入学式も終わり、子供は登校が始まった。
毎日、朝から慣れない制服を着て、
重たい鞄を持って自転車で行く姿が初々しい。


あれから、Mさんからの捨て台詞が
頭の中で渦を巻いていた。



『したければすれば、恋でも不倫でも』



誰かと恋をしたいのではない。
家庭を捨てて不倫をしたい訳でもない。
ただ、恋をして再婚したカップルが
素敵に思っただけなのに、
不倫すればと勧められてしまったのだ。

チッ、意味が分からない。


そんな事を考えながら子供を見送る。
「行ってらっしゃい!」と、
振った手が、なんだか悲しかった。


一人になったリビング。
朝食の片付けをしないとっ。

洗い物を始めた。

だいたい、最近、生意気なんだよ!
もうすっかり家族気取り!
私は許した訳じゃないのに!

イライラしながら洗い物を片付け、
慌てて出勤した。


段々とシタ側の強さみたいなモノが出て、
何か気に入らないと不貞腐れるMさん。

不倫していた時みたいに…





その日の夜、テレビを見ていたら
ある曲が流れてきた。
ほんの少しのフレーズだけが
映像と共に映し出された。

ONE OK ROCK の『Wherever you are 』だ。

残念ながら、私はあまり知らないが
ふと、ワンオクという言葉を思い出した。


「これって、Mさんが好きな曲?
 ワンオクってグループの?」
私はリビングにいたMさんに聞いた。
「あー、うん…」
なんだか、素っ気ない返事。
「Mさん、2.3年前よく聴いてたよね?
 良い曲なんだよって。その曲の事?」
私が記憶を辿りながら聞いてみると
「え?あー、うん、まぁね。」
Mさんは、そんな乾いた返事をした。


2.3年前…Mさんが不倫していた時だな。
Mさんがハマる程、良い曲なのか?

何だか、Mさんは入学式から沈んでいる。
この日も、これ以上の会話はなく、
私達は眠りについた。


翌朝、通勤中にこの曲を聴いてみた。
車のスピーカーから流れてくる歌に
ドキッとした。

あっ…そういう詩なんだ。


“愛している”、ずっと変わらないと誓う、
男の心を表した曲だった。
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心から愛せる人


心から愛しい人


この僕の愛の真ん中には


いつも心(きみ)がいるから
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なるほどね。
Mさんは彼女によく“愛しい”と書いていた。
心から愛していると彼女へ伝えていた。
Mさんの思い出の曲か。


入学式やワンオクで
彼女を思い出したのだろうな。

いつまでも変わらない愛を
Mさんは潜めているのだろうか。