「より速く、より高く、より強く」というフレーズ。これはオリンピックのモットーであるといわれます。そして、ここに我々の抱く「スポーツ」のイメージが凝縮されていると思うのです。ところが、見渡してみると「スポーツ」と「スポーツっぽいもの」が微妙に近接しながら世間にはあふれています。私はもやもやが止まりません。

 そこで今回のテーマは、「スポーツとその周辺」です。先に言っておきますが、結論はありません。落語家のマクラ話ですから。そのおつもりで、ぼんやりとお付き合いください。

カーリング、最初はびっくり

 先ごろ平昌で開催された冬季五輪。日本勢の大活躍はまだまだ記憶に新しいところです。中でも女子カーリングは「そだねー」が流行語になるほどの注目を集めました。ところで、あの競技って、最初に見たときは違和感がありませんでした?

 「これ、スポーツ、なの?」「この競技の選手も、アスリート?」みたいな。

 いやいや、もちろん立派なスポーツですよ。私も存じてます。選手も支える皆さんもリスペクトしてます。この場では、申し訳ないことに、「認められたスポーツ」と「いまだ認められていないスポーツ」の境界を語るためにとっても分かりやすい気がして例に挙げさせてもらっています。

 スポーツ競技とは、優れた身体をぞんぶんに使って、優劣を競い勝敗を決するものである、と。まあ、だいたいですがこんな共通理解でいいですよね。スポーツ選手っていったら、生まれながらの運動神経やらを備えた身体に激しい筋トレやストレッチを施して、競技スキルを果てしなく染み込ませた、トップアスリートを思い浮かべます。

 そこへいくと、カーリングの選手はどこにでもいるOLさんみたいな雰囲気で、ちょっと目を離すとみんなで輪になってイチゴだとかをもぐもぐしてる。競技自体も「速く、遠く、強く」とはほど遠い雰囲気で、ゆったりと微妙なボディーコントロールや、戦略、メンタル、チームの意思疎通。そんな方が重要に思えます。

 だからカーリングを初めて見た時は「なんだこれ。スポーツか?」と思いました。いや、でも。でも!ですよ。そんな日本代表の試合を見て応援しているうちに、いつしかあの競技は明らかに紛れもない「スポーツ」になったじゃないですか。そのあたりの、我々の中にある「スポーツ観のゆらぎ」についてお話をしたいのです。

 スポーツ種目としてのカーリングは、急速に浸透しました。じゃあ、どこまでスポーツの範疇(はんちゅう)といえるのだろうか。そんな興味がわいてきます。ボーリング、ビリヤード。さらにダーツあたりまではあっさりとスポーツに入りそうです。

では、モータースポーツはどうでしょう。カーレースや、最近ではエアレースといって飛行機を使った競技も人気のようです。うん、スポーツです。技術、集中力、ボディーコントロールを要する。スポーツですねえ。

 ではいよいよ境界線に踏み込んでいきます。囲碁やチェスといったボードゲームをスポーツとしてとらえて、将来はオリンピック種目にしようという動きがあるそうです。いわく、「マインドスポーツ」「頭脳スポーツ」。むむ、む。ということは、将棋の羽生善治永世七冠や藤井聡太六段がトップアスリートだ、ってことですか。

 うーむ。これはさすがに私の中のスポーツという範疇からは外れてしまいます。スポーツっていうからには、身体を使ってほしいじゃないですか。腕立て伏せのひとつくらいしてくれなきゃ。

 なんていう私のスポーツの観念が、古いのかと思わせるものがあります。今、世界的に「eスポーツ」というジャンルが流行っているんだそうです。かなり大規模。日本では……というかこの欄で紹介するには、まだ「知る人ぞ知る」の扱いなのかもしれませんね。ご存じない方のために手っ取り早くいうと、テレビゲームの世界選手権です。わはは。ざっくりすぎですね。私なりにいうなれば、スーパーマリオの超絶テクニックだとか、ユーチューブで見るとすごいですよね。あれの、延長上です。すさまじい延長上です。

