陪審評決「全員一致」改正を 米加州知事が表明 裁判効率化へ強硬姿勢
1995年7月24日

 

1996年の米大統領選に共和党から立候補を表明しているカリフォルニア州のピート・ウィルソン知事が、裁判の陪審評決での「全員一致の原則」の改正を打ち出し、波紋を呼んでいる。犯罪への強硬姿勢を強調しようという作戦だが、米国の裁判制度の根幹にかかわる問題のうえ、全米最大の州の有力知事の発言だけに、大統領選にも新たな争点を提供しそうだ。

 

カリフォルニア州では、陪審評決を出す条件を「全員一致」から「12人中10人」に緩和しようという法案が州下院に出されており、ウィルソン知事は、同法案の支持を表明した。背景には、人種的な多様化の進むカリフォルニア州、特に都市部では、価値観が複雑化し、陪審団が全員一致に到達するのは難しい、という事情がある。ロサンゼルス郡では、不一致による無効審理の割合が13.4%(全米連邦地裁平均2.65%)にも達している。

 

また、ロス市警の警官暴行事件の無罪評決が暴動を引き起こし、連邦地裁で裁判やり直しになったり、ロス郡の兄弟が富裕な両親を射殺した事件で、同兄弟が犯行を認めたにもかかわらず、陪審の意見が一致せず、結局無効審理になるなど、陪審制度のあり方が問題になっている。

 

ピート・ウィルソン知事は、1994年の知事選で、重犯罪を3回犯した場合、無条件に禁固25年から無期懲役を科すことができる「三振即アウト法」に署名するなど、犯罪への強硬策を打ち出し、当初の低支持率を逆転して当選した。大統領選でも知事選の再現を目指し、「カリフォルニア州の犯罪対策や違法移民対策を全米へ」と訴えている。今回の陪審制度の改正表明によって保守路線を競い合っている共和党各候補の中でも、さらに独自の保守色を出したい考えと思われる。

 

米国の陪審制度は、本国の英国から派遣された裁判官の独断に憤慨した移民者たちが、自分たちの代表(陪審員)が有罪、無罪を決定する権利を英国王から勝ち取ったのが起源といわれ、陪審裁判を受ける権利は、憲法でも保障されており、米国の自由と民主主義の基本と考えられている。

 

しかも有罪・無罪の評決を下す条件は、オレゴン、ルイジアナ両州(十二人中十人で評決)を除いて、全州が「全員一致」となっている。これは、有罪評決を求める検察側に厳格な立証責任を課すのが狙いで、「冤罪(えんざい)を出すよりも、有罪犯を無罪にする方がまだいい」という考えに立っている。

 

このため、陪審制度が専門のウィルミントン司法研究所のロバート・ゴードン所長は「市民の自由は何よりも重要な問題。全員一致の放棄は立証水準の低下を招く恐れがある」と述べ、カリフォルニア州の改正案が陪審制度の基本を変える恐れがあることを指摘する。


島田雄貴判決リサーチセンター