国営公園に来た私とMさんは
桃色に咲き誇るコスモスを見て、
丘を上り、絶景を楽しんだ。


今となっては、私もMさんも、
老夫婦のような関係だ。

「お茶、飲みますか?」
「ああ、戴こうかな。」

こんな、縁側で日向ぼっこするような
日本昔話のような、おっとりとした夫婦…
ではないが、必要最低限の会話をして、
日常を過ごしている。

日に日に体力が衰え、老いを感じると、
考えるのは、定年後の老後だけ。

老後…
独りは淋しいな。


そんな事を考えながら丘を下っていると
「アイタタタ。痛っ。」
後ろからMさんの声が聞こえてきた。
「どうしたの?」
「いや、脚の付け根が痛くて…」
「・・・あー、そうなんだ。」


やっぱり、老体だ。
……面倒だけは嫌だな。

なんて、頭によぎった。


「観覧車あるから、それに乗って休もう。」
私達は観覧車までゆっくりと歩いた。





観覧車乗り場に着くと、
すぐに案内されて乗る事が出来た。

「まだ痛い?
 私も疲れたし、のんびりしよう。」
私はMさんに話しかけた。
「うん。歩き過ぎたかな。
 前はこんなに疲れなかったのになー。」

前は?
いつの事だか。

私は外を眺めながら話した。
「もう何年も前じゃない?私達が来たのは。」
「・・・うん?」
Mさんは記憶を呼び戻そうとしている。
「Mさん。」
私はMさんを呼んだ。
「…何?」
「私…秋桜は見てない。」
「…え?」
「秋桜見てないよ、この公園で。
 私がここへ家族で来たのは春。
 秋桜って、秋に咲く花だよね?
 だから、私はMさんとここで秋桜は見てない。」
「・・・秋桜…って、春に咲かない?」
「咲かない。」
「咲かないかぁ。」
「咲かないね。」
「咲いたりしちゃう?」
「しつこい!」

密室の観覧車で、無言になる。

「ほら、見えるよ。Mさんの好きな秋桜。」
私が嫌味のように言うと、
「……キレイデス。」
もはや、AIのように答えるMさんだった。

おそらく、彼女と付き合っていた時に
2人で来たのだろう。

「何なら、ここから飛び降りますか?
 大好きな秋桜畑に向かって。」
Mさんはもう何も言えずうつむいている。


半周した観覧車。
頂上から地上へと戻る窓から夕陽が見えた。


素敵なモノを見たとき、
いつも最初に伝えたいのはMさんだった。
Mさんも同じように伝えてくれていた。
それを思い出したのか…

2人同時に
「夕陽…」と呟いた。


「キレイだね。」
「うん、キレイ。」
「秋桜もキレイよ(笑)」
「…もう、言わないで…ごめんなさい…」


今は、怒りを封印しておくか。

変な情報も得てしまったが、
秋のこの公園で、綺麗な花や紅葉を楽しめた。
一つ、夢が叶ったことは嬉しい。


地上に戻った私達は、
駐車場を目指して歩き出した。


さあ、帰ろう。