タイトル・・・静かなるドン
作者・・・新田たつお



 単行本全108巻の大河ノワールの傑作である!タイトルからわかるように極道物であるが、シリアスありコメディあり、恋愛ありと長く読んでいても飽きることはない。自分あんまり極道物は好きではないのだが、これは別である。とにかく派手な演出とありない設定にエンタティメント性を感じ、日本のマンガの質の高さを十分感じれ、なおかつ、教養性を教えられたマンガなのである。勿論、極道マンガなので陰湿なシーンや残虐描写もあるのだが、そういうのはあくまでもマンガの中の副産物の一因だけであって、物語全体を見てみると、そういうシーンも必然であることが分かり、このマンガを只の極道物だけにしていないのがよくわかる。このマンガ100巻超えをしているだけに、幾度か映像化もされているが、こちらの方は今一つ。まあ、よくあることだね!このマンガは実写化でも、アニメ化でも、マンガ自体が持つ迫力、あるいは、面白さは伝わることはなく、実際にこのマンガを全巻読破されることを、お勧めします。勿論お金がる人、このマンガに非常に興味がある人に限りますけど。かく言う自分も、このマンガを最初に読んだのは、5~6年前で、割と遅かった。しかも50巻ぐらいまで読んで、頓挫していて、全巻読んだのは、このマンガが文庫になってからのことだった。文庫になっても50巻超えで、読んでいて、自分至福の時を感じましたよ。

 で、物語であるが、主人公・近藤 静也は、昼間はプリティという下着会社のさえないデザイヤーだが、裏の顔は一万人の構成員を持つ広域暴力団新鮮組3代目総長を務める。本人はいたって、穏健派で、抗争等を嫌い、ヤクザそのものを嫌っている人物で、その穏やかな佇まいから『静かなるドン』と、呼ばれている。しかしそんな近藤に、東西を両部するもう一つの勢力・鬼州組との対立や、チャイニーズ・マフィア、アメリカン・マフィア、ロシアン・マフィアとの対決、最後にはシチリア・マフィアとの対決があったりして、策略と暴力で対抗していく。しかし、そんな近藤は、元プリティでの同僚だった秋野 明美に恋をしており、彼女と恋人になることを切に願っている。そんな近藤と秋野は最後にどうなるのか?

 と、言うのが簡単な紹介であって、とにかく物語が大河過ぎて、説明できません。後は、・・・読んでくださいな。とにかく、出てくるキャラクター達濃ゆすぎ!ではどんな連中たちが出てくのかというと、あまりにも登場人物が多すぎて、ここでは書けません。そこらへんは、ウィキペディアを参照にしてくださいな。ああっ手抜き過ぎてすみません。でも本当に、どいつもこいつも一癖二癖ある連中ばかりで、こいつらの活躍が嫌が応にも、物語をヒートアップさせているのは間違いないので。

 このマンガ、設定が非常に良いのであった。主人公の近藤は昼間はサラリーマン(しかも、下着のデザイナー)で、夜がやくざの組長。いわゆる二足の草鞋を履いているわけであるが、ここら辺が面白いのである。夜は誰もが恐れる組長、昼は先輩同僚にどつかれるさえないサラリーマン・・・実にイイ!でも実際問題二足の草鞋を履いている極道は洋の東西実在している。マフィアなんかは、表の家業はレストランのオーナーだったり、建築業の社長だったりと、表と裏の顔をはっきり区別している人たちが多い。おそらく、日本の極道の方にもこういう人たちが割といるんではないかと思う。まあ、このマンガは極端な設定にはなっているが、これはこれでよいのである。

 新選組も一枚板ではないのも、面白いし、実際に極道にあることだろう。そんな組を、一つにまとめるのは、難しいことで、これも表の社会でも裏の社会でも一緒のことだろうね!そう、トップというのは辛いものなんだよ。下剋上の激しい世界・・・そう言ってしまえば、それまでであるが、近藤はそれでも結果的に組をまとめ上げていく。さえない下着のデザイナーでも、闇の世界ではカリスマなのである。馬の目をくりぬくような世界で、飴と鞭の使い分けで、常に敵と対峙していくところは、物語の絶妙な設定で、これまた面白いのである。

 虎視眈々と立身出世を狙う幹部・生倉、ライバルの肘方、腹心の部下・鳴門そして龍宝・・・こいつらを従え、鬼州組との対決はやはり面白い。それに、ワールドワイズにアメリカン・マフィアとの対決なんかは、印象深かった。アメリカン・マフィアなんかは、日本で原爆を爆発させようとしていたのを、鬼州組と手を組み、やっつける所は、昔の日本みたいだ。知ってます?日本が占領地下、GHQなんかと極道の方々が堅気の人間を守るためにたたかった歴史がある事を。それに、有名な話にアメリカン・マフィアのラッキー・ルチアーノが政府に協力してナチスやファシストたちと戦った事も。毒を以て毒を制すとは、こういうことかも。

 近藤と秋野の関係も目が離せない。最初は、近藤の正体を知らいない秋野が裏の世界の近藤に惹かれていく。そして、次第に近藤の正体に気づく秋野だが、それでも愛は揺らぐことはない。時に危険な状況に置かれたり、ロシアン・マフィアに戦闘スキルをたたきこまれていく秋野。いつしか二人には強固な絆が結ばれていく。この二人の恋愛マンガとしても、しっかりと成立しているので。

 最初読んだ時にはおちゃらけた極道物と思っていたが、物語が進むうちに、だんだんとバイオレンスや闇社会の派閥、過激な残酷描写が深化していき、日本最長編の極道クロニクルとなったマンガであるが、自分としてはまだ、引っ張ってもらいたかったな~。だって、本当に面白いんだもん。でも、このマンガ、88‘年から13‘年まで、実に25年の長期連載になったわけであるが、そりゃー25年も描けば、さすがに新田先生でも、他にも描きたいものがあるのかもしれなかったね。

 近藤の最終的な目的は、この世からやくざをなくす事だが、それは無理というもの。古今東西、極道がいなかった歴史はないのである。旧ソ連にもいたし、アフリカの奥地にだっているんだよ。と、まあ非常にロマンチックな幻想ではあると思うが。ヤクザの世界は、しょせん一握りの奴らだけが潤い、残りは悲惨な最期を迎える者たちが多いと聞く。多分これは事実と思う。幹部の生倉のような経済ヤクザがトップになり、裏と表の境界線が薄くなるところで、繁栄する。あの名作『ゴッドファーザー』でも、ここら辺は描いてある。世の中、上の世界に行けば行くほど汚れていくのだ!近藤が1万人の構成員を束ねた新選組のように広域指定暴力団のように表に出ている方が、マフィアのように地下に潜らなくてわかりやすく、堅気の人間との棲み分けができるというものである。

 何はともあれ、ヤクザ社会をエンターテイメントたっぷりに読ませてくれる『静かなるドン』は、べつにヤクザが嫌いな人でも面白くかつ、ドキドキに感じさせてくれる名作であることを自分が保証しますよ!