コンサート会場に着くと、
息子からポケモンGOに誘われ、
開演前まで付き合うことにした。


「なんか、頑張ってるよね、パパ。」
突然、C君がそう言い出した。
「そうね。家族と出かけようと必死だよね。
 今になって…とも思うけど。」
私は歩きながら息子に答えた。
「頑張る方向が違う時とかあるけど(笑)」
「確かに(笑)」
「ママはもういいの?」
「何が?」
「色々とさっ。」

おそらく、過去の不倫の事だろう。
妻として夫を許せたのか?
裏切りを許せたのか?
そう言いたいのだろうと感じた。

「どうかな…
 罪は罪。消えないからね。
 ママの心からも消えない。」
「そっか。」

そんな話をしながら散歩して、
ポケモンGOで遊んで、
色違いのポケモンを見つけて楽しんだ。

しばらく散歩してから会場に戻ると、
入口で待ち構えたMさんがいた。






Mさんはクラッシックとか無縁の人。
だが、不倫してからは
私の趣味に合わせようとしている。

「お待たせ。」
「始まるから行こう。」

席について開演を待った。
私達は3階席。
遠いけど、見下ろす感覚も悪くない。

いよいよ、コンサートが始まり、
有名な曲ばかりが流れ、
C君も飽きていない様子。



「さて、次は天国と地獄です。」
司会者が話し出した。


天国と地獄かぁ。
今の私はどちらなのだろう。

裏切られていた時の信じる力、
裏切られていない今の不信感。

裏切られていたのに、まさかまさかと
夫を信じてきて、
裏切られていない今、何を言われても
夫を信用できない、
どちらが天国で、どちらが地獄なのか…


コンサートも終わり、出口は大混乱。
C君ともMさんともはぐれそうになると、
そっと手を繋いできた。

C君?優しい♡

ん?…むむ…
このゴツい手は……

Mさんかよっ。

「階段だから危ないよ。」
Mさんが私を支えてくれた。


どんなに優しくされても、
もう裏切らないと言われても、
私はもう、この人を信じる力は湧いてこない。

たった一度の過ち、出来心だった、
そんな一夜の事だったらどんなに楽か…
不倫ではなく、浮気だったら…
こんなにも、私の心は凍らないのに…


駐車場へ向う帰り道、C君が話しかけてきた。
「天国と地獄って、運動会で聞くね。」
「そうだねー。」

なるほど、そっちね。
私は、文明堂のカステラかな(笑)