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ニューヨークの食品店事情

 

今回はニューヨークの食品店等の情報と共に、多くの市内の食品店が販路拡大の手段として使っている「LOOP」につ いてお伝えします。

 

自動車社会である米国の都市の中で、ニューヨークは特殊な要素を持っています。 日本の都市の様に電車やバスが発達 し、市民は街中を歩いて生活出来ます。 住宅の環境も日本の都市部と共通する部分が多くあります。 以前に述べた通り、ニューヨーク市と 周辺では全米規模で展開される小売業の進出がおのずと制限されます。 全米規模の食品小売チェーンでは、トップ3のクローガー、セーフ ウェイ、スーパーバリューは市内への出店はありません。 ウォルマートも市内への進出には大きな障害を解消出来ておらず未だに出店に至っ てはいません。

 

 

 

アルディの ニューヨーク市内進出

 

そんな中、2011年2月に市内のクイーンズ地区に市内での初出店をしたアルディは、11月には同じく市内ブロンク ス地区へも売場面積約2千平米という、アルディとしては最大規模の店舗を出店させました。 又、2012年の春頃にはマンハッタン地区へ も出店する事になっていてこれは大きな衝撃となるはずです。 

 

アルディはドイツが発祥のボックスストアチェーンで、米国ではシカゴから始まったチェーン展開ですが、従来は多くの 場合中小の都市周辺で低所得層が集まる地域にフリースタンディング店で展開していました。

 

治安が悪く、時として視察をためらったものです。  近年の展開を見ると、多くの場合リーマンショック後の不況時に 閉店したスーパーの跡地等に出店するケースが見られ、今後もこの地域の出店が続きます。

ニューヨーク市周辺の出店(ブロンクス、イースト・ラザフォード、クリフトン等典型例)はほとんどがこういう形の店 舗です。 ただしこれはアメリカ西海岸には進出しておらず、ニューヨークの他、ボストン、ワシントン、シカゴで視察可能です。 アルディ の付近には通常ウォルマート、ターゲット、コストコ等の大型店や競合するスーパーがあり、価格設定は競合店を凌ぐ事からいずれも充分な需 要と集客を確保出来、いわゆる「コバンザメ商法*」が実践されています。 (*大きな魚が餌として食べ 残した物を、小さなコバンザメが餌として求めて大型魚の後に付いて行く事を商法に例えた)

アルディを代表とするボックスストアは、店舗規模が小さく従って内装も簡単で工事や認可が早く、通常何年か掛かる大 型小売店が開店するまでの間に先行して売上を伸ばし儲けてしまいます。

 

アルディは世界規模で9400店、全米だけでも1150店を超えています。 年商は680億ドル(=約5兆円)と発 表されています。 レジは通常のアルディでは4~5台ですが、人口密度が非常に高いブロンクス店では7台のレジが並びます。 これからの 数年間で、ニューヨーク市とその近郊だけでも数十店舗の出店と想像出来、この一事でもニューヨークの買物事情は大きく変わり、連鎖して小 売の状況が変ってくる様に思われます。

 

 

 

ユニクロの ニューヨーク五番街旗艦店

 

ユニクロのアメリカ展開はニューヨークだけにしかありません。 それも2011年10月までは、ダウンタウンにある 旗艦店1店舗だけだったという事をご存知の方も多いと思います。 しかし実は今から10年以上前には、ニューヨーク市の郊外であるニュー ジャージー州で3店舗で営業を開始しました。 これは全米展開を見据えて、アメリカの何処の町にもある様な典型的なモールを使って、 GAPやLIMITED等の競合店と並べての実験だったのかも知れません。 知名度もなく価格が安くも無いユニクロは、ここで悉く失敗し 短期間で全店閉店となりました。 資本力がなければこれで終ってしまうかもしれませんが、当時絶好調であったユニクロは、その数年後にマ ンハッタンの中でもソーホーと言うファッショナブルなエリアの一等地に旗艦店を開店させました。

