息子が父親を罵倒したのは、
Mさんの心ない一言のせいだった。

息子は、私が思っていた以上に
父親を恨んでいたのです。


私の誕生日から数日経ったある日、
私は夕食の後片付けをして、
対面式のキッチンで洗い物をしていた。
リビングでiPadを見ている息子は
寝ながらYouTubeを見て笑っている。
それは、私にとって、
いつもと変わりない光景だ。
そこへ風呂上がりのMさんが来て、
息子に声をかけた。

「YouTubeばかり見て!
 勉強、ちゃんとやれー」

お前が言うか。
でも何気ない一言。私もたまに言う。

しかし、その数秒後の事だった。
寝転んでいた息子が起き上がり、
Mさんに対して叫んだのだ。

「お前に言われたくない!
 浮気ばかりして、ママを泣かせて
 お前こそ、ちゃんと生きろ!
 お前のせいだ!!
 お前が壊したんだ!!
 もう、お前なんか出て行け!!

 お前、バカだー!!」

ごもっともだ。

どちらが賢い?

断然、小学4年生の方が賢い(笑)


Mさんに対して、勝てもしない身体で
父親を両手で殴り、体当たりしながら
大声で叫んでいた。

一瞬、何が起こったのか分からず、
私は水道の水を止めることすら
出来ないでいた。

ここまで息子が怒鳴るのは初めて。
気の済むまでやらせよう。
泣いていい。
叫んでいい。
殴ったっていい。
全部吐き出せ。
思っている事、全部言え。

私はそのまま、洗い物をしながら
2人を目の端に入れていた。

Mさんは息子の弱いパンチに
抵抗せず、黙ってやられ続けていた。
「分かった、分かった」
Mさんはそう言うと、息子を制し、
2階へ上がると荷物をまとめ始めた。

もう少し様子を見るか。

息子は自分でもスイッチが入った事に
驚いたのだろう。
少し、その場に立ちすくんでいた。
しかし、ゆっくりと息子は2階へ行き、
Mさんの部屋の入口に立って、
荷物をまとめる父親をじっと見ていた。

私もそーっと階段を上がり、
様子を見てみた。

この光景、子供に見せて
Mさん、あんた楽しいか?


荷物をまとめ終わったMさんは
階段を降りてきた。
そして、玄関に行く父親を
息子は黙って追いかけた。
どんな思いでいたか、想像がつく。
このまま出て行かせたら
絶対に息子は自分を責める。
一生、深い傷となる。

そろそろ止めに入るとするか。

「何やってるの?
 荷物まとめて出て行く姿、
 子供に見せて楽しいか?
 仮にも親だ。しっかりしろ。」

私はそう言ってMさんを諭した。


全く、腹が立つな。
生命保険払ってなかったら
すぐ離婚してるんだけどなー。
10年以上も払ってきて、
受け取れないのは損だ(笑)。

Mさんは黙って自室へ戻ると
そのまま、ふて寝した。


その夜、息子が言った。
「ママ、アイツ死んだら
 保険金いくら貰える(笑)?」

おーっと、危険な発言だ。
私が笑っていると、更に息子が言った。

「受取人は僕にして。」

やっぱり、恐ろしく賢い(笑)。
息子と2人、ソファーで肩を並べて座り
大笑いしたのだった。


天窓から見えるお月様が
「お疲れさま」と
母子を明るく照らしている晩だった。