奈緒は葉菜が誰を殺したと思っていたか?~つがい水色インコ頭白in鳥籠④~ドラマ『mother』 | 金沢の弁護士が離婚・女と男と子どもについてあれこれ話すこと

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石川県金沢市在住・ごくごく普通のマチ弁(街の弁護士)が,日々の仕事の中で離婚,女と男と子どもにまつわるいろんなことを書き綴っていきます。お役立ちの法律情報はもちろんのこと,私自身の趣味に思いっきり入り込んだ記事もつらつらと書いていきます。

ネタバレ注意
 2010年のテレビドラマ『mother』
についてのシリーズです。ネタバレしますので,それが嫌という方はお読みにならないで下さい。

 つがい水色インコ頭白in鳥籠シリーズ。
 これまでの記事は以下です。
 まずは第1話ラストの確認~つがい水色インコ頭白in鳥籠①~ドラマ『mother 
 DVを暗示する鳥籠の中のつがいのインコ・つがい水色インコ頭白in鳥籠②~ドラマ『mother』 
 「囲う」=①衛る②攻める~つがい水色インコ頭白in鳥籠③~ドラマ『mother』

前回記事では,「囲う」という漢字の意味に着目しつつ,
つがい水色インコ頭白in鳥籠の持つ象徴的意味を解説しました。

 このように考えたとき,つがい水色インコ頭白in鳥籠(底は水色)が,奈緒から葉菜へ贈られて,葉菜の死後に,継美(つぐみ)へと贈られたことには,深い意味があるように思えます。


 私は,このドラマでは背後に隠れつつこのドラマで問われ続けている存在がいると私は考えています。
 それは,
「夫」・「父」です。
 このドラマの大きなテーマとして,奈緒(松雪泰子)の回復の物語があり,そしてそれが自分を捨てた母と出会うことと要約できるなら,父の存在はどうしてもついてまわります。
 しかし,このドラマでは不自然なほどに父の存在が表に出てきません。
 だからこそ,なおさら,背後に隠れつつ問われ続けている存在を私は意識します。


 さて,奈緒の父,葉菜(田中裕子)の夫に関していいますと,素敵な事務職員ゆうかっちは,第5話「二人の”母親”」の時点で,葉菜が夫殺害により13年間服役していたことを予測しました。

 藤吉駿輔記者(山本耕史)と奈緒(松雪泰子)のラブホテルでの会話から,奈緒が毎月1万円を17年間積み立てていたことが分かります。
 奈緒の年齢は35歳ですから,その積み立ては奈緒18歳のときからです(35-17=18)。
 奈緒が捨てられたのは5歳ですから,奈緒が捨てられたときから積み立て開始まで13年間になります(18-5=13)。
 13年の服役となると,殺人罪を予想します。
 そして,この物語で,母である葉菜が人を殺して子である奈緒を捨てて服役となると,その殺人の被害者は葉菜の夫であり,奈緒の父であることは容易に予想がつきます。


 このことは,ドラマ展開上は,第7話「あの子を返して!」で,遊園地に行った日の夜,奈緒が葉菜に対し,奈緒を捨てた理由を問いただしたとき,葉菜の口から,懲役15年仮釈放で13年の服役であったことが明確に語られます。
 そして,葉菜は,奈緒に,殺人罪で服役したことを仄めかします。
 奈緒も,殺人罪であったことは気づいたようです。

 ここで,脚本家坂元裕二は,葉菜が誰を殺したのかを明示しません。
 しかし,視聴者は,いくらなんでもここに至っては,その殺人罪の被害者が葉菜の夫・奈緒の父と分かるでしょう。
 私は,むしろ,ストーリー展開上,奈緒が,そのことに気づいたという設定なのか,それとも完全に意識外に追いやっていたという設定なのかが気がかりです。


 もし,奈緒が,第7話の葉菜の話の流れから,葉菜が殺した相手が葉菜の夫・奈緒の父ということを思わなかったとしたら,奈緒は,はっきり言って鈍感過ぎます。
 普通,気づくでしょう。

 ところが,ドラマでは,その後,奈緒が葉菜が葉菜の夫・奈緒の父を殺害したことに思いを巡らすシーンなど全く出てきません。
 藤吉駿輔記者(山本耕史)は,第10話から,葉菜の放火・夫殺害に迫っていきますが,奈緒が自分の父を考えるシーンは全く登場しません。
 このドラマの最初から最後まで登場しません。

 奈緒が葉菜の殺人罪を知った後も,それが夫殺害・奈緒実父殺害であるということを全く意識外に追いやっていて考えもしなかったのだと説明することは可能です。
 第11話で,真相は,奈緒実父殺しを葉菜が「忘れなさい」と言い聞かせて葉菜が全部をかぶって服役したことが葉菜の最後の夢で明らかにされます。
 このストーリー展開からすると,奈緒のトラウマの底の底は,実父による虐待と実父殺しになります。
 そして,奈緒は,葉菜に「忘れなさい」言われたとおり,その記憶を完全に抑圧しきっていて,だから奈緒は,父親のことは,無意識的に,普段から意識外に追いやっているのだと説明することもできます。

 私は,心理の素人なので,記憶の抑圧であるとか健忘であるとかは詳しくは分かりません。
 母に捨てられた時の,河原のたんぽぽの種のシーンや母の手の感触を記憶に残し,その後も東京タワーの双眼鏡で母を探しつづけてきた奈緒が,片親の父の存在について,まったく思考を巡らせることがなかったというのは,いくらなんでも不自然すぎるように思います。
 それを記憶の抑圧だとか健忘とか回避だとかいった心理の機制ですんなり説明できるものなのかどうか,素人的には疑問に思います。

 ただ,心理の専門の方からすると,もしかしたら,心理機制により奈緒が普段から父のことを全く考えない,意識外においやる状態になっていて,それは奈緒のトラウマを考えると自然に理解できることだとなるのかもしれません。


 こういう次第で,私は,とりあえず二つの可能性を考えています。

可能性1
 奈緒は,第7話遊園地へ行った日の夜の葉菜の話から,葉菜が殺害したのは葉菜の夫,つまり奈緒の父であることを気づいていた。
 ただ,奈緒自身の実父殺しのトラウマがあり,無意識的に,それ以上は,そのことを考えたくなかった。そして,奈緒自身は,それを考えないことを,夫を殺害した葉菜の心の傷に踏み込まないというように,「葉菜のため」という分かりやすい理屈で正当化した。

可能性2
 奈緒の実父による虐待と実父殺しのトラウマは,奈緒のトラウマの底の底であり,奈緒は,抑圧とか健忘とか回避とか,自分の心を守る心理機制を総動員して,葉菜の話から,葉菜が人を殺したというところまで思い至っても,その相手が葉菜の夫・奈緒の父ということは全く考えなかった。


 なぜ,私が,葉菜が殺した人についての奈緒の認識に拘るか。
 その理由のひとつは,第11話で,奈緒が葉菜に,つがい水色インコ頭白in鳥籠を贈っているからです。
 
 つがい水色インコ頭白in鳥籠が,表では「こうあってほしい夫と妻の関係」を,裏では家庭という監獄の中のDVを象徴するというのが私の考えです。

 そうしますと,そのつがい水色インコ頭白in鳥籠を奈緒が葉菜に贈る意味はどう考えられるのか。
 奈緒は,葉菜が葉菜の夫・奈緒の父を殺害したことを認識しつつ,つがい水色インコ頭白in鳥籠を葉菜に贈ったのかどうかが私としては気になってくるのです。

継く(つづく)

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