僕は、月に一度は美容室へと足を運ぶ。店自体はそんなに大きくはないものの、おしゃれで雰囲気の良い店だ。僕はそんな店の雰囲気もそうなのだが、Tさんというスタイリストさんのカットが好きで、この店を選んだ。今日も、いつものように店へと入った。社会人、学生など幅広い層に人気があるようで忙しそうだった。

 席に着くと、自分の姿が鏡に映った。後ろに長身の男性Tが立つ。「今日はどうなさいますか。」僕は事前に用意しておいた紙を見ながら、事細かに指示を出す。前髪は眉下、横は耳にかかる程度、後ろはボリュームを残す、どこの部位も一センチ程切って欲しい、というものだ。さらに全体的な長さは長めで、程よくすいて欲しい、と部分だけでなく全体像にまで言及した。自分がしてもらいたいことを明確にしておけば、仕上がったとき、おおよそ注文から外れることはない。

 それから洗面台へと案内される。僕の頭皮を指の腹で丁寧に洗いながら、「かゆいところはないですか。」とスタッフが言った。僕は「とくにありません。でも、えりあしが少し気なります。」と答えた。後頭部を持ち上げ、入念にえりあしをすすいでもらった。ヘッドスパはどうかと聞かれたが、「いいえ、結構です。」と断った。洗髪が終わった。

 今回はカラーもすることにした。「今回はカラーもするんですね。」スタッフが言った。「はい。」「二カ月ぶりくらいですか。」「えぇ。」スタッフによると、カラーはおよそ2ヶ月間もつそうだ。今回は少し明るいトーンのココアブラウンにした。液を髪全体に塗っていく。塗り終わった後、25分くらい待たされた。再び洗面台へと向かう。

 明るいところが苦手な僕は、洗面台で上を向いている間、明かりを消してくれるよう頼んだ。そういった客側の要望にも応じてくれた。

 カットも大詰めを迎え、仕上げの段階へと進んだ。ボサボサで長かった髪が、美しいシルエットをなして形よく形成されていく。だんだん僕の顔に馴染んでいく。「これでいかがですか」との合図があり、「いいです。」と返事をすると、最後にワックスで決めてもらうことにした。

 いよいよ仕上げのワックスを付ける工程になった。ワックスを付けてセットするのは、僕にも自信があった。しかし、さすがプロと言うべきか、ワックスで髪の毛をセットするNのスタイリングは僕と同じくらい、いやそれ以上にうまかった。これほどうまく僕の髪のくせをいかしてスタイリングできるのは、Tしかいない。

 出来上がったシルエットに満足できた僕は、女性とデートしたい気分になっていた。