不健康ランドの小乱闘

不健康ランドの小乱闘

レビュー、ってほどのもんじゃないけど。

英題 Sentimental Value、

ノルウェー語だと Affeksjonsverdi、

affeksjonがaffection「愛情、愛着」で、

verdiがvalue「価値」らしい。

 

予告を何度も見せられて、なんか、

つらそうな話っぽいな~、しかも130分か~。

なのであんまり乗り気じゃなかったんだけど、

 

オスカーに役者4人↓がノミネート、なら観ずんばなるまい、

ってんで、公開初日に観てきた。

 

 

そしたら予想外に、つらい話じゃなかった。

 

父親グスタフ(ステラン・スカルスガルド)が

母親と別れて家を離れたのは十数年前、

それ以来不在だった父親が、母の葬儀の日に突然現れ、

「おまえが主役をやってほしい」と言って

長女ノーラ(レナーテ・レインスベ)に

新作映画の脚本を渡そうとする。

 

ノーラは、古典劇で主役を張る舞台女優。

でも、舞台恐怖症もあるようで、

舞台に上がるのを拒絶したりする。

だがいったん上がってしまえば豹変し、

その演技は迫力満点。

 

そんなノーラを劇団の仲間は、

決して見捨てない。

 

  *  *  *

 

他方、著名な映画監督である父親。

長編は15年撮っていない。

それが久々に情熱を燃やし、

娘が主役になる脚本を書いた。

 

実はかつて、代表作とされる映画で

子役ながら主役(級?)をつとめたのは

次女アグネス(インガ・イブスドッテル・リッレオース)だった。

しかしアグネスは、女優の道へは進まず、

歴史研究者となって、結婚し、息子が1人。

 

かたやノーラは、いまだ独り身。

付き合う相手は妻帯者。

だが、それ以上踏み込むつもりもない。

ノーラは、自分ではそれでいいと思っている。

でもアグネスは、そんなノーラが心配でならない。

 

  *  *  *

 

ノーラは、父親が持ってきた脚本を、

読むことさえ拒絶する。

なぜ?

 

きっとノーラには、

子供の頃からたまりにたまった

父親への鬱屈・屈折した思いがあったのだろう。

 

そしてかたや父親にはそんなノーラが、

かつてファシズムと闘って逮捕され拷問までされた後、

自分がまだ7歳の時に自殺してしまった母親と重なったのだろうか。

だから自分の生涯最後の作品は、

自分の母親と重なり合うノーラにしたかった。

 

  *  *  *

 

説明は、ほとんどない。

淡々と、それぞれの生きる姿が描かれるだけ。

だがその余白に、深い思いがうかがわれる。

 

結局は、

アグネスや劇団のメンバーはもちろん、

いっときノーラの代わりとして主役を引き受けた

レイチェル(エル・ファニング)も、

そしてそもそも父親グスタフこそが、

 

ノーラを思いやる、

そしてノーラが最終的にはそのことに気づく、

 

というお話なんだろうな。

 

目を驚かすようなドラマティックな展開はないし、

教訓めいたことを声高に叫ぶわけでもないけれど、

じわりと染み入る作品でありました。