追慕
- とにかく猫好きには耐えられない、愛猫に対する「追慕の念」が書き綴られた一冊です
- ノラや (中公文庫)/中央公論新社
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まず百閒先生が2匹の猫を飼い始めますが、1匹目のノラは全303ページ中36ページで百閒先生の庭の「木賊(とくさ)の茂みを抜けて」失踪
ノラ失踪後は、ノラの帰りを待ち侘び、ノラを探し、ノラの姿を思い出しては涙します
裏表紙の解説文には
「情愛と機知に満ちた愉快な連作14篇」
とあります。
いいえ、全く「愉快」ではありません
もうとにかく、百閒先生はいなくなったノラのことを思い涙しています
例えば、
「ノラは随分可愛い顔をしてゐたので、写真に撮つておいて貰はうと思った事がある。
ゐなくなるなら、写真に撮つておけばよかつたと思ふ。
しかし写真なぞ無い方がよかつたとも思ふ。」
という一文。
このパラドキシカルな心情
泣けます
その傷心ぶりは、あの破天荒な「阿房列車」を提案、実践、著作した百閒先生と同一人物かと見紛うほどです
- 第一阿房列車 (新潮文庫)/新潮社
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平山三郎氏(『阿房列車』シリーズのレギュラー「ヒマラヤ山系」氏)も、同書の解説で
「あの気むずかしい、謹厳な大先生が、猫がどこかへ行って戻らないだけのことでおろおろする筈がない、まして涙を流して猫の名を呼びつづけているなどとは想像することもできない。」
そして、ノラに続いて飼い始めた猫「クルツ(愛称クル)」も5年ほどで病死してしまいます
ノラはある日ふいにいなくなってしまうのですが、クルは
「朝出掛けて行かうとするクルの足もとが、よたよたする様だと云ふので家内が連れて戻ったその日から」
どんどん弱っていきます
その日から、ほぼ毎日医者の往診を頼み、次第に弱っていく「クルの小さな額に顔をくつつけて、クルやお前か、クルやお前か、と呼びて憐れむ」百閒先生の姿は、もうたまりません…
猫好きにはお勧めできない一冊です。