長野県泰阜村は胃癌を始めとした集団検診をやめた村として有名。1984年から3年連続で、胃がんの集団検診を受けた村民が胃がんの見落としで死亡。有効性を評価せずに続けるのはおかしいと、1989年度から集団検診をやめ、訪問医療や訪問介護を充実させてきた。

1人当たり医療費が都道府県別で最も低い長野県で、泰阜村は96年度は120市町村の中で低い方から18番目、81市町村となった2006年度は42番目だった。

泰阜村で胃の集団検診廃止した網野晧之医師が自費出版した本。

網野医師は泰阜村に赴任した当時、集検に熱心な医師だった。しかし、見落とし例がでたことから疑問をもって文献を調べ、自分の頭を使って考えていき、検診には科学的根拠がないのに、上意下達的な保健行政によって始められてしまったことに気づきます。

『なぜ、村は集団検診をやめたか』

「私たちは権威ある形をとって目の前に現われたものは、たとえ仮説にすぎないものでも、認めてしまう傾向がありました。集団検診を無批判に施行していたのも、低コレステロールの勧めを説いていたのも、無意識に医学的権威に対して奴隷として従っていたこと以外のなにものでもなかったと思います」(P.73,74)

 

日本中のおおぜいの医師たちは、なぜいまだに根拠のない集団検診を行っているのでしょうか? 疑問ももたないのか? 疑問をもっても考えないのか? 考えても保身(儲け)のためになかったことにしてしまうのか? たんに長い物には巻かれろなのか? いずれにしても無責任この上ありません。意味のない(どころか害のある)集団検診を止めれば、浮いたお金を福祉に回すことができるのに。

 

「私たちは医学に絶対的信頼をおいてきました。しかし、その根拠について自らを問うことは少なかったと思います。それは常に進歩しており、真理に近づいていく日常的努力そのものが医学であるという感覚をもっていたためではないでしょうか。いつの日にか人間を病から解放してくれるという医学に、それが幻想であるとも知らず、信仰に近い依存心をもっていたのです。しかし、医学が解決した疾病は意外に少ないのです。(中略)

 

すなわち、治療が進歩していないという苛立ちが、少しでも早く疾病を発見できれば治療可能になるかもしれないという考え方を生み出したのではないでしょうか。(中略)

しかし、その根拠は皆無なのです。(中略)にもかかわらず、早期発見治療は思想として、宗教として流布されていったのです。そこには医学は進歩の途上にあるので何ら問題はないという医学崇拝、医学絶対の思想、宗教しかなく、批判精神の欠けらも見られないのです」(P.78,79)

 

医学の治せる病気はたった1割、1割は医原病(医療がつくりだした病気)、8割は自然治癒するそうです。それなのに医学・医療を信じるのはまさに「宗教」です。「宗教」から抜け出すのは至難の業であるかもしれません。しかし、「宗教」ではない科学的な医療のみが行われるようになれば、増大しつづける医療費は格段に減り、そのお金で福祉を充実させ、人間はいまよりも健康的に生活し、身も心も安らかに死ぬことができるようになると思います。

 

癌を予防するためには、一人一人が考え、自分を律し、健康的な生き方をしなければならない。自分の頭で考えて努力しなければならないから、これは難しいことである。「食べ過ぎはよくない」と頭では分かっているだろうが、それを守れる人がどのくらいいるだろうか。

それに対し、癌の早期発見、早期治療は、医師に頼ればよいからラクである。

しかし、現実の結果を見れば、そんな甘い話は通用しない。癌は早期発見早期治療すれば解決というのは幻想であり、個人個人が、癌を予防する努力をしなければならないのである。

ところが現実は、マンモグラフィ、胃バリウムなど、被爆によって癌のリスクを上げても、ストレスによってダメージを与えても、早期発見早期治療したほうがいいというかんがえかたになっている。どう考えてもおかしいではないか。

 

昨日の記事で「有効性評価に基づくがん検診ガイドライン」を紹介した。国のガイドラインとして位置づけてよいようだ。

このガイドラインでは、バリウムでの胃癌検診を推奨している。対象は、50歳以上を推奨している(うちの自治体では40歳以上を胃癌検診対象としている)。

■胃X線検査:推奨グレードB
死亡率減少効果を示す相応な証拠があることから、対策型検診および任意型検診における胃がん検診として胃X線検査を推奨します。近年、高濃度バリウムの普及後、誤嚥の報告が増加しています。不利益について適切な説明が必要です。

 

推奨する根拠の中身を読んでみる。

 

鉛筆4 件の症例対照研究と 2 件のコホート研究 を死亡率減少効果の証拠として採用した。

  • 国内で公表された症例対照研究のうち、Oshima らによる症例対照研究では有意な死亡率減少効果は認められなかっ たが、他の2件では有意な結果を得た。

(ブログ主注:ということは、2件で死亡率減少結果は見られなかったが、2件では死亡率減少結果を認めた、という意味だと思われる

  • コホート研究のうち1件では有意な結果は認められなかったが、1件では男性のみ有意な死亡率減少効果を認めた。


鉛筆「有効性評価に基づく胃がん検診ガイドライン」2005 年度版の公開以降に国内から 2 件、 国外から 1 件のコホート研究が公表された。

  • 国内 2 研究では検診群で 40%程度の胃がん死亡率減少効果を認めている。
  • 海外研究はコスタリカで行われており、複数の対照群と比較し、検診群で 40~50%の胃がん死亡率減少効果を認めている。胃 X 線検査の胃がん死亡率減少効果を示している。

胃癌によって死ななければいいという話ではない。癌の治療をすれば必ず身体に負担がかかる。胃癌で死ななくても、治療の負担で心筋梗塞で死ぬかもしれないし、脳梗塞で死ぬかもしれない。全体の死亡率を比べなければ話にならない。

鉛筆2013 年以降、X 線検査と内視鏡検査に関する症例対照研究が公表された。本研究では 1~4 年以内の X 線検査受診で 15%前後の死亡率減少効果の傾向はみられるものの、有意ではなかった(Hamashima Cほかの論文 Int J Cancer. 2013; 133(3): 653-9.。つまり1件の研究)

 

まとめると、死亡率全体を比べると、半分では死亡率が減少し、半分では減少しなかったということになる。これで、バリウム検診が有効と言えるのだろうか?恣意的に結論を出したとしか思えない。