鬼が鬼退治。
赤鬼VS青鬼(笑)?

豆を投げつけた節分から
毎日、吐き出したい思いを抑えて、
探偵会社の彼の言葉を守っていた。

『普通にしてください。
 面談を行い、ご契約になれば
 すぐにでも調査が出来ます。
 それまで、気づかれないように、
 今まで通りにしてください。』

そう教えられた。

でも、なかなか難しい。
ここまでの裏切りに冷静でいるのは、
全ての感情を捨てない限りは難しい。

言いたい、ぶっ込みたい、でも我慢。

いよいよ、探偵会社との
面談の日が決まった。
それまで、状況を整理しておかないと。


そんな中、Mさんが
平日の仕事休みを教えてきた。
2日後だったが、
私も半休を取って、ランチの約束をした。


そして、約束の日、
ちょっとお洒落なパスタ屋に行った。

子供の事、仕事の事、色々と話した。
パスタをシェアしながら、
おしゃべりを楽しんだ。
『普通に』を守って。

最後にデザートと珈琲が来た。
甘いケーキと、苦い珈琲。
パンケーキの離婚話を思い出した…


苦しかったあの頃から今日まで
私なりに頑張ってきたと思ってる。
借金も精算してあげた。
家族でいる空間を楽しいものにした。
なのに、何故まだ彼女と会っているのか、
それがどうしても理解出来なかった。


涙が目にいっぱい溜まってきた。
今、下を向いたら、
今、瞬きをしたら、
この涙、溢れてしまう。

どうしよう。
引っ込め、私の涙!

ポロッ…
溢れた…
ポロ…ポロ…
瞳から涙が溢れてしまった。


「何で泣いてるの?」
Mさんが聞いてきた。

「別に…」
私はそう言うしかなかった。


誰かを想う気持ちは一つしかない。
同時に2人を愛する事はできない。
Mさんは誰を想っているのだろう。

当たり前の生活の中で、
休んでいた『恋』に気が付いた。
私は何年、恋を休んでいたのだろう。

そして、
恋をしているMさんが羨ましくなった。
いいな、誰かを愛してる人は。
いいな、誰かに愛されてる人は。
いいな。


約束が守れなかった。
『普通に』が……出来なかった。