裁判は全て終わり、
これからの選択の答えを考えていると、

Mさんから電話がかかってきた。

「桜を見に行きませんか?」

私は突然の誘いに戸惑い、
「考えておきます。」
それだけ言って、電話を切った。


まだ離婚しないと決めたわけではない。
試験的に一緒に暮らしてるだけで、
子供の気持ち、自分の気持ち、
よく考えて答えを出すつもりでいた。

それを『春になったら決める』と、
Mさんに話していたが…
もう、春だ。
仕事に追われて、生活に追われ、
ゆっくり考える暇がなかった。


最初の頃は離婚する気満々の私だった。
「出て行って!」と言い続け、
それでもMさんは、
「やり直したい!」と言って、
なかなか出て行こうとしなかった。
償う姿勢のMさんを見ながら月日は流れ、
あっという間に春が来た。

ずっと見てきた。
向き合おうとして頑張っている姿を…

だから、
桜を見に行かないか?と誘われ、
受け入れられない自分がもどかしかった。

ちょっとした外出くらい、しても…良いかな…
そう思ったけれど、勇気が出なかった。

だって、この人…
彼女と桜が見える丘に行ったよね。
写真があったし。
楽しそうにデートしてたよね。
私が汗かきながら仕事してる時にさっ。
そういう人なんだよ。
だから、やっぱり嫌だ。


私はMさんが帰宅すると
「桜、行かない。」
と、それだけを伝えた。

すると、Mさんが言い出した。
「まだ許してくれない?
 Aちゃん、異常だよ…」

私と目も合わさず、つぶやくかのように

小さな声で訴えてきたのだ。



はい?

え?
・・・・・えーっ

あー、そうですか。

私にしてみたら、
バレてもバレても、不倫していた
貴方の方が異常だと思いますが…


そうなんだ。
そう思われていたのか。

やはりMさんは、不倫そのものについて
悪事だという認識はないのだろうか。

いや、それはさすがに反省はしてるはず。
私が心を閉ざして、向き合わない事が
『異常』だと言うのだろうか。


不倫して、信用失って、家族までも失う。
これがシタ側の結果になるのが一般的。
それなのに…
くだらない一言を吐いて。
家族を失っても良いのか、コイツは。
許されると思っている事こそ、許されない。
家族再生の試験期間なのに、図々しい。

せっかく、今年は去年とは違う春になる
そう信じたかったのに…

『サクラチル』になってしまうよ。