卒業式の最後に保護者代表挨拶があった。
親として、子を想う、
優しさと愛に溢れた挨拶だった。


コロナという強敵なウイルスに闘い、
人としての尊厳を奪われたような日々を
思い出しては、泣かずにはいられない。
小さな子供達にマスクを強制し、
一気に生活が変わってしまった。

そんな過去を振り返ると
涙でいっぱいになるのは当然だ。

そう、当然。
えぇ……当然なんですが…

横にいるMさんがねぇ…

「ずっ、うっ、ぐふっ」

まさかの、号泣。


なぜ、貴方が泣く??
何に対して想いを馳せている??


会社や友達に
「明日は卒業式!泣いて来る!」宣言をしたが
隣でびーびー泣かれると、
何だか引いてしまう。


「大丈夫?」
そう言って、
私は自分のハンカチをMさんの膝に置いた。
「あ、ありがとう…」
Mさんは恥ずかしさでいっぱいになったのか
「もらい泣きだ。
 コロナの話で、切なくなったよ。」
と、言った。
「ふーん」
それだけを言って、
私は最後まで式を見届けた。


卒業生、退場。
「先生!お世話になりました!
 ありがとうございました!」
元気な声でクラスの代表が叫んだ。
その後、クラス全員の
「ありがとうございました!」が響いた。

先生は涙でいっぱい。
「こちらこそ、ありがとう!」
そう言って、卒業生を退場させた。

大きな、大きな、拍手が体育館に響く。
愛がいっぱい、溢れている。
そんな卒業式だった。


卒業生を見送りながら、ふと思った。
さっき、Mさんが泣きながら
私に言ってたな。
「コロナを思い出して切なかった」と。

コロナで切ない??
何言ってるのだろか。


Mさんのコロナ期間は幸せだったよね。
不倫生活の日々。
毎日、彼女の家に帰って、夫婦ごっこして、
彼女手作りの美味しいご飯を食べて、
彼女と一緒にお風呂に入って、
ベッドで彼女を抱いて、
私に見つかれば、離婚すると騒わぎ、
私に暴力振るって、自由に生きてた。
周りに何度バレても、誤魔化して、
騙して、隠れて、愛を深めて、
子供の事なんて無関心だったくせに?
最高の幸せな時間だったくせに?
何を今更、コロナで切ないとか言えるのか。
貴方の切ない意味は、
彼女との別れなんじゃないの?


なんて、今更言ったところで仕方ない。


攻めたところで土下座する訳でもないし…
無視するし、すぐに逃げるしね。
言うだけ無駄なので、言わない。
言わないけど、軽く睨む(笑)






卒業式も終わり、体育館では
子供達が友達や先生と写真を撮っている。


待ちぼうけをくらっている保護者は、
体育館の外でおしゃべりが始まった。

「私達も母親業の区切りだね!」
誰かが言い出した。
「そうそう、私達も卒業だ(笑)!」
「ねー、写真撮ろうよ!」
そう言って、ママ達だけで
卒業式式場と飾られた看板の前で
写真を撮り始めた。
「何だかポーズが昭和じゃない(笑)?」
誰かが言い出した。
「肩でも組む(笑)?」
そう言って、肩を組み
最高の笑顔で写真を撮った。

「昭和の匂いがするよ〜」
振り向くと子供達が、
流し目でこちらを見て、そう言って来た。
「いいんだよ〜。
 昭和生まれの女達なんだから(笑)」
ママ達は笑いながら言った。


見上げると、ちらほら桜が咲いていた。

ありがとう。
ママ達を母親にしてくれて。

はしゃいだママ達の頬は
桜のようなピンク色に染まっていた。


母親としての区切りもついた一日だった。