感じたことも思ったことも、どんどん過ぎていってしまうから、忘れないうちに。



先週神奈川の大船にある鎌倉芸術館にて「アプサンスーある不在ー」という芝居をみた。
女優吉行和子の最後の舞台である。
吉行和子扮する一人暮らしの老女を中心に、彼女の世話をする看護人、義理の妹、アパートの隣人などによって様々なやりとりが繰り広げられ、人間誰もがかかえる孤独や死、老いることなどについて深く考えさせられる作品になっていた。
脚本も演出も、脇を固める俳優陣も皆すばらしく、最近見た舞台のなかでは出色のものだったと思う。

そして何より、主演の吉行和子の素晴らしかったこと。
メイクも衣装も何ひとつ変えず、瞬時に少女から老女までを演じ分けていた。
改めて、すごい女優さんなんだなぁと感服。

実はずっと長いこと、吉行和子のことがあまり好きではなかった。
理由はよくわからないけれど、なんとなく自分と合わない、という感じだろうか。

ところが去年のNHKのテレビ小説「つばさ」をたまに見ているなかで、彼女の何ともいえない魅力を初めて感じた。彼女は、本来はあまり現実味のない役柄、つまり「こんな人いるかなぁ」と思ってしまいそうな役柄に、見事に現実味を与え魅力的なものに仕上げていた。

だから、吉行最後の舞台と聞いた時、私はすぐに見てみたい、と思ったのだ。

彼女がこれを最後の作品に決めた理由は、これまでと同じ集中力で芝居をすることが出来なくなるだろうから、とのこと。
確かに、これだけのクオリティで演じ続けていくことはとても難しいことだと思う。それが、生で観客に伝わる「舞台」であれば、なおさらだ。
今回見た彼女の芝居は、まさに「最後の舞台」にふさわしいものだった。
大変に惜しまれることではあるが、その決断は正しいのかもしれない、とも思える。

いずれにしても、久しぶりに芝居で感動を与えてくれたこの作品と吉行和子に感謝。

人間、ひとつのことをずっと続けていくことも大変なことだと思うけれど、それをいつ、どんな風に終えるかということも大事だなぁと感じた次第。

余談だが、看護人を演じた岡田浩暉。この人昔なんかバンドやってたよなぁと思い調べてみたら、「To Be Continued」ってグループだった。そうだった。
この人が俳優やってることは知っていたけど、びっくりするぐらい素敵だった。たま~に台詞をかんじゃうのはご愛敬ってことで。これからも、この人の舞台ちょっと追いかけてみようかと思う。