■高清水が叫んだ不条理な状況
「牛に願いを Love&Farm」の第8話。ストーリーを説明すると、主人公たちは大学の研修で、北海道にきている。
「EXPERIENCE TEACHES YOU EVERYTHING(経験に勝る教育はない)」の理念に基づき、牧場で3ヶ月の実習を積んでいく。ある日、あしざきファームの牧場主の富貴子が病気で亡くなる。あしざきファームは経済的にかなり追い詰められており、富貴子の1人息子である克也(田中圭)は、農協から離農勧告を勧められる。周りでは、いろいろと援助を考える。しかし克也は静かに語る。
「みんなに気つかわせて、無理させて、それだけは耐えられない。みんなが好きだからそれだけはいやだ」
克也は結局、離農勧告を受け入れ牧場を閉め、酪農ヘルパーとして鹿児島に旅出つ。
「牛の願いを」の中でも、屈指のいい場面である。正直泣ける。
そして、考えさせられるのは、第8話の最後のシーン、主人公高清水高志(玉山鉄二)の最後の言葉である。
「もう・・・別にどうでもいいや。・・・こんな町、消滅すればいいんだって。・・・克也一人助けられないこの町。消えてなくなりゃいいんだ。」
気持ちはとても分かる。プロマネ、いやSEもプログラマもこんな言葉を叫びたくなることは、現実にはよくある。そう、自分のプロジェクトがボロボロになったときに、そして自分の打つ手が全てなくなったときに。
■プロマネの絶望と不条理なコンピュータ
プロマネは、決してプロジェクトを失敗させようとはしていない。自分が担当するプロジェクトを、問題なく完了させようと努力する。しかし、プロジェクトは生き物であり、トラブルが発生しないことはありえない。そのトラブルが解決できるようなことであれば、問題ない。しかし、自分の手にあまるようなトラブルであった場合、いやそれよりも、絶対に解決しきれない問題であった場合、プロマネは絶望する。
例えば、『システムが完成したけれども、そのシステムが使われない』、『プロジェクトに関係のない第三者の一声で、プロジェクトがトラブってしまう』、『法律の改正により、突然大規模な修正がはいってしまう』、『予算が突然縮小してしまう』、『一生懸命作ったパッケージが全く売れない』、『プロジェクトメンバーが自殺する』、『上司のわがままによって、プロマネが更迭される』など。真面目なプロマネほど、自分の責任を考え、自分の力のなさを嘆き、無力感に涙するかもしれない。また、力のとどかない相手に対して、何もできずに、怒りのやりどころがなく、帰り道で並んでいる自転車に蹴りをいれているかもしれない。
日経コンピュータ誌では、一時期「不条理なコンピュータ」という言葉で定義された。つまり、「問題が分かっていてもさまざまな事情でどうしても軌道修正できない道理が通らない失敗プロジェクト」である。
■リスクマネジメントで回避ができるか?
「牛に願いを」はドラマであり、脚本家の腕ひとつで全ての問題が解決できるかもしれない。しかし、現実に発生している絶望的な状況は、プロマネの力で解決できるものは少ない。
プロジェクトマネジメント的には、「リスクマネジメントを行うことで対処する」といえば完了である。リスクを識別し、分析し、発生した時の影響を勘案し、対策案を考える。これが、リスクマネジメントの手続きであり、PMBOKでのプロセスである。
しかし現実には、リスクの分析を行い、対策案まで策定するが、リスクが顕在化した場合(リスクが実現の問題となった場合)に、事前に考えていた対策を打っている場合は少ない。そもそも、『不条理な問題』が発生するというリスクを洗い出していない場合も多い。プロジェクトの計画時に、『プロジェクトメンバーの自殺』、『突然の予算縮小』などのリスクを洗い出しているプロジェクトがいくつあるだろうか?
また、今回のドラマのような状況をリスクマネジメントで分析しても、酪農家の過酷な状況、借金、リソースの確保などを考えると、やはりあしざきファームの離農という結論になる可能性が非常に高い。プロマネの悩みを解決するにはほど遠い。
■プロマネの絶望感からの脱出
プロマネの絶望は、他の関係者にも影響を及ぼす。プロジェクトメンバーの士気に影響し、客にも影響し、上司にも影響を及ぼす。プロマネの心理状態は、プロジェクトにとって非常に重要であり、「プロジェクトに悪影響を及ぼすプロマネは更迭すべきだ!」と言われているかもしれない。
プロマネが絶望的な状況に陥った場合の対応案は少ない。考えを切り替えることしかない。そして、いまは全てを心にしまおう。絶望は何も生まない。悔しさを心にしまい、ただ前に進むしかない。
プロジェクト終了後に、教訓として残すのはプロジェクトマネジメント的であり、推奨されていることでもある。しかし、教訓を残すだけで完了させるのは、現場を知らないコンサルタントだけである。この悔しさ・無力感は決して忘れてはならない。そして、この経験はムダにはならないだろう。プロマネを育てるのは経験であり、自分の無力さを知っているプロマネは、成長するものである。
「牛に願いを Love & Farm」
2007年7月3日~9月11日、関西テレビ企画・制作、フジテレビ系列火10枠で放送。主演:玉山鉄二。他に小出恵介、戸田恵梨香、香里奈、相武紗希らが出演している。
東京から北海道の北美別に、酪農研修のために滞在している6人の大学生。彼らがこの町で起こしていく騒動の数々。そして、彼らは、「生命の煌き」「本当の牛乳のおいしさ」、そして「酪農家の厳しさ」を学んでいく。
トヨタラクティスとのコラボCM(ドラマ出演者がCMに出演)も有名。主題歌は槇原敬之「GREEN DAYS」。
翔泳社 PMINFO 2007年9月5日 初出
http://www.pminfo.jp/a/article.aspx?aid=191




