後悔しても仕方ない。
たらればを言っても仕方ない。
分かってはいるが、後悔する。

『あの時、離婚していたら…』
いや、遡ると…
『Mさんと結婚しなければ…』
と、思ってしまう。

そんな思いを抱えながら
変わらない日々が続いていた。


9月の半ば。
まだ蒸し暑い日の夜の事だった。

少し機嫌の悪い私と、それに反抗する父を見て
C君が私達に声をかけて来た。

「あのさー、2人が喧嘩すると面倒くさい!
 僕が気を使って、仲裁しないといけない!
 もういい加減にして欲しいよ!
 パパさー、競馬やめてよっ!
 借金繰り返すしてまでやる事じゃない!」

あー、切れてしまった。

「ごめん、ごめん、喧嘩じゃないから。」
私は慌てて声をかけた。
「はー?喧嘩でしょ?」
「いやいや、喧嘩じゃないよ。
 …言い合い?話し合い?かな。」
私は何とか誤魔化そうとしたが、
Mさんが気色悪い事を言い出した。
「うん、喧嘩じゃないから!
 ママとは仲良しだよ♡」
気持ち悪い!
思わず私はMさんを睨みつけた。

静かになったリビングに
テレビの音だけが響いていた。




しばらくして、C君が私に話しかけて来た。
「今度の金曜日、試合あるじゃん?
 ママは観に来る?」

これは観に来て欲しいのか?
平日だし、仕事を休まないといけないし、
一瞬、迷いが出てしまった。

「保護者って、観に行っていいのかな?」
私は上手く交わしてみた。
「良いんだよ!観に来ても!」
少し照れながら、でも嬉しそうに言う息子。
「分かった。観に行くよ!
 お弁当も作らないといけないしね〜」
「あ、お弁当は…」
「何?お弁当持って行くでしょう?」
「いや…みんなコンビニのおにぎりとかで、
 あんまりお弁当持って来る人いなくて…」
「え?コンビニ?」

最近のお母さんはコンビニで買わせるのか?

「ママのお弁当美味しいよ。
 美味しいけど…ちょっと恥ずかしい。
 動物のピックとか、タコさんウィンナーとか
 もう僕は小学生じゃないからさー」

がーん。
たまに作るお弁当に気合いを入れ過ぎて
まさかの不評(笑)

「分かった…ピックはやめます。
 でもお弁当作らせて〜栄養取らないと!」


こんな会話も、同じリビングにいるMさんは
耳に入っているはず。
私とC君が仲良くて寂しいって思うのかな?
でも子供から無視されても仕方ないよね。


いよいよ金曜日。試合の日だ。
元気に出かけたC君を見送ると、
私は急いで身支度をした。
Mさんも仕事に行ったようだった。

『頑張れ』とか言ってやればいいのに…


試合開始の9時。
私はサッカーグラウンドのスタンド席にいた。
ママ友とも合流し、みんなワクワクしていた。


ふと離れたスタンドを見ると、
スーツ姿のおっさんが一人座っていた。


Mさんだった。


馬鹿だな。
一人で孤独に観戦か。


不倫して、借金して、家族を騙して…
それでも私も子供も諦めて家族でいたのに、
また借金なんて、救いようがない。


Mさんも後悔することってあるのだろうか。
不倫なんてしなければ…
借金なんてしなければ…
そんな、たらればを思う事があるのだろうか。


『ピー』
審判の笛の音がした。
キックオフだった。