離婚したいと言い出したMさん。
しかし、慰謝料も養育費も主張すると
「チッ、やっぱり金かよッ!!」
と、捨て台詞を吐いて家を飛び出したのだ。


私は怒りが込み上げてきた。

Mさんの物が置いてある部屋に行き、
片付けろと言っても片付けない荷物を
手当たり次第、投げた。

投げて、投げて…
Mさんが大切にしているフィギュアさえも、
箱ごと踏み潰した。


そして、泣いた…
女優のように泣こうとしてじゃない。
子供のように大声で泣いてもいない。
ただ、瞳に涙が溜まり、
ぽとっ、ぽとっ…と、落ちていくのだ。

一粒。
また一粒。


悲しい。
悔しい。

ただただ、もう戻る事のない時間が、
悲しくて、悔しい。

切ない。
苦しい。

ただただ、もう二度と夫を信用できない事が、
切なくて、苦しい。





Mさんの手術を支え、
家族旅行を楽しんでいる時も、
想いを寄せていたのは、私ではなかった。
妻は女ではないと鼻で笑い、
信じていた私を嘲笑っていたのだろか。


Mさんが犯した罪は家族にとって許し難いが、
恋という魔物に操られていたならば、
恐ろしい魔法にかかっていたならば、
『不倫』という裏切りを
そんな都合の良い解釈で収められたら
どんなに楽だろう。

確かに今はもう魔法もとけて
Mさんは家族を大切にしていると思う。
努力しているのに、過去を蒸し返されたら
努力も水の泡だと思うだろうな…


そんな事を考えながら、
投げ散らかした部屋の壁に寄りかかり、
私は息を整えた。


ポロロン。

私のスマホが鳴った。

『帰るから、話をしよう。』
MさんからのLINEだった。


ヤバっ。
私は散乱した部屋を見渡した。
ど、どうしよう…