 

これはニュージャージーの実験で得られた全米展開の方法とは正反対の、知名度を先に上げる方法を選んだわけです。  プラダ、ルイヴィトン、H&M、アルマーニ等が並ぶソーホー地域のファッション店の中でも最大規模の店舗を作り、新聞も雑誌も大きく取り 上げた事でタダで宣伝になりました。 それと同時にニュージャージーの展開ではほとんどなかった広告宣伝にも非常に力を入れ、知名度を上 げるという作戦は成功しました。 この時点で集客は成功しましたが、投資に見合った収益については少々疑問を感じました。

その後数年にわたり作戦を練った上で、長い準備と工事期間を掛けてこの10月に五番街の一等地に旗艦店を開店させま した。

開店にあたって、その3ヵ月位前から新聞雑誌への広告、地下鉄やバスでの広告、その他街中での沢山の看板を出しまし た。 又、ポップアップストアと言う街中の目立つ場所にある貸店舗用のスペースを短期間だけ使ったイベント販売を行いました。 これはど う見ても湯水の様な金の使い方でした。 しかしその効果は膨大で、開店日には、一小売店としては想像を絶する集客が出来、雇用も促進され た為に億万長者の名物市長まで開店に立ち会うと言う効果が発揮されました。 おまけにその1週間後にはエンパイアビル横の3店舗目の開店 と言うイベントもあり、3ヶ月前から行い使った広告宣伝はその両方に効果があったわけです。 こういう思い切った作戦無しには、成功は困 難となりましょう。

 

五番街店は、店舗面積8900平米、3フロア、100の試着室、50のレジ、デジタルシグネージ用のスクリーンも 300台を越える圧巻です。

 

 

 

グルメ食品店、 サンドイッチ(カフェ)店の販路拡大

 

ニューヨークの代表的なグルメ店といえば、以前にもお伝えした通りディーン&デルーカ、フェアウェイ、ガーデン・オ ブ・エデン等沢山の名前があがります。 ディーン&デルーカの支店は日本へも進出しています。 サンドイッチ店では最上級のマンジャから チェーン展開しているメトロやヨーロッパ・カフェ等があります。

家賃が高いマンハッタンの中で、限られたスペースと営業時間の中でどう売上げを伸ばすか、その手段の一つにLOOP というのがあります。 Large Orders Off Premiseの頭文字をとってループ と言い、これは店の外での大口オーダーと日本語に直訳出来ますが、要するにケータリングや出前と言う言い方も出来るでしょう。

特にマンハッタンの中心街では、多くのオフィスで早朝から集まる従業員の為に朝7時頃に朝食を用意しています。 主 にコーヒー・紅茶、ベーグル、マフィン、ドーナツ、クロワッサン、フルーツ等で、これは社食等がある仕事場でもグルメ店等と契約し、ウ イークデーの早朝に届けて貰うのです。 従業員はその朝食を食べながら仕事の準備をし、8時や9時の始業前に、仕事の準備は完了して全開 状態になるのです。 アメリカ人は働かないと言われる事もありますが、そういう人は失業し、働く人はしっかり稼ぐのです。

このケータリングは、旧 来ランチを中心にビジネスをするサンドイッチ店やグルメ店にとって、店内のスペースを使わずに、雨でも雪でも年間を通して稼ぎ出せる手段 になるのです。 又、多く(特に金融関連等)の企業は従業員を増やさず長時間働かせる事で効率を上げ、その為には福利厚生費の出費を厭わ ない状況で、例えば夜7時以降の勤務では予算$35.を上限等として出前の夕食を会社持ちで提供しています。 これは従来のアメリカの出 前の感覚であるピザや中華の出前ではなく、グルメ店がレストランと同等の食事を出前する事が可能なのです。 余談ですが、従業員を増やす のではなく、専門的な仕事が出来る従業員に対して、食事と言うインセンティブや自分専用の広い仕事場、快適なイス、夜9時以降はハイヤー を用意する等の方法で効率良く働かせ、又優秀な人材の流出を防ぐのです。 経費は掛かりますが、優秀な人材を確保する常套手段です。 グ ルメ店はこういう現在の状況でも稼げるわけで、近年多くのグルメ店がその恩恵を被っています。

