10月の半ばになり、
秋の気配を感じるようになった朝。

「う〜。さ、寒いな〜」
私は身体を丸めながら階段を降りて
リビングへと入った。

ソファーでは、相変わらずMさんが寝ている。


『まだ生きてる…』
チッ…と軽く舌打ちをしてみる。


Mさんは家のどこかで寝ていて、
ベッドで寝ることはない。

床や、和室、リビングのソファーなど。


目が覚めると、Mさんは必ず私に言う。
「どうして起こしてくれなかったの?」と。
仕方がないので私も言ってみる。
「どうして起こさないといけないの?」と。

勝手に床で寝て、
面倒みると約束したわけでもないのに…
路上で酔っ払いに絡まれたくらい迷惑だ。


たまに想像する。
起きてリビングに行ったら、
Mさんが死んでるとか…

そして思う。
死んでいるのを見つけたら、
間違いなく私が犯人と疑われるとか…

いやいや、死因で違うって分かるよ!
なんて、まだ死んでもいない夫の死体に
あれやこれやと想像する。


ただ、まだじぃさん(Mさんの父)がいる。
この人を見送っていないのに、
Mさんを先に見送るのは困る!


ソファーで寝ているMさんに向かって
私は呟いた。
「ねー、まだ死なないでよ。」
Mさんが目をうっすら開けた。
「死なないよ。」
そう言って、私の手に触れて来た。

コイツ、起きてたのかよっ。

私は手を払いのけて
「死んでもいいけど、
 厄介な者は残さないで。」
そう言った。
「厄介なモノ?俺以外の?
 俺は厄介ではないって事だ!」
Mさんが少し笑いながら言った。

コイツ、面倒くさい。

「あなたも厄介です。」






本当に色々考える。
私も若くはない。

離婚して、ひとり親家庭になって、
父親の分も『親』として頑張ろう!
という気力もない。
再婚して、新しい家庭を持とう!
という勢いもない。
 
老いるって、体力を奪われるだけじゃなく、
希望や未来の想像も奪われてしまう。



そんな事を考えながら
キッチンで朝食の支度をしていると、
Mさんが話しかけて来た。
「来週って、仕事休める?」
「何故?」
「Aちゃん、誕生日だから。出かけよう。」

なぬっ。
また私は老いるのか・・・忘れていた。


私の誕生日ねー。
昔はやっつけだったのに。


「別にいいよ。誕生日だからって。
 もう、夢も希望もないし。」
朝からあまり考えたくないので
つい、無気力な言い方になってしまう。
「行きたい所とか、ない?」
「……うーん。」
「行きたい所あるって言ってたでしょう?
 一つ一つ、夢を叶えるから。」
「どんな夢も?」
「うん、叶えるよ。体力があれば!」
「じゃあ、私とC君の家を買って。」
「あ、いや、だから…
 どこか行きたい所にって言う意味で…」

なるほど。
財力ないから体力でって事か。


私の夢はC君と2人で暮らすこと。
Mさんに私のこの素敵な夢は叶えられない。

Mさんが生きている限り(笑)