子供店長のイメージが大きく崩れショックを受けた一郎は、500円を少年に手渡したものの、彼の正体を聞く事なくその場を去ろうと歩きだした。



「お兄ちゃん!僕の正体知らなくていいの?」



「あぁ…。」



「本当にいいの?まぁ聞くも聞かないも個人の自由だけどね。でもこの500円はきちんと受け取るよ。つまり話を聞かないって事は、お兄ちゃんが僕に一方的にお小遣いをあげただけってとらえればいいのかな?ただそうなると僕がお兄ちゃんに感謝しなくちゃいけないみたいで、なんかムカつくんだ。だからこの500円はお兄ちゃんが口封じの為に無理やり渡したお金って事で処理しようと思ってるけど…それでいいかな?…はたまたダメかな??」



「勝手にしろ…。」



一郎は恋人と別れるイケメン気取りな態度で少年を突き放した。



人はイメージと現実のギャップに弱いと言われているが、それが悪い方のギャップだと逆に裏切られたという心境になり、夜ご飯もお粥が精一杯なのだ…。



一郎はしばらく歩くと、NHKの受信料を支払いにコンビニに向かった。



店内に入り真っすぐにレジに向かい、振り込み用紙を店員に手渡す。



その時レジの前で財布を広げながらふと思い出す事が一郎にはあった。



少年の正体を知ろうと500円を手渡す以前に、落ち込んだ少年をなだめようと1万円を渡した事を忘れていたのだ。



怒りに震えた一郎は残りの5千円札を、クシャクシャに握り潰してレジに出した。



店員は面倒くさそうに一旦お札を伸ばしてから、お釣りを渡そうとしたが一郎は既に店内から消えていた。



一郎はというと怒りのあまりお釣りも受け取らずに店を出て、そのまま鼻息荒く警察署に向かっていた。



一郎は警察署に着くなり窓口の警官に向かって叫んだ。



「カツアゲされたーーー!!!子供にーーー!!!!!」



一郎はそのまま銃刀法違反と殺人容疑で逮捕された。





続く…

(一体誰なんだ?でもどこかで見覚えが…)



一郎は必死に思い出そうとするが、なかなか思い出せずにいた。



ただの勘違いではないのか、少年は本当に名前を適当に言い当てただけではないのか…



一郎は目の前で起きた事実を素直に受け入れる事が出来なかった。



名字が田中で名前が一郎なんていうのは確かに在り来たりで、偶然言い当てる事も可能であると考える事も出来るが、それでも何千何万とある名前の組み合わせを何よりこのタイミングで言い当てられるというのは偶然とはとても思えなかった。



「何度も聞くようだけど、なんで俺の名前がわかったのか教えてくれないか?」



「だから勘が当たったんだよ。それ以外に理由なんてないよ。」



「そ、そんな偶然ある訳ない!なぜ俺の名前を知っているのか!第一キミは誰なのか!教えてくれないか?」



一郎は事の真相をはっきりさせようと、20近くも年下の少年に必死にすがった。



一方の少年は、微笑みながら一郎に右手を差し出した。



一瞬何の事だか分からなかった一郎だが、少年はお金を要求しているのだという事に気付いた。



普段ならカッとなって説教でも始める所なのだろうが、今回は事が事だけに一郎はおとなしく少年の要求をのむ事にした。



一郎はポケットから財布を出しお札を渡そうとしたがNHKの受信料を払っていない事を思い出し、そ~っとお札を財布に戻した。



「悪いけどお金を降ろし忘れたんだ。今の状況じゃ銀行にも行けないし…。」



少年が右手を下ろしガッカリしているのを見て一郎は内心ほっとしていたが、すぐに少年が問いかける。



「小銭は?」



少年はお札がないと見るや、セコさ丸出しで一郎に小銭まで要求してきた。



(コイツは俺が犯罪者なのを良い事に金をむしり取ろうとしてんだな…)



自分の惨めさに沈んでいた一郎を急かすかのように少年は言葉を続けた。



「500円ぐらい持ってるよね?500円あれば今月の借金返済にあてられるから助かるんだけど…。お兄ちゃんも500円で僕の秘密知れたら助かるよね?僕だって本当はポニョ姉さんが最近仕事がないって言ってたから助けてあげようと思って100億万円要求するつもりだったんだよ。それなのに500円なんて僕も良心的だよね。普通のカツアゲじゃお金ないじゃ済まされないでしょ?でも僕のはカツアゲなんて思わないでね。仮に返せと言われれば返すつもりでやってんの。なんならもうすぐ車の社長からまとまったお金入るからその時にでもキッチリ500円返すしお小遣いもあげるよ。もし不安だったら事務所に取りに来てよ。でも借金については事務所に黙っててよね。」



一郎は幻滅した…。



続く…

「えっ?な、何で?…ぼ、僕の方が…と、年上だろ?」



明らかに動揺している一郎。



「いや、だからタメ口やめろって言ってるのに…。」



タメ口を一切許さない少年。



テレビに出た人間はこうも生意気なってしまうものなのか…。



こうなってはさすがの一郎も、ムキになってしまった。



ついつい興奮して声を荒げる。



「キミはまだまだ子供だろ!?キミが仮に子供店長なら、僕はキミよりずいぶん偉い大人エリアマネージャーなのだよ!!!!!」



「…………。」



一郎は怒鳴ってすぐに後悔したが、すでに少年は黙りこんでしまっていた。



事件後ただ1人の味方であった少年を傷つけた事を悪いと思ったのか、はたまた単純に裏切られるのを恐れたのか、一郎は一生懸命に少年をなだめた。



楽しい話を聞かせたり、歌を歌ってあげたり、持っていた拳銃を触らせたりもしたが少年は口を開こうとしなかった。



仕方なく1万円を渡すと、少年は重たい口を開いた。



「そうだよ。子供だよ…。でも僕は子供だけど、子供の中の大人であって、つまり僕はおじさんなんだよ。」



???



自信あり気に喋ってはいるが、一郎には全くもって意味が分からないのだった。



「キミは、おじさんなのかい?」



「どうだろうね…。でもきっと僕の正体を知ったら驚くと思うよ。…田中一郎君……。」



一郎は急に違和感を覚え、鳥肌が立つのを感じた。



「………!!!なぜ俺の名を…?」



「さぁね。当たってるの?適当に言ってみたんだ…。」



少年は不気味に微笑みながらそう答えた…。



一郎はその時一瞬少年の顔に自分の知っている誰かの顔を見た気がした。



(コイツ一体誰なんだ…?)





続く…