 

 

日本の外食企業 の進出

 

ニューヨークの日本食流行は、70年代のベニハナを代表とする鉄板焼きステーキから80年代の寿司、90年代の日本 食料品店等を経て、昨今はニューヨーカーが新しい日本の物は無いかと逆に求められています。 80年代にはどさん娘のチェーンもニュー ヨークで展開されていましたが、これはタイミングも悪く全て撤退しています。 今求められている日本の物、それが蕎麦でありラーメンであ り日本酒や焼酎です。 情報誌は次に何を報道するのか、どこで酒の試飲会があるのか等、当地の食通達は待ち遠しいのでしょう。(写真右は 間もなくニューヨーク上陸の柏露酒造古志純米大吟醸35%、獺祭純米大吟醸23%)

食べ物ばかりでなく、先に触れたユニクロのファッションであったりMUJIという店名で無印良品の店舗も展開してい ます。

奇しくも日本のB級グルメの流行りに同調した様ですが、どうやらこちらの方が先に始まっている様です。

ニューヨークの一風堂は 一杯1000円程度のラーメンを食べさせる店ではなく、酒を飲ませつまみを出し、その後で$15.程度のラーメンを食べさせるというコン セプトを作り夜の客単価は$40.~$50.程度になろうと言う店を作っています。 皆さんにお馴染みのラーメン店がニューヨークには 10チェーン程も来ています。 そして次にニューヨークに出てくるのは、定食の大戸屋であり、おむすび権米衛等、又、焼きそばやお好み焼 きやたこ焼き等、洒落た物でも高級な物でもない、全く我々日本人が普通に食するチェーンが出てきます。 立地とやり方を考えれば、ニュー ヨークで充分通用するものと考えます。 20年前と現在の大きな違いは、今の日本でも通用するレベルのラーメンや手打ちの蕎麦屋が出て来 ている事、大量生産ではなく味わいがそれぞれ違う地酒等が理解され始めている事です。 これらはニューヨークに出る以上、ニューヨーカー に食べられる為に進出して来るのです。 当地の要求に合わせた定食屋、おむすび屋が出来る事を期待しています。

ウェグマンズ、 ボストンエリアに初出店

 

ニューヨーク州の中部から始まり東海岸側だけで展開している全米トップのスーパーマーケットチェーンであるウェグマ ンズは、近年ニューヨークの南側に当るワシントン周辺を中心に大型店を開店させています。 そして長く待たれていたボストン郊外店が開店 しました。

 

通常の食品スーパーは、 平均として約7千平米の面積と4万品目の扱い品目と言われます。 ボストン郊外のウェグマンズは彼等の近年の大型最新店と同様に、約1万 4千平米と7万品目の店舗を作り、店内には広いカフェテリア席と共に、ウエイターサービスのレストランを併設しています。 多くのウェグ マンズは20万~30万平米の売り場を持つ屋外型モールの一角に出店していますが、ボストン郊外店も同様です。 周辺には沢山の企業が入 るオフィススペースがあり、先に述べたLOOPも行われている事でしょう。 周辺の環境は、それらのオフィスで働く人達の住宅地もあり、 それらは概ね4~8千万円程度で販売される住宅地が立ち並びます。

 

さすがボストンでは大きな活ロブスターも扱われていました。

 

アメリカだけでなく世界的な不景気が心配される昨今ですが、高失業率や不動産価格の低迷等があり不安材料が目に付き ます。 しかし日本の25倍と言う広いアメリカの中で、東海岸の多くの地域ではそれを吹き飛ばす活況の現状が見られます。

 

 

チャーリー・下城近雄、 下城NYニュース