Mさんとの話し合いを終えたあと、
いろんな事を思い出していた。

Mさんに裏切られてきた事、苦しかった事、
切なかった事、悲しかった事…

嬉しかった事も、楽しかった事もあったのに
思い出すのはどうしても
心が痛かった時の方だ。


悲しみは癒えない…ということなんだろうか。


今回は何回目の借金発覚なんだか…
もう何度目の裏切りなのかさえ分からない。





その日、夕方からC君と買い物に出かけた。
Mさんの衝撃発言に脱力して
何もしたくなかったけど、
子供の為にと外出した。

サッカーボールの買い物を
とても楽しみにしていたC君。
行けないなんて言えない。


お店に着いてから、
「どんなボールにする?」
私は頑張って笑顔で聞いた。
「好きな選手と同じボールが欲しいけど…」
と、たくさんあるボールを眺めて選んでいた。


C君はまだ何も知らない。
知らないけど…勘の鋭い子だ。
すぐに気がつくだろう。
私が元気そうに振る舞っていても
「ママ、泣いてるの?」
と聞いてくるくらいだ。
絶対に気が付かれてしまう。


「ママ?」
「うん?」
「電話鳴ってるよ。」
「あ、本当だ。ちょっと待っててね。」

私は店内から外へ出て、電話を受けた。

Uちゃんからだった。
「Aちゃん、夏休み最後だねー。」
何気ない電話だった。
「あー、うん。そうだね。
 その最後の夏季休暇で事件だよ…」
「え?」

私は斯く斯く然々と先程の事件を話した。
「え〜、ちょっと…Mさん、ダメだね。
 私は離婚は何とかしない方向で…と思って
 色々と考えたけど、もう無理だね。」

Uちゃんに毎月のMさんの返済をどうするか
相談した時に色々アイデアをくれた。

「そうだね…
 離婚だよね。準備を進めていくよ。
 親にもC君にも話さないといけないし…
 色々ありがとう。」
そう言って、私は電話を切った。


店内に戻ると、C君がいた。
「ボール決めたよ!
 今度、スパイクも買っていい?」
「うん、いいよ。今日はボールだけね。」


嬉しそうにボールを持つ息子を見て
また私は泣きそうになった。


息子は離婚に反対だ。
引っ越す事も嫌がる。
いつまで我慢すれば良いのだろう。


「C君!」
私は前を歩く息子に声をかけた。
息子は聞こえないのか、
ボールに心を奪われているのか、
母の声が聞こえていない。
「C君!?」
もう一度声をかけてみたが、完全に無視。


こっち向いてよC君。
ママ、大切な話があるんだけどなー。