「守るも攻めるも」日鉄のUSスチール買収劇 大統領選がらみで政治問題化
米国の魂を買うことになるか 鉄鋼・不動産・映画での日米対決
「守るも攻めるもクロガネの」「鉄は国家なり」
どうも鉄(鉄鋼)と言うものは愛国心をくすぐる産業であるらしい。23年12月、「日本製鉄」(世界4位)は「USスチール」(世界22位)の買収を発表。その規模2兆円で、非上場化する方針という。USスチールは20世紀初頭、ロックフェラーが持っていた鉄鋼採掘会社などを源とする。これを聞いたとき、私は、バブルのとき三菱地所がニューヨークの「ロックフェラーセンター」ビルを買った時のことを思い出した。「ああ魂を買ってしまった」との感慨だった。映画産業も米国の誇りのはず。「ユニバーサル映画」をパナソニックが買収したのも同じ頃だ。両方ともすぐ手放して正解だった。
いくらテレビ電波を出さなくなったとはいえ、中国に東京タワーを買われたら日本人はショックだろう。中国というのは「例えば」の話である。余談だがソニーが買収した「コロンビア映画」は、そこそこ順調そうだ。映画冒頭で「女神が松明(たいまつ)を持っている」のが正に光明なのかも知れない。まさかの日本資本というわけだ。
労組は反対 白人労働者を味方につけたい大統領候補たち
話が大幅に逸れた。製鉄会社世界1は中国「宝武鋼鉄」グループ。日米の2社がくっついても生産量はその半分だが、一応世界3位の規模にはなる。発表と同時に反対を表明したのは全米鉄鋼労働組合(USW)。これに即追随したのが、共和党の大統領候補・トランプ氏だった。11月の大統領選のカギは、白人のブルーカラー労働者といわれる。まさにターゲットぴったり。ひとりで美味しい目をさせてはならじ、と民主党候補の現職バイデン大統領も反対に回ったという。これで買収劇は一気に政治問題化したわけだ。
本社のあるペンシルベニア州はスイングステート
11月の大統領選はバイデンVSトランプの「後期高齢者対決」とも噂されている。USスチールの本社があるペンシルバニア州はトランプ氏の地元。同州は「スイングステート」と言われる。全米50州のうち44から45州は「民主王国」「共和王国」とはっきり色分けされており、めったに番狂わせがない。選挙運動のしようがないともいえる。だからたった数州の「揺れる=スイングしている」州に全力が注がれるわけだ。
安全保障上の問題ってなに? 審査に乗り出す公的機関
企業買収なのに、一応安全保障上と言う意味合いもあるのか「対米外国投資委員会」(CIFIUS)という公的機関が審査をおこなうそうだ。製錬においてもCO2削減についても日本製鉄の技術力の方がはるかに上で、日本の技術が盗まれることはあっても、盗むことはないと、ある鉄鋼エンジニアはいっている。
「アメリカの魂」「アメリカ大統領選挙」、これが今回の買収劇の最大のカギになりそうだ。