お財布事件から一週間が過ぎた。

その間に息子と免許センターに行き、
新しい運転免許証を発行し、
会社には保険証の再発行をして、
着々といつものお財布の中身に戻っていた。



が……
相変わらず、紛失したお財布は届かなかった。



やはり、スリだったのか??


警察に相談して、
防犯カメラを確認してもらう事にした。

お店で待ち合わせしていると、
優しい年配の方とひよっ子警察官が来た。

2人はお店の中へ入り、
カメラを確認してくれる事になった。

しばらくして警察官がお店から出て
私に話しかけてきた。
「すみません…
 このお店を悪く言うつもりはないですが、
 防犯カメラの画像が悪くて…
 よく分からなかったのと、
 カメラが2台しかなくて、
 何も見つけられませんでした…」

犯人を見つけたいわけではなく
私は、自分が落としたのか?とか、
状況を知りたかっただけだったので、
調査してくれたに感謝した。

「ありがとうございます。
 大丈夫です。諦めますので…」
私がお礼を言うと、
「お財布には大事な物とか入ってた?」
年配の警察官が聞いてきた。
「そうですね…臓器提供意思表示カードとか…」
「え?」
「今は保険証とかにも意思表示できますけど…
 ずっと昔から持ってたから…」

誰も、何も言わない。
無言…

「……そこ?」
ようやく言葉を発したMさんが
唖然として言った。

「まぁ…大切にされていたんでしょうね。」
警察官も何とも言えず…という感じ。


えぇ、私には何より大切ですが、
それが何か??






「他にはないですか?もし届けられて、
 すぐにご本人のだと分かれば良いので、
 何か特徴があれば…」
警察官がお財布の中身について聞いてきた。

私は臓器提供意思表示カード以外
大切なモノなんてないと思っていた。

だって、色々記憶にないし。

あっ…そうだ。

「小銭入れのところに指輪入れてたわ。」
「指輪?」
「指輪?」
「指輪?」
警察官とMさんがシンクロした。

「うん。結婚指輪。」

「………」

全員、無言。

また、沈黙……

「え〜!?何で言わなかったの!?」
Mさんが大声で驚いた。
「今、思い出した。
 だってドナーカード失くしてショックで…」
私は苦笑いしながら答えた。


指輪……
Mさんの不倫で、離婚すると意思表示して
その時に外したままだったのだ。


指輪より、ドナーカード返して欲しい。
と、さすがに…ここでは言えない。


「指輪ですか…ショックですね。」
警察官が慰めようとしてくれているが、
私がショックなのは、
臓器提供意思表示カードの方。

指輪はどうでもいいさ。

あんなの、あってもなくても、不倫される。

だから、いらない。


あー、どうせ失くすなら
私がさっさと指輪売れば良かった(笑)。