夫が早く死なないかなって、
思ったらいけないのだけど、
……思ってしまう。


もしも、Mさんが死んだら…を想像した。
Mさんが不慮の事故に合い、
家のローンがなくなって、
新しい家なんぞ買って、
C君と笑いながら過ごす。

部屋には古い暖炉を置いて、庭には…
真っ赤なバラと、白いパンジー、
子犬の横にはあなた〜♫

あっ、いけない。
小坂明子になっちゃった(笑)

妄想で幸せになってどうする!






Mさんのスマホを確認して、数日後。
仕事中の昼休み時間に、
私はMさんにLINEで連絡をして、
じわりじわりと言ってみた。

『夜勤明けの日はすぐ帰宅してる?』
『無駄遣いとかしてない?』
など…

Mさんもここまでは素直に返信してきた。

『眠いからすぐに帰って寝てるよ』
『買い物する暇ないよ』
とか…

『銀行から手紙が来てました。
 身分証明書がどうとか……どういう事?』
私は最後に聞いてみたが、
Mさんからの返信が来る事はなかった。



想定内だ。
Mさんは逃げるタイプ。
嫌な事から逃げて、自分だけ楽になる。
そんな弱い奴。


夜になって「帰ります」とLINEが来る。
私の最後の質問にも答えず。
最後のLINEが虚しく残っているのに…


帰宅したMさんは明るく
リビングに入ってきた。
「ただいま〜」
自分の借金に妻が気がついていると
分かっているのに…

この明るさ、腹が立つ。

いや、寧ろ怖い。


C君はちょうど風呂に入ってたので、
私は「おかえりなさい」と言った後、
2階へと着替えに行くMさんに
ついて行きながら話しかけた。


「いくら借金あるの?」
「何の為に使うの?」
「いつからまた借りてるの?」
「彼女とまだ続いてるの?」
と、ズバッと聞いてみた。


階段を上がり、部屋に入ると
Mさんは私を廊下へ押し出し、
自分の部屋のドアを閉めた。

バタン。

「自分で何とかするから!」

部屋の中から
Mさんの叫ぶ声が聞こえてきた。


何とかする?
どーにもならないだろ。


もう、私の中にMさんに対しての
『情』が
1ミリもない事に気がついた。


ドア1枚隔てた私達。
そこに愛はない…