベル
これは弁護士代理不要です。
調停だけでなく,審判も民事の訴訟も弁護士代理は制度的に不要です。
訴訟でも,本人訴訟ができて,むしろ,制度的には,本人訴訟が基本と言ってよいのです。
イ 調停の手続の簡素さから弁護士委任しなくても手続進行が可能だというレベル
調停の申立ては,裁判所備え付けの書式で簡単にできます。
また,調停は,基本的に,申立人と相手方が交互に調停委員に口頭説明し,調停委員が相手の言い分を口頭で伝え,合意形成を模索していく手続進行です。
その点で,手続が簡便です。
この手続の簡便さを理由にして,弁護士代理がなくても手続進行が可能であるという意味のことを指摘されるとしたら,私は,その指摘は,まったくそのとおりだと思います。
ちなみに訴訟は主張立証の手続がそれなりに厳格です。
権利義務確定手続ですので,必要な書面と証拠をきちんと提出していくということが求められますし,訴訟手続についてそれなりの前提知識が要求されます。
その意味で,弁護士代理が「必要」と一般に理解されています。
しかし,本人訴訟があるように,弁護士代理が「必要」という意味合いは,手続進行が一定の法的知識を必要とするため,弁護士代理をした方が手続進行がスムーズに行くという意味を超えません。
以上をまとめますと,
以下のように言えると思います。
調停は手続進行が簡便なので本人調停で手続進行することが容易であり,その意味で弁護士代理の必要性は低い。他方,訴訟は手続進行が厳格で一定の法的知識が要求されるので,本人訴訟で手続進行するのに困難が伴う。その意味で弁護士代理の必要性は高い。
となります。
ウ 本人が調停手続や訴訟手続を進めていく上で,弁護士代理が本人にとって有用かどうかというレベル
(1)
このレベルでは,弁護士委任の有用性は,諸般の事情の中でご本人が自ら決める領域だと私は思います。
ですので,調停であれ,訴訟であれ,一般論として,「弁護士代理が必要だ」とか「必要でない」ということはまったく無意味だと私は思います。
ご本人にとって「有用か」,「有用でないか」の問題であり,それは,ご本人がお決めになることです。
(2)
私は,ご本人の実質的な自己決定ということをとても大切なものと思っています。
ですから,ご本人が,前記イの調停手続の簡便さを活用し,調停の手続進行と結果がご本人の自尊感情と誇りを高めるような形で進められるのであれば,それはとても素敵なことだと思っています。
そして,そのようにご本人でハンドル可能な事件も多数あります。
ご本人がハンドル可能なものについてコストをかけて弁護士委任することは無益と思います。
他面,簡便な調停手続であっても,そこで扱われる問題や調停委員の資質やご本人の現実対処能力からして,ご本人でハンドルすることが困難な場合も沢山あります。
そういうケースでは,私は,ご本人が実質的な自己決定をご本人で実現していくという観点から,ご本人が専門の援助を上手に活用し,ご本人がハンドル可能な状態にしていくということを,現実対処の健全な選択肢の1つとしてお考えいただけたらと私は思います。
私は,このように考えておりますので,このウのレベルで,抽象的に,「弁護士代理が不要」「弁護士代理が必要」などと言うことは,問題の建て方自体が違うのではないかと思います。
私は,離婚に関する法律問題の一応の解決に至る道のりと結果が,ご本人の実質的な自己決定ということが十分に確保されていて,ご本人の自尊感情や誇りを高めるものとなっていることをとても大切なことと思っています。
ですから,弁護士委任しないでご本人が調停手続を進めていくこと,弁護士委任した上でご本人が弁護士の専門の援助を活用して調停手続を進めていくこと,そのどちらであっても,ご本人の実質的な自己決定ということが十分に実現されているのであれば,それでよいと私は考えます。
(3)
そして,弁護士委任がご本人にとって有用かどうかを考える際には,私は,さしあたり,次の4つの場合があることを念頭において,お考えいただけたらと思います。
① ご本人が独力でハンドル可能な事件についてご自身でハンドルして自己決定することの素晴らしさ。