 具体的には、チームプレーで行う対抗式の戦略ゲーム。それが、高額の賞金を争う世界大会が開催されるほどのレベルになっているのです。巨大なイベントホールにつめかけた満員の大観衆の前に、ド派手な演出とともに登場するプレーヤーたちはプロ選手です。チームごとにいくつもの企業スポンサーがついている。

 大歓声の中行われるゲームはインターネットで同時配信されて、何百万人ものファンが熱狂する。優勝賞金、広告収入、年俸もろもろ。これは架空の未来での話ではなくて、あくまでもいまの、現実の話です。

 さて、果たしてこれが「スポーツ」と呼べるのか。考えどころです。使うのは、コントローラーを扱う指先。モニターを見る目。すばやい対応。緻密な戦略を共有するための、知識、チームワーク、とっさのアイデア。よくよく見つめていると、これはスポーツであると、私には思えてくるのです。ああ、悩ましい。

 いきなり話は変わって、剣道。ここからはスポーツのようであってスポーツではない「武道」の話です。武道として剣道と並び称されてきた柔道は、今日では五輪種目としても定着してすっかりワールドワイドになりました。国際組織もできてメジャーになって誇らしい半面、日本人の手から離れてしまったような寂しい気持ちも私にはあります。勝者が敗者の目の前でガッツポーズをするのは、スポーツではあっても武道としては「あれ?」と引っ掛かるのです。

武道にはまったく違う世界

 剣道の修行に励んでいる方にお話を聞いたことがあります。広島在住の、お茶屋のご主人でした。ある達人と手合わせをしたときの話。剣道の達人とはいいながら相手は高齢者です。

 向かい合っての蹲踞(そんきょ)の姿勢からお互いが立ち上がる。すぐに竹刀の先端が触れるか触れないか、の間合いになります。ここで、我々凡人にはわからない世界ですが、「切っ先が『のる』とか『のせられる』」というやりとりがあるんだそうです。そのお茶屋さんいわく、

「その切っ先の『のる』『のせかえす』をしているだけで、とにかく圧力がすごいんです。『はあ~! 達人というのは、これほどのものなのか……』と思う間もなく、背中がドン!って。道場の壁に当たっちゃった。わかります? 下がったつもりもないのに、思わず知らずのうちに、私はずいぶん後ずさってたんですよ」

 こんな話が私は大好きで。もうひとつ剣道では、八段の世界がまた興味深いんですねえ。剣道の世界では最高段位が八段。日本の資格の中で最難関といわれるくらいです。合格率1%。司法試験よりよっぽど難しい。そして「全日本選抜剣道八段優勝大会」という格調高い大会があるんです。剣道八段、高段者だけの大会です。日ごろ全国各地で後進の指導に当たっておられるレジェンドの剣豪が、一堂に集って竹刀を交える。今年は4月に愛知県で開催されて、恩田浩司教士八段(57歳、東京・警視庁)が栄えある優勝に輝きました。これまでの大会の模様は動画サイトにもあがってます。ぜひ一度ご覧あれ。いわゆる「スポーツ」だとか「アスリート」とは全く違う世界が垣間見えるかもしれません。

 さあ、ここまできて、いよいよ話題は「相撲」になるところですが、残念ながら紙幅が尽きました。またいずれ。

立川談笑
 
1965年、東京都江東区で生まれる。高校時代は柔道で体を鍛え、早大法学部時代は六法全書で知識を蓄える。93年に立川談志に入門。立川談生を名乗る。96年に二ツ目昇進、2003年に談笑に改名、05年に真打ち昇進。近年は談志門下の四天王の一人に数えられる。古典落語をもとにブラックジョークを交えた改作に定評があり、十八番は「居酒屋」を改作した「イラサリマケー」など。
(ネット引用)

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いろんなスポーツがあります。

知らないものもあります。

カバディが出てきたときは、

ビックリでした。