今流行りの珈琲屋へ
夫婦では初めて行く事になり、
Mさんは、私が切り出した
「離婚しましょう」の言葉に
フリーズしたままだった。

本来なら甘いパンケーキを
「Mさん、あ〜ん、パクッ」っと
美味しくいただくところだが、
私達夫婦は違った。

あ〜ん、と、Mさんがしているのは
びっくりし過ぎて、
あんぐりと口を開けていたのだ(笑)

暫くして、Mさんは、ただ一言
「何で?」と言った。

すかさず私は、用意した緑の紙、
そう、離婚届をテーブルに置いた。
そして、左の薬指にはめていた
結婚指輪も離婚届の上に置いた。

これは、一度やりたかった!
離婚届と結婚指輪のセット。
昔のドラマでよくあったのだ(笑)。

「理由は分かっているよね?」
私がMさんにそう言うと、
「えっ…何が…?分からないよ。」
と、Mさんは言った。

出来るなら私の口から言いたくない。
でも、言わなければ進まない。

「Mさん、貴方、不倫してるね?」

どれくらいの間があったのか…
たった数十秒だろう。
Mさんは一言

「してないよ……」と言った。

ここまで来て、往生際が悪いッ

私は鞄から、例のモノを取り出し、
Mさんに突き付けた。
2人のトーク画面のプリントだ。

「何…これ…」

Mさんは私にそう言いながら、
手に取ると、黙って読んでいた。

身に覚えがある内容なんだろう。
紙を持つ手は微かに震え、
ただ、黙って水を一口飲んだ。

「それを見ても、してないと言う?」
 どう見ても、肉体関係がある。
 不貞行為だよ、これは。」

私はMさんに詰め寄った。

「去年からだね?あの人と。」
 ずっと付き合ってたんだ?
 これ、不倫だよね?」

Mさんは何度も瞬きをして、
何度も「してないよ…」を繰り返して
何度も、水を飲んでいた。

そして、最後に…小さく頷いた。

「お待たせしましたー♫」
店員がパンケーキを持ってきた。
Mさんは、慌ててテーブルにあった
離婚届と指輪、LINE画像をしまった。

店員もびっくりしただろう。
まだ嫁にも行ってない若い子が
婚姻届よりも先に、離婚届とやらを
見てしまうのだから(笑)。
申し訳ない…

「冷めないうちに食べよう。」
Mさんはパンケーキを食べ始めた。

食べられるんだ?
ってか、この状況で食べます?

Mさんはパンケーキを食べながら
味の感想を言い出した。

今、それ必要ですか?
何だったら、
バレた感想の方を述べてくれ(笑)

不倫を認めたけれど、
やはりMさんは謝らない。

パンケーキに罪はないが、
コントのように、
思いっきり、頭をどついて
パンケーキに顔を打ち付けたい!
そんな気分だった(笑)。

甘いパンケーキが私の喉を通る。
目からは涙がぽたぽたと溢れ、
私には味なんて分からなかった。
ブラック珈琲の苦さだけが伝わった。

食べながら、私は言った。

「手術が成功して、家族に感謝して、
 私はMさんが戻ってくると思ってた。
 私から何も言わなくても、
 彼女と終わりにして戻ってくると、
 そう思って、今日まで耐えてきた。
 でも…もう限界。
 手術して散々家族に心配かけたのに
 元気になったら、毎晩のように

 彼女に会いに行って…
 どれだけ私を馬鹿にしてるの?」

Mさんは何もいわない。
黙って、空の皿を見つめている。
いつの間にか、平らげていた(笑)

夕方5時。
Mさんが立ち上がって言った。
「そろそろ帰ろう…」

話も、計画も、まだ終わってない。
でも、仕方ない。
私も立ち上がった。
伝票をMさんに渡すと、彼は言った。

「…え?…また俺が払うの?」

えー!?
そこは何も言わず払えや!
空気読めッ!(笑)