② ご本人が独力でハンドル困難な場合に,ご本人が専門の援助を必要と考え,適切な援助によりご本人の実質的な自己決定が実現されること,そこにおけるご本人の自己決定と専門の有用性。
③ ご自身での現実対処が困難が事件について,専門の援助を得ることなく手続を進め,そのために,調停の手続とその結果がご本人の実質的な自己決定という点で不十分なものになってしまうリスク。
④ 他面,弁護士委任したところ,その弁護士がご本人の自己決定尊重の理解が浅く,「専門職支配」になってしまい,弁護士委任によって逆にご本人の実質的な自己決定が害されてしまうリスク。
前回の記事は,上記の4つの場合の①②③についての記事とご理解いただけたらと思います。
(4) 弁護士委任する場合,そこには弁護士費用というコストが発生します。
このことをご本人の立場から表現しますと,「一定のコストを負担して弁護士の専門サービスを利用する効用があるかどうか」ということになります。
①
前記(3)の①~④を念頭に置きつつ,あなたの事件では,弁護士費用のコストに見合う有用性がなく,ご自身でハンドルできると考えて,「私の調停事件では私は弁護士委任の必要がない」と判断されるなら,その判断はご自身の自己決定の結果です。
弁護士の専門サービスを利用しない自由も当然,あるわけです。
その判断がそれでよかったかどうかも,ご本人が後にどう感じるかにかかってくる問題です。
ですから,私は,そのような判断もまた,ご本人の健全な現実対処能力が発揮されたものと思います。
②
コストに見合う有用性があると思われる方は,そのコストを負担して弁護士委任されるということになります。
その判断もまた,ご自身の問題を適切に解決する方法をご自身で選ばれたわけですし,私は,ご本人に健全な現実対処能力が発揮されたものと思います。
そして,私は,その場合は,その期待された有用性を実現すべく努力することが委任を受けた弁護士の責任と考えます。
その有用性実現の努力ということは,結果を保証するものではなくて,調停手続の道のりと結果が,ご本人の実質的な自己決定を反映したものであるかどうかということに向けられています。
③
弁護士費用の負担というコストを緩和する制度として,法テラスの利用があります。
これも,法テラスの制度の仕組みを十分に理解した上で上手に活用する必要があります。
私は,弁護士の提供するサービスがご本人に有益だと無前提に言うつもりはありません。
弁護士によって傷つけられたという方,弁護士選びに苦労したという方,現実に大勢おいでのようです。
私自身,自分のブログで「専門職支配」の問題点を記事に書いております。
単純に相性の問題もあります。
そのような中で,私は,もしあなたの事件がご自身の現実対処を超えるものであるのなら,法テラスを上手に活用しつつ,さらに,あなた自身にとって有用な弁護士となんとか出会っていただいて,その弁護士の援助を利用するということもあなたの現実対処の選択肢の1つとしてお考えいただけたらとお伝えしたいです。
3
このように,ア,イ,ウの3つのレベルに整理して,その上で,調停事件と弁護士委任についてお考えいただくと,誤解や混乱が少ないのではないかと私は思います。
私は,弁護士に委任するしない,委任するとしてどの弁護士に委任するしないも含めて,いろいろな要素の中で,あなたが実質的な自己決定を積み重ねていくことが大切と思います。
そのようにして,離婚の法律問題の一応の解決に至る道のりとその結果が,あなたの自尊感情と誇りを高めていくようなものであることを私はお祈りします。
この記事に書いたことは,私が最初に書いた
①離婚を考え出した女性へのメッセージ
②離婚の道のり(女性の方へ)
③弁護士を選ぶ(女性の方へ)
④法テラス・経済問題はこれでクリア(女性)
の中で,繰り返し書いてきたことの延長のようなものです。
実質的自己決定ということや弁護士委任をどのように考えるとよいかについて,もし関心がありましたら,上記のテーマの各記事をお読みいただけたらと思います。
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