乳がん検診は、私の自治体では、30歳代は超音波、40歳以上はマンモグラフィとなっている。

しかし、日本の、科学的根拠に基づくがん検診ガイドライン(乳がんに関しては、厚生労働省による調査研究「有効性評価に基づく乳がん検診ガイドライン2013年版」の研究結果を反映しているようだ)をみると、30代の乳がん検診は推奨していないのである。75歳以上に関しては記載がないが、75歳以上の人はやらないほうがいいという暗黙の了解であろう。

また、高齢者が癌を早期発見しても、癌の進行より寿命のほうが早かった場合、見つけなければ必要なかった苦しい治療をして身体にダメージを与えるから、高齢者はわざわざ寝る子を起こさないほうがいいことは言うまでもない。

しかし現実には、このように、学会の意見を反映せず、40歳未満でも高齢者でもがん検診を受けているのであろう。「癌は怖い」と感情に走り、健康について真面目に考えていないのである。

 

科学的根拠に基づくがん検診ガイドラインのHPより引用

 
  • マンモグラフィ単独法(40~74歳):推奨グレードB
  • マンモグラフィと視触診の併用法(40~64歳):推奨グレードB
 
  • マンモグラフィ単独法及びマンモグラフィと視触診の併用法(40歳未満):推奨グレード I

40歳未満の乳がん罹患率は低く、死亡率減少効果を検討した研究もほとんどありません。このため、死亡率減少効果を判断することはできません。従って、推奨グレードIと判断し、対策型検診としての実施は推奨しません。任意型検診として実施する場合には、死亡率減少効果が不明であり、不利益が大きいことについて適切な説明を行うべきです

 

■視触診単独法:(40歳未満):推奨グレード I

十分な研究が行われていないため、死亡率減少効果を判断することはできませんでした。従って、推奨グレードIと判断し、対策型検診としての実施は推奨しません。任意型検診として実施する場合には、死亡率減少効果が不明であることと不利益が大きい可能性について適切な説明を行うべきです。ただし、視触診が適正に行われるための精度管理ができない状況では実施すべきではありません。

 

■超音波検査(単独法・マンモグラフィ併用法:(40歳未満):推奨グレード I(以下略)

推奨グレードについての説明

A    利益(死亡率減少効果)が不利益を確実に上回ることから、対策型検診・任意型検診の実施を勧める     推奨する    
B    利益(死亡率減少効果)が不利益を上回るがその差は推奨Aに比し小さい。      推奨する    

C   利益(死亡率減少効果)を示す証拠があるが、利益が不利益とほぼ同等か、その差は極めて小さい ことから、対策型検診として勧めない。
D    利益(死亡率減少効果)のないことを示す科学的根拠があることから、対策型検診・任意型検診の実施を勧めない
不利益が利益(死亡率減少効果)を上回ることから、対策型検診・任意型検診の実施を勧めない    推奨しない    

I    死亡率減少効果の有無を判断する証拠が不十分であるため、利益と不利益のバランスが判断できない。このため、対策型検診として実施することは勧められない。 任意型検診として実施する場合には、効果が不明であることと不利益について十分説明する必要がある。推奨しない    

日本乳がん学会のガイドラインを見ると、若年者のマンモグラフィ検診は推奨していないが、超音波でのスクリーニングについてはノーコメント。超音波で引っ掛けても、マンモグラフィに進むかどうかは医師の判断なので、不必要なマンモグラフィをやらなければ問題ないという理屈かもしれないが、小林麻央さんの件があったので、現実には、超音波で引っ掛けてしまったら、マンモグラフィ過剰診断を行う症例が激増するであろう。

 

なお、アメリカでは、40歳代の女性に対する乳がん検診が「推奨しない(グレードC)」に変更された。放置しても臨床的に問題にならない癌があることをきちんと述べている。

日本人は、このような理性的な検討ができない。

 

日本乳がん検診学会のHPより引用

2009年11月、米国予防医学専門委員会は、それまで「40歳以上の女性に対して、乳がん検診の1~2年に1回の受診を推奨する」としていた推奨(グレードB)を、「40歳代の女性に対しては、マンモグラフィを用いた定期的な乳がん検診を行うことを推奨しない」(グレードC)を発表しました。
推奨グレードがBからCに変更された理由として、検診による利益(乳がん死亡率減少効果)は不利益(要精検の結果、がんではなかった人に対する不必要な検査や放置しても臨床的に問題にならないがんに対する治療等)が存在し、利益と不利益を比べた場合に50歳代以上の女性と比較して、40歳代では利益が不利益を上回る度合いが小さいことが挙げられています。
この専門委員会の勧告に対し、米国対がん協会は、40歳代に対しても引続きマンモグラフィによる乳がん検診を行うとして、専門委員会の勧告に反対する意見を表明しています。