週刊ゲンダイオンラインより

 

新潟大学医学部教授の岡田正彦氏(65歳) 続き

ところが日本では、いまだに検診は有効だと盲信され、国を挙げて推奨されています。

それはなぜかというと、ひとつはビジネスマター、つまり金儲けをする手段として検診がもてはやされているということ。

もう一つは「検診は有効だ」という、人々の深い思い込みによります。なくてもいいという発想そのものを持っていないのです。

検診を推奨しているのは国やマスコミであるが、一番悪いのは、癌が手遅れで見つかったら、「早く見つけていれば」という発想をし、早期治療したら人生がうまくいくものと勝手に妄想する一般人の頭だと思う。本当にそうなのか調べもしないのである。

だいたい、80代90代になって、自治体が盲目的に送付してくるがん検診を受ける高齢者がたくさんいるが、そういう人達の気がしれない。送る方も送るほうだが、受ける方んも受ける方である。そんな歳で無症状の癌を早期発見してどうする気なのだろう。

医者の側にも問題があります。医療が細かく専門化した結果、自分の領域しか知らない医者ばかりになり、検診が他の領域に及ぼす影響まで思いが至らなくなっているのです。

また、医者はこれまで自分のやってきたことが正当だったと信じたいため、検診に否定的な論文を目にしても、それは例外だと自分自身にも言い聞かせ、患者さんにもそう伝えるのです。

だから、がん検診を受けても寿命は延びないし、かえって苦しい思いをしたり、がんを発症させたりする可能性があるという事実が、患者側には一切伝わってこないのです。

そういうことは、個人個人が問題意識を持って、自主的に追究することである。本やマスコミを通じて、がん検診のデメリットを訴える医師はたくさんいる。「がん検診で寿命が延びないことがあるはずがない」「何かあったらどうするのか」「がんを早期発見したら安心できる」と感情に走って、理性的に考えようとしないのは、一般人側である。

こういったケースは、がん検診だけに限ったことではありません。人間ドックに入れば、ありとあらゆる検査の中で何らかの病気が見つかりますが、その中には無理に治療が必要でない微細な病気も多く、結果的に過剰医療に繋がって身体にダメージを与えてしまう恐れがあります。

そもそも、人間ドックという言葉があるのは日本だけ。推奨している国も他にはないのです。

また糖尿病の検査にも身体に悪いものがあります。ブドウ糖負荷試験という検査方法で、75gのブドウ糖を飲んで血糖値を計るのですが、これは5g入りのコーヒー用スティックシュガー15本分の糖分に相当します。これを一気に飲むのですから、糖尿病体質の人にとっては、発病の後押しをするようなものです。

そもそも、この検査をしなくても早朝空腹時の血糖値を計れば必要なデータが得られるということは、外国の調査研究で15年も前に明らかになっています。

日本の糖尿病の診断基準があり、血糖やHbA1C等だけで糖尿病と診断できないが、糖尿病の疑いがある患者に対し、75gブドウ糖を飲ませて、血糖の推移を調べる。この検査で正常域に入れば、今のところ糖尿病ではないと診断される。

しかし、この検査にまわるような患者は、糖尿病予備軍であり、いずれは高率に糖尿病に移行する。糖尿病と診断されようとされまいと、このような人達は、生活習慣を改めて、血糖に気をつけなくてはならない。そして、糖尿病の人に必要な生活習慣というのは特殊なものではない。

ちなみに、ブドウ糖75gという量について。

甘い飲みものは糖分が多く健康に悪いというのは常識である。

ボトル炭酸飲料500ml:40~65g

コーヒー缶コーヒー190ml:2~13.5g

栄養ドリンクスポーツドリンク500ml:20~34g

ロックグラス果汁100%ジュース500ml:50~60g

いかに多いか想像できるのではないだろうか。

75gブドウ糖負荷試験は、糖尿病の診断をつけることに熱中して、肝心要の「健康的な生活をすること」すなわち「どんな人でも、糖分を摂りすぎたら健康に悪い」ということを忘れているようである。