桜が満開の夜、
私とMさんは河川敷へ向かった。

車を走らせ、15分ほどすると
川沿いに満開の桜が見えてきた。
「きれい…」思わず声が出た。
本当はもっと子供のように
笑顔ではしゃぎたかった。
でも、ずっとMさんとは上手く会話が出来ず、
笑い方を忘れてしまった…


近くの駐車場に車を停めて、
川の流れと桜を眺めながら…
私達は川沿いを歩き始めた。


先に話を切り出したのはMさんだった。
「ライトアップされてないのかな?」
「消灯時間があるのかも…」
私は、そう言いながら、
去年は?一昨年は?彼女と見たの?
そんな聞けもしない疑問の方が気になった。
「そっか。ライトアップ見たかったな。」
Mさんが残念そうに言った。
「月明かりだけでもキレイだから。」
私は歩きながら夜空を見上げて言った。

今更、ほじくり返すのはやめよう…
そう決めて気持ちに蓋をし、
私は、立ち止まって話し始めた。

「Mさん、やり直すって何?」
「うん?」
「もう一度やり直したいって言ってたよね?
 私、最近思うの。
 2人が仲良かった頃を振り返っても
 その時と同じ気持ちにはならないって。
 想い出を辿ってくるとね、
 やっぱり最後にMさんの不倫を思い出すよ。
 だから、やり直すのは無理。」

「……うん」
Mさんは、ただ相槌を打って聞いている。


「私ね、ずっと離婚するって決めて

 Mさんを見ないようにしてた。

 でも、私が体調崩して入院して、
 Mさんが看病してくれて、
 家では私の代わりをしてくれて、
 それから少しずつ変わっていくMさんを
 見るようにしていた…」
「うん…」
私は、川の流れと
向こう岸にある桜を見ながら話しているが、
Mさんはしっかりと私を見て話を聞いていた。
私の目の端にMさんの瞳が入ってくるのだ。
瞬きもせずに、真っ直ぐに私を見ている。

「だけど…私は、ずっと許せないと思う。」
私は足を止めて、桜を見上げた。
「分かってる。償うから。」
Mさんがハッキリと言ってきた。

でも、何も分かってない。

「Mさん、償いは簡単だよ。
 私が望んでいるのはそうじゃない…」

私も、真っ直ぐにMさんを見た。
瞬きもせずに、ただ真っ直ぐ見つめて言った。

「償うより大事な事。」

瞬きもせずに、Mさんは考えていた。