買い物に出かけ、
美味しいドーナツ屋に行った私とMさん。

Mさんは店内で突然、
不倫女(Mさんの元不倫相手)の名前を
私に向かって言い出した。

本人は無意識に言ったのだろう。
間違えた認識もない。
私は…それはそれで、耳を疑うし、
気分は良くない。

いくつかドーナツを買うと私達は車に戻った。





車に戻ると、汗びっしょり。
「Mさん、櫛ってある?」
私は髪をとかしたくてMさんに聞いた。
「ダッシュボードの下のボックスにあるよ。」
私は、ガチャと開けて櫛を探そうとした。

ポチ袋?
水引が印刷されたポチ袋があった。

「何、このポチ袋。」
私はMさんに確認した。
「……ん?
 あー、この間の法事の時に
 姪っ子ちゃんにお小遣いあげた。」
「……え?姪っ子ちゃんって、
 お小遣いを渡すような歳じゃないよね?
 大学も卒業して、普通に働いてて、
 もう30歳くらいじゃない?」
「そこまではいってないけど…」
「でも、お小遣い渡すって
 ちょっと意味が分からない…」
「遠くから来てくれたから。
 いいじゃん、俺の小遣いで渡してるし!」

ちびっ子ではない、立派な大人への小遣い。
万からのお小遣いだろう。

だったら、私への借金返済をしろよっ。
結局、返済してくれないしっ。
やってられない。

ふつふつと怒りが湧くと同時に
ドーナツ屋での事が気になって口にした。

「さっき、私の名前間違えてた。」
「え?間違えないよ。」
「ドーナツ屋で、Tって言ってました。」
「・・・」
「もしかして、まだ続いてた?」
「・・・・。」

あれ?
何で静まり返る?

「…もう終わった事だよ。」
そう、淋しそうにMさんは話した。


突然、窓ガラスには雨が打ちつけてきた。
遠くでは雷が鳴っている。

私の気持ちのような空模様だ。


『終わった事』が終わらない。