会社の女性とランチしたり、
仕事上の必要なメールは仕方ない。

ただ…
私には女性とランチはしないと言いながら
実はランチをしていたようだった。

Mさんのスマホを勝手に見て、
彼女との会話から、
嘘をつかれていたと分かったのだ。

ランチしたり、メールしたり、
そんな事はどうでもいい。
ただ、嘘はつかないで欲しかった。

嘘だけは、嫌だった。


そんなモヤっている私とは逆で、
いつもと変わらないMさん。
優しいし、家事も手伝ってくれるし、
お土産も忘れない。


あの嘘は何でもない。
あのメールも何でもない。
うん、気にしないでいよう。
毎日そう思って過ごした。


気にしない…
気にしない…
気にしない…






『離婚したい』
気がついたら、私はMさんにLINEしていた。

『どうしたの?』
Mさんからの返信に
私は吐き出すかのように送った。

『貴方は私が不倫の事を言わなければ
 幸せですよね。
 仲の良い夫婦だと思っているでしょう?
 私は違います。毎日思い出します。
 リビングにいれば、貴方に
 「彼女といると安らぐ」
 「彼女を愛している」
 そう言われた映像が頭の中に流れます。
 玄関にいれば、彼女を愛して狂ったように
 会いに行くと家を出ようとして
 必死に貴方を止めた時を思い出します。
 アウトレットに行けば、
 貴方が彼女と来た宝石店で恋人のように
 買い物をした2人を憎くなり、
 夜中の密会で私の目の前で逃げた
 2人の姿が思い出されます。
 音のない、昔のフイルム映像のように
 モノクロの過去が私の中で流れます。
 私は、毎日毎日、見たくもない映像と共に
 生きているのです。
 それがどんなに苦しいか、
 貴方には一生分からないと思います。
 この過去の苦しみが消えないのに、
 次の不安を抱えるのは限界です。』

このLINEを打ちながら
ポロポロと涙が頬をつたった。
喉の奥が熱くなり、
溢れ出す涙は止まらなかった。


初めて吐き出した想い。
突然の告白に、Mさんはどう思っただろうか。
既読にはなるが、返信はなかった。


私はもう一度、言葉を送った。

『15年かけた道のりの挫折は大きい。
 山登りでなんとか険しい道も越えて、
 やっと中腹まで来て、
 疲れて戻るか進むか迷ってる感じ。
 もう苦しい思いはしたくないから、
 下山して、下りの道を楽に歩きたい。
 そんな気持ちなのです。』

結婚して手を取り合い、前に進み始めた人生。
いつの間にか、私一人で家族の為にと
頑張って登っていた気がする。

疲れた…
もう、楽になりたい…
そんな気持ちだった…


しばらくしてMさんから返信が来た。

『苦しみも憎しみも、消えるようにする。
 Aちゃんを笑顔にする。
 今はAちゃんが一番大切なんだ。
 Aちゃんが疲れたなら
 おんぶして頂上まで連れて行くよ!』


これから真冬になるというのに、
少しだけ、ほんの少しだけ…
凍った心の氷が溶けた気がした。