お財布がない。

慌てて車に戻り、Mさんと探すが
やはり車にはなかった。

落とした?
駐車場を店内入り口までのルートで探すが、
やはりどこにもなかった。

店内に置きっぱなし?
店内へ入り、レジ付近を探すが、
やはり財布らしきモノはなかった。


一瞬にして消えた財布。


まさか、盗まれたとは思わない私は、
誰かが拾ってくれて、
届けてくれるだろうと思っていた。

これまでも、昔のことだが、
電車の定期券を落としても
親切な人が届いてくれたし、
携帯を落としても、届けてくれた。

だから、お財布も…
警察へ届けようとしてくれているんだ!
と、思いたかった。

世の中に、悪い人はいないと…
盗んだりする人はいないと…
そう、思いたかった。


「Aちゃん、これだけ探してもないから、
 カード止めて、警察に行こう。」
Mさんが話しかけてきた。
「でも…そんな、人のお財布盗んだりする?」
まだ、私は現実を受け止められずにいた。
「いるでしょうね。」
Mさんは冷静に答えていた。
「ふーん。」
私は納得がいかないような相槌を打った。
「何?」
「身近な悪い人って、Mさんくらいだから。」
「はい?」
「騙したり、不倫したり。
 そういう人なら知ってるけど、
 お財布盗むとか、いるんだな〜と思って。」
「ん?喧嘩売ってる?」
「ん?事実なのに……」
「いいから、カード会社に電話。
 警察に行くよ。」
Mさんは冷静に言うと、車を走らせた。




カード会社に電話して、停止にすると
警察に駆け込んだ。


お財布の形状から中身まで聞かれた。

当然、現金がどれだけ入っていたか聞かれた。
たまたま支払いがあるから
銀行から下ろしたばかりで
かなり持っていた。

あー、Mさんの前で言いたくない。
「……5万、か、6万、7万円くらいかな…」
私はモゴモゴしながら答えた。

「え?」Mさんは唖然とし、
「おー」警察官は驚いていた。

あー、私の福沢諭吉。何処へ…。


最後にお財布はどこにあったか
それを聞かれた。
だから、記憶にないんだよな〜。


それにしても、
現金たくさん入ったお財布を無くして、
もし、私がMさんだったら、
私の事をすごく怒る。
『何やってるのよ〜』とか。

でも、Mさんは怒らない。
一度も怒らない。

・・・ん?
まさか、Mさんが犯人??

そんなわけないか(